早期乳がん患者に対する短期放射線治療の推奨
MDアンダーソンの研究者は従来の手法よりも寡分割照射を推奨
MDアンダーソンがんセンター ニュースリリース
原文掲載日 :2016年6月15日
早期乳がん患者に対する全乳房照射において、短期間に高線量の放射線治療を施行した場合と、長期にわたり低線量の放射線治療を施行した場合とで、整容性、機能性および疼痛に関する転帰が経時的にみてほぼ差がないことが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者によって報告された。
Cancer誌に発表されたこの試験では、いずれの照射スケジュールでも、患者の報告による機能状態と乳房の疼痛に有意な改善がみられたが、医師の報告による整容性評価においては有意差が認められないことがわかった。著者らは、治療スケジュールの利便性向上と転帰に差がないことを受けて、患者に短期放射線治療を優先的に推奨している。
米国では従来、短期間に高線量を照射する寡分割全乳房照射(HF-WBI)より、長期にわたり低線量を照射する通常分割全乳房照射(CF-WBI)が用いられてきた。
カナダと英国で実施された大規模ランダム化試験では、早期乳がん患者の大半に、寡分割全乳房照射が安全かつ効果的であることが裏づけられている。また、著者らは、以前に発表した研究で、寡分割全乳房照射を受けた患者の方が通常分割全乳房照射を受けた患者よりも、急性毒性および照射後の倦怠感が少なかったことを明らかにしている。
ところが、米国では、寡分割全乳房照射が標準治療として確立されていないのが現状である。研究者らは現に、米国放射線腫瘍学会(ASTRO)が現在推奨する寡分割全乳房照射を実際に受けるのは、患者の1/3にすぎないことに言及している。
放射線腫瘍学部門のレジデントで、筆頭著者のCameron Swanick医師は以下のように語る。「米国の臨床医のなかには、寡分割照射を採用することを依然として躊躇する向きもあることから、この試験はとりわけ重要なものであると言えます。米国人患者は肥満傾向が強く、以前の試験ではBMIが高い患者を一部除外していたため、短期放射線治療は米国人患者に対して安全ではないとする懸念が存在しています」。
この前向き非盲検試験では、ステージ0~IIの乳がん患者287人を通常分割全乳房照射群(149人)と寡分割全乳房照射群(138人)の2群に無作為に割り付けた。全患者に、腫瘍床を標的として高線量の照射を追加する「ブースト照射」を実施した。「ブースト照射」については、寡分割全乳房照射を検討した以前の試験で体系的な解析はなされていない。
この試験では、半分以上の患者がMDアンダーソンがんネットワークから登録された。MDアンダーソンのほか、同団体のヒューストン地区、フロリダ州オーランドのOrlando Health(前MDアンダーソンOrlando)およびアリゾナ州ギルバートのBanner MDアンダーソンから患者が登録されている。
放射線腫瘍学部門の准教授Benjamin Smith医師は、「ネットワークを対象に実施された医師主導型のランダム化試験としては、今回が初の試験となります。われわれの協力者が示してくれた支援、われわれの使命を果たすにあたってネットワークが示した可能性や将来性、強みを以て、試験が成功したと言えます」と語った。
試験参加者はいずれも40歳以上で、以前に乳房温存手術を受けていた。全患者の76%がBMIから過体重または肥満とされた。研究者らは、整容性や機能性をはじめとするQOLの評価に関して、妥当性が検証された手段を用いて患者自身による評価(PRO)を収集し、さらに医師が治療後の整容面にみる効果を評価した。治療開始時、治療後6カ月、1年、2年および3年の時点で評価を実施した。
「治療開始時、治療後6カ月、1年および3年の時点で、両群の患者自身による評価にはいずれも有意差は認められませんでした。治療後2年の時点で、乳がん治療に関する機能評価(Functional Assessment of Cancer Therapy Breast(FACT-B))の試験評価尺度から得られた評価では、寡分割照射群の方がわずかに高い得点を示しました」とSwanick医師は語る。
いかなる時点でも、医師による整容面のスコアに有意差は認められなかった。このほか、両群ともに、乳房の疼痛および機能面の評価に経時的な改善が報告された。
研究者らは腫瘍制御に関する転帰を追跡しているが、これまで生存率に大きな差は認められていない。この試験では、最新の追跡観察の時点で全患者の3年を通じたデータがそろっていないなど、いくつかの制約がある。患者がいずれも3年間の追跡期間を終了した時点で、結果が残らず報告されることになっている。ほかにも、患者と医師がともに治療群に対して盲検化されておらず、結果の報告をゆがめる可能性がある。
今回と以前の試験結果を併せて、早期乳がん患者に対する放射線療法に寡分割全乳房照射を優先的に用いることの利点をなおも裏づけるものとなっており、「この短期放射線治療は、MDアンダーソンではすでに標準治療となっています」とSmith医師は説明する。
Smith医師は現在、全乳房照射に関する米国放射線腫瘍学会のガイドライン委員会を率いており、今回のものを含めたデータが、早期乳がんに対する科学的根拠に基づいた治療ガイドラインを確立するにあたり裏づけとなることを期待している。
Swanick医師およびSmith医師のほか、MDアンダーソンの著者は以下のとおりである。Xiudong Lei, Ph.D., Health Services Research; Simona F. Shaitelman, M.D., Pamela J. Schlembach, M.D., Elizabeth S. Bloom, M.D., Eric A. Strom, M.D., Welela Tereffe, M.D., Wendy A. Woodward, M.D., Ph.D., Michael C. Stauder, M.D., and Thomas A. Buchholz, M.D., all of Radiation Oncology; Michelle C. Fingeret, Ph.D., Behavioral Science; and Alastair M. Thompson, M.D., Breast Surgical Oncology.
他の著者は以下のとおりである。Tomas Dvorak, M.D., University of Florida Health Cancer Center at Orlando Health.
本研究はCareer Development Award from the American Society of Clinical Oncology Conquer Cancer Foundationから支援を受け、Breast Cancer Research Foundationから資金提供を受けた。
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尾川 愛 訳
中村 光宏(医学放射線/京都大学大学院医学研究科)監修
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原文
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