さまざまながん種にBRAF阻害剤は有望:「バスケット」試験
MDアンダーソン OncoLog 2016年6月号(Volume 61 / Issue 6)
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革新的な「バスケット」試験で、さまざまながん種に対してベムラフェニブを検討する
ある革新的な臨床試験により、多種のがんにおけるBRAF阻害が有望であることが示されつつある。この成果は、活性型(がんの原因となる)遺伝子異常を有するがん治療開発法を変える一助になるだろう。
約15%のがんにBRAF変異がみられるが、これらの約70~90%はBRAF V600点変異である。BRAF V600変異は、悪性黒色腫(メラノーマ)において最初に発見され有効な治療標的となった。非小細胞肺がん(NSCLC)、大腸がん、胆管がん、甲状腺乳頭がん、多発性骨髄腫、ヘアリー細胞白血病においても報告されている。今回、がん種ではなく遺伝子異常に基づいて患者を登録する最初の多施設共同試験の1つで、BRAF阻害薬ベムラフェニブは多くのがんでBRAF V600変異を標的としうることが明らかになってきた。この薬剤は進行悪性黒色腫を適応としてすでに承認されている。
「私たちは、悪性黒色腫で行ったように、他のがんでもこの遺伝子変異を狙い撃つ方法を知りたかったのです」と、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターのDepartment of Investigational Cancer Therapeutics(がん治療開発科)助教で、試験責任医師であるVivek Subbiah医師は述べた。「これらのがん種で有望な有効性の徴候がみられれば、必ず別の試験でそれを探究できると考えられます」。
「バスケット」試験デザイン
伝統的な臨床試験では、腫瘍の原発部位と組織亜型に基づいてがん患者を登録する。この手法には、BRAF阻害薬を検討する場合、少し問題がある。BRAF異常は、悪性黒色腫の約半数およびヘアリー細胞白血病のほぼすべてに生じているが、どちらかといえば希少がんである。よくあるがんでも臨床試験に十分な数の患者を集めるのはきわめて困難である。
Subbiah医師らが見つけた答えとは、「バスケット」デザインを用いることだ。このデザインを用いれば、一つの試験で多くの異なるがん種の患者群から治療反応性を評価できる。高い奏効率を示した試験群を拡大するためにさらに多くの患者を登録し、また奏効率が低い群は試験からはずすことができる。こうして薬剤から最も利益を受ける集団に的をしぼることが可能になる。
「バスケット試験では、多数のがん種を対象にできるため15もの異なる試験をデザインする必要はありません」とSubbiah医師は述べた。「私たちの試験が示した一つの重要な点は、バスケットデザインは多施設で使えるということです。この試験の前には、この方法で十分な患者登録ができるかどうかわかりませんでした」。
Subbiah医師らが第2相試験を開始して以来、バスケットデザインは、がんの分子標的薬の早期試験においてますます増加している。Subbiah医師はこの趨勢が続くことを期待している。「このタイプの試験は、腫瘍発生と進展の複雑な生物学に対する私たちの理解を深めることができます」とSubbiah医師は述べた。「これでいくつかのがんにおいて可能性が開けるかもしれません。従来の治療で効果がなかった患者を助ける本当に良い機会です」。
初期の結果は有望である
第2相試験の患者122人の予備的結果が昨年8月New England Journal of Medicine誌に発表された。この試験ではBRAF V600陽性の患者をがん種(NSCLC、卵巣がん、大腸がん、胆管がん、乳がん、多発性骨髄腫、その他すべて)に応じて各群に登録した。ベムラフェニブはこれらのうち2群に特に有効であることが明らかになった。NSCLC患者19人のうち、8人(42%)が完全奏効または部分奏効となり、無増悪生存期間の中央値は7.3カ月であった。エルドハイム–チェスター病またはランゲルハンス細胞組織球症(2つ共まれな樹状細胞障害)の患者14人のうち、6人(43%)が完全奏効または部分奏効となった。さらに、これら14人は治療期間中の原病進行がなく、その期間は5.9カ月であった。
「興味深いことがこの試験でみられました」とSubbiah医師は述べた。「肺癌のような多くみられる疾患、そしてランゲルハンス細胞組織球症のようなまれな疾患でも、BRAF変異があればベムラフェニブで治療ができるのです」。
大腸がんにはベムラフェニブ単独では治療効果がない(10人で奏効なし)が、ベムラフェニブとセツキシマブ(上皮成長因子受容体[EGFR]阻害薬)を併用すると治療効果がみられた。MAPKおよびEGFRシグナル伝達経路がベムラフェニブおよびセツキシマブにより遮断されると、進行が早いBRAF V600陽性大腸がん患者27人の約半数である程度の腫瘍退縮(完全奏効または部分奏効ではないが)がみられ、1人では部分奏効の規準を満たすに十分な退縮がみられた。これらの知見は、BRAF V600陽性大腸がんの生物学的高悪性度と治療抵抗性を強く示している。
「どのがんがBRAF阻害薬による治療に奏効するのかを知るだけでなくどのがんが奏効しないのかを知ることが重要で、奏効しない場合はなぜ奏効しないのかを知る必要があります」とSubbiah医師は述べた。
さらに、甲状腺未分化がん患者7人中2人が完全奏効または部分奏効となった。「甲状腺未分化がんはこれまでに知られている疾患のなかで最も手ごわいものの1つです」とSubbiah医師は述べた。「この疾患の患者は通常6カ月以上生存できません。甲状腺未分化がん患者の部分集団ではBRAF V600変異がみられ、そのうち一部の患者が私たちの試験でBRAF阻害薬療法に奏効しました。これが、この疾患の他の患者においてもこの標的を追求する動機になりました」。
For more information, contact Dr. Vivek Subbiah at 713-563-0393.
Further Reading
Hyman DM, Puzanov I, Subbiah V, et al. Vemurafenib in multiple nonmelanoma cancers with BRAF V600 mutations. N Engl J Med. 2015;373:726–736.
【画像キャプション訳】
ベムラフェニブによる治療の前(左)と2カ月後(右)に撮った陽電子放射断層撮影(PET)画像。化学療法歴がないBRAFV600陽性非小細胞肺がん患者において腫瘍縮小(矢印)が示されている。
画像はVivek Subbiah医師の厚意による。
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