HER2陽性乳がん脳転移にマウスで長期寛解した薬剤併用療法

ダナファーバーがん研究所

転移性乳がんの多くの病態に対し治療は進歩しているにもかかわらず、乳がんが脳に広がった場合、薬剤の効果は限定的である。しかし今、ダナファーバーがん研究所の研究者らは、マウスでHER2陽性乳がんの脳転移を長期寛解した標的薬の併用療法について報告している。

Nature Medicine誌電子版で本日発表された研究結果は、HER2陽性乳がんが脳に転移した患者に対する2剤併用療法の臨床試験を加速させる、と研究者らは述べる。

ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)タンパク質を過剰発現するHER2陽性乳がんは、全乳がんの約20%を占める。「この形態の乳がんに対して効果的な薬剤はいくつかあります」と、本研究の統括著者であるダナファーバーがん研究所のJean Zhao博士は述べる。「しかし多くの患者で、病気は体の他の箇所に転移します。これらの転移性がん の多くは薬剤投与でコントロールできますが、脳への転移は例外でした」。

本研究は、経験や忍耐、幸運(それらはしばしば科学を前進させる)が重なって2剤併用の結果を導いた。腫瘍増殖の抑制が期待できる薬剤の試験から始まり、それらの薬剤が効果的でないと証明されても継続し、研究者らが絶対にうまくいかないと予想した組み合わせを試した時に、驚くべき成功に至った。

歴史的に、脳転移に対するより良い治療の主な妨げとなってきたのは血液脳関門であった。これは高密度細胞から成る目の詰まった「壁」で、多くの薬剤分子が血流から脳に通過するのを阻む。脳転移を有するHER2陽性乳がんの動物モデルが存在しないことが、問題をより複雑にしていた。そのようなモデルなしに新たな治療法を研究することは困難であった。

Zhao博士と共同研究者らは、5人のHER2陽性乳がん患者の脳転移の移植片でモデルを作ることから始めた。移植片の分析により、それらはもとの患者の腫瘍の遺伝的特徴を保持していることがわかった。

研究者らは、血液脳関門を通過し、がん細胞増殖に関わる分子経路に作用する4つの標的薬を単独または併用でテストし、マウスに対し有効なものがあるか確認した。テストした薬剤のうちの2つ、HER2経路を標的とするラパチニブ(タイケルブ)と、PI3K経路を阻害するBKM120は、時々脳転移患者に効果が見られる。研究者らは、mTOR 経路を阻害するRAD001(エベロリムス)と、MEK経路を標的とするMEK162もテストした。

ラパチニブは、単独でもBKM120との併用でも、動物の腫瘍に何の効果も示さなかった。研究者らは次にラパチニブとRAD001の併用療法を、その後BKM120とMEK162の併用を試したが、同様な期待外れに終わった。最後に、他の組み合わせと比較するための「陰性対照」(反応が期待できない治療)として、BKM120とRAD001を併用した。

全く予想に反して、BKM120/RAD001タンデムは、5種類中3種類の動物モデルに腫瘍の長期寛解をもたらした。反応を示さなかったモデルの腫瘍のゲノム解析では、それらは特にDNA修復に関する遺伝子において非常に多数の遺伝子変異を伴っていることがわかった。これは、特に不安定で急速に変化するゲノムを持つ腫瘍は、この併用療法に対して強い可能性が高いことを示唆している。

「半数ものHER2陽性乳がん患者 は、原発腫瘍 の治療に成功した後でも、脳転移に進行します」とZhao博士は述べる。「そのような患者に対する長期治療法が不足している現在、このレジメンが有効だと示すバイオマーカーを含む腫瘍組織を持つ患者において、BKM120/RAD001併用の臨床試験を早急に展開することを推奨します」。

本研究の筆頭著者は以下のとおりである:Jing Ni, PhD, and Shaozhen Xie, PhD, of Dana-Farber, and Shakti Ramkissoon, MD, PhD, of Dana-Farber and Brigham and Women’s Hospital。共同統括著者は以下のとおりである:Eric P. Winer, MD, Nancy U. Lin, MD, and Keith L. Ligon, MD, PhD, of Dana-Farber. The co-authors are Shom Goel, MD, PhD, Daniel G. Stover, MD, Hanbing Guo, Victor Luu, Eugenio Marco, Lori A. Ramkissoon, PhD, Yun Jee Kang, Marika Hayashi, Quang-De Nguyen, PhD, Guo-Cheng Yuan, PhD, Zhigang C. Wang, MD, PhD, J. Dirk Iglehart, MD, Ian E. Krop, MD, PhD, and Thomas M. Roberts, PhD, of Dana-Farber; Azra H. Ligon, PhD, and Rose Du, MD, PhD, of Brigham and Women’s Hospital; Brian M. Alexander MD, of Dana-Farber and Brigham and Women’s Hospital; and Elizabeth B. Claus, MD, PhD, of Brigham and Women’s and Yale University School of Public Health。

本研究は、乳がん研究基金(the Breast Cancer Research Foundation)、Aid for Cancer Research、Komen Scholar助成金、衛生研究所(助成金R01 CA187918、 CA172461、1K08NS087118、P50 CA165962、P01 CA142536、 1P50CA168504)による支援を受けた。

翻訳担当者 田中深代

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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