非浸潤性乳管がんの新コンセンサスガイドライン

プレスリリース

外科腫瘍学会(SSO)、米国放射線腫瘍学会(ASTRO)、米国臨床腫瘍学会(ASCO)が非浸潤性乳管がんにおける全乳房照射併用の乳房温存手術での断端に関する共同声明を発表

米国のがん主要3学会は、本日、全乳房照射併用乳房温存手術を受ける非浸潤性乳管がん(DCIS)女性を治療する医師のためのコンセンサスガイドラインを公表した。新しいガイドラインにより、多くの女性が不必要な手術を回避でき、医療費も削減できる可能性がある。

外科腫瘍学会、米国放射線腫瘍学会、ASCOは、新しいガイドラインをそれぞれの学術誌、Annals of Surgical Oncology誌、Practical Radiation Oncology誌、Journal of Clinical Oncology誌に同時に発表した。

3学会は、「全乳房放射線照射(WBRT)併用の非浸潤性乳管がんにおいて、断端2mmを適切な断端の基準とすることで、乳房内のがんの再発率は低下します。また、再切除率の低下、美容的転帰の改善、医療費の減少も期待できます。断端2mm未満が陰性の患者においては、再手術が必要かどうかの判断は臨床で行うこととなります。断端が2mmを超えて陰性であっても乳房内のがんの再発率がさらに低下することはなく、慣習的に行われていることを支持するエビデンスはありません」と結論づけた。

Susan G. Komenから助成金の支援を受け、外科腫瘍学会はガイドライン構想の先頭となり、3学会による専門委員会を設立した。委員会には、非浸潤性乳管がんの最適な断端陰性の幅を明確に示す新ガイドライン作成を提唱する臨床医、研究者、および患者が含まれた。

断端の幅を判定する際、病理医は切除した組織の外表面にインクで色をつける。断端がクリア、陰性、きれいとは、切除組織の外側のインクがついた部分にがん細胞がないことを意味し、断端陽性とは、インクのついた組織までがん細胞が広がっていることを意味する。2010年の調査では、外科医の42%が断端2mmを推奨し、48%はさらに広い断端を支持していることが明らかになった。

これまでは、非浸潤性乳管がんの手術を受けた女性の約3人に1人が再切除を行っているが、これは、適切な断端陰性についてのコンセンサスが得られていないことも原因の一つである。再切除を行うことで、不快感の増加、手術による合併症、美容的転帰の不良、患者や家族へのさらなるストレス、医療費の増加が考えられる。またこのことは、患者が両乳房切除術を選択することにもつながっている。

「本ガイドラインのためのエビデンスを得るために既刊文献の再検討を行いましたが、そこから得られた重要な知見は、断端幅が2mm(約8分の1インチ)より広くても、乳房部分切除術および全乳房照射を受けた非浸潤性乳管がん女性の乳房内での再発リスクは減少しないということです」と元外科腫瘍学会会長で委員会の共同議長でもあるスローンケタリング記念がんセンターの外科部門、乳腺科に所属のMonica Morrow医師は述べた。

外科腫瘍学会、米国放射線腫瘍学会、ASCOによるコンセンサスガイドライン作成のための委員会は、断端幅と乳房内でのがんの再発との関連について、7,883人の患者が参加した30の試験や、他にもこの問題に関連のある試験を再検討した。

「本ガイドラインは、非浸潤性乳管がんの手術を受ける女性に対する医師のケアの質を向上させ、最終的には患者の転帰を改善させることを目標の2本柱としています。また、本ガイドラインによって、今後の手術が必要ないかもしれないことを知った女性の不安を解消できればと思います」とテキサス大学MDアンダーソンがんセンターに所属し、ASCOを代表として委員会のメンバーとなっているMariana Chavez-MacGregor医師は述べた。

Morrow氏は、断端陰性の女性が再切除をするよう言われた場合、どういった根拠で医師が再切除を勧めるのかを尋ねるよう忠告した。

米国放射線腫瘍学会の理事会の前議長であるBruce G. Haffty医師は、この新しいガイドラインは、これまでに公表されている基準に基づくもので、非浸潤性乳管がん女性における断端の幅に苦慮する臨床医にとり有益なものになるだろうと語ったうえで、「本ガイドラインは3学会共同の重要なもので、腫瘍外科医、腫瘍内科医、放射線腫瘍医や病理医、統計学の専門家といった多くの専門分野にわたる委員によるものです。ガイドラインは、解釈においてある程度の柔軟性を持たせ、臨床での判断を可能としていますが、非浸潤性乳管がん患者において、断端の幅は2mmが適当であるという結論は、臨床医と患者にとって臨床での意思決定の際、有用で信頼できるものとなるでしょう」と述べた。

「本ガイドラインは、女性が最善で最適な乳がんケアを確実に受けるためにわれわれが共同で行った作業において、さらなる重要な一歩です」とSusan G. Komenの会長兼最高経営責任者であるJudy Salerno医師・理学修士は語った。また、「われわれは、資金面や、この議論に患者の視点を加えることで委員会を支援できたことを光栄に思います。そして、患者と医師の両者が、十分な情報をもとに治療の決断をし、再切除が減少することを望みます」と述べた。

本研究は、委員会の共同議長であるMorrow氏と米国放射線腫瘍学会代表でエール大学医学大学院、放射線治療科のMeena S. Moran医師により行われた。本ガイドラインは米国乳腺外科医学会の承認も得ている。

コンセンサスガイドラインMargins for Breast-Conserving Surgery with Whole Breast Irradiation in Ductal Carcinoma In Situの全文は以下の学術誌を参照のこと。

Annals of Surgical Oncology

Practical Radiation Oncology

Journal of Clinical Oncology

翻訳担当者 成宮眞由美

監修 小坂泰二郎(乳腺外科/順天堂大学附属練馬病院)

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原文掲載日 

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