65歳未満の若い患者の多くに終末期でも積極的な治療が行われている

プレスリリース

ASCO2012のChoosing Wisely(「賢い選択」キャンペーン)の「トップ5」推奨事項(日本語訳)の推奨にもとづく変化が臨床現場で見られず

米国臨床腫瘍学会(ASCO)の見解

「終末期のケアは患者個々人の状況により大きく異なるもの。ホスピスを含めた緩和ケアは、最良のサービスの一つでありながら、最も利用されていないサービスでもある」と、ASCOの緩和ケア専門委員で、消化器腫瘍内科医のAndrew Epstein医師は言う。「終末期ケアには画一的なアプローチはなく、また画一的であってはいけない。治療のそれぞれの段階で、患者と医師が費用や副作用も含めて、治療の利益とリスクのバランスについて注意深く話し合う必要がある。腫瘍医としての私達の最終的なゴールは、患者が最後の段階であっても、最良の生を出来る限り長く生きる手助けをすることだ」。

2007年から2014年までの、2万8000人を超える患者の医療保険請求データを分析したところ、進行した固形がん患者の大部分が、死亡直前の30日間に少なくとも1回は何らかの積極的な治療を受けていたことが明らかになった。

この研究は、本日の記者会見で取り上げられ、2016米国臨床腫瘍学会(ASCO)年次総会で発表される。

積極的治療のうち、もっとも一般的な形態は入院または医療救急室の利用で、65%の患者にあてはまった。またホスピスケアを利用した患者は、5人に1人にも満たなかった。積極的治療の追加的な測定基準として、化学療法、放射線療法、および集中治療室(ICU)の利用なども調べた。

著者によれば、この研究は65歳未満(非高齢者医療保険対象者)の若年層患者の終末期ケアを調べた大規模、かつ初めての研究である。

2012年に発表されたASCOのChoosing Wisely(「賢い選択」キャンペーン)の「トップ5」推奨事項(日本語訳)では、治療から利益を受ける見込みのない進行性の固形がん患者に対しては、がんを排除する、進行を止める、遅らせるといったがんそのものに対する治療はすべきでないと強く表明し、その代わりに患者の症状に対処する緩和ケアを中心とすることを推奨した。Choosing Wiselyからの推奨事項が発表されて3年近くたつにもかかわらず、今回の分析ではがん治療(化学療法と放射線療法)およびホスピスケアの利用率が以前と同様だったことがわかった。

「患者が死の直前を迎える時期を予測するのは難しいものの、患者を病気そのものの治療から症状に対処する終末期ケアに、早めに切り替えていくようにする必要がある」と、主著者でノースカロライナ大学チャペルヒル校の放射線腫瘍科の准教授であるRonald C. Chen医師は話す。「患者によっては、終末期でも集中治療が適切な場合もある。それでも患者と医師の両者に対し、目的と期待について十分に対話するよう啓発しなければならない」。

この研究について

研究者は米国の異なる地域の14州で、民間の医療保険に加入している28,000人以上の患者について、死亡する直前30日の保険請求データを分析した。この研究には65歳未満で、転移のある肺がん、大腸がん、乳がん、膵臓がん、または前立腺がんで、2007年1月から2014年12月までに死亡した患者が含まれた。

今回の分析の目的に照らし、積極的治療には医療処置(例として生検)およびがんに対する治療(放射線および化学療法)、入院、救急医療室、集中治療またはICUの利用、および病院での死亡を含めた。こうした対応は積極的な医療処置であり、これらを終末期に実施することは、患者にとって不利益をもたらす可能性がある一方で、患者が利益を受ける可能性は低いと専門家の間で広く認識されている。

著者によれば、本研究には下記を含むいくつかの制約がある。

• 患者の死亡原因は不明である(がん、あるいは受けた治療と関連しない場合もある)
• 研究者は、死の直前30日間に積極的治療を行った理由を特定する医療記録を見ていない。

主な結果

5種類のがんすべてにおいて、患者が死亡直前の30日間に受けた積極的治療で最も多くみられたのは、入院または救急医療室の利用(患者の62-65%)だった。さらに30%-35%の患者は、自宅ではなく病院で死亡していた。

著者によれば、これは患者が死の直前であっても、自宅で行うことが多い症状への処置ではなく、積極的な医療行為を求め続けていることを示している。患者の死亡直前30日間に関するその他の知見には、以下が含まれる。

• ホスピスケアの利用率は、わずか14-18%だった。
• 化学療法の利用は24-33%の範囲だった。
• 放射線療法は6-21%の範囲で使われており、患者の25-31%には侵襲的治療が行われていた。
• 5人に1人に近い割合の患者(16-21%)が、集中治療またはICUへの受け入れが行われていた。

終末期ケアに関するASCOの推奨は、初回のChoosing Wiselyキャンペーンの中で、再考されるべき検査や治療の「トップ5」の一つにあがっている。推奨内容は、一般状態不良(歩行が困難で、一日のほとんどをベッドや椅子ですごしているなど)、過去に受けた科学的根拠に基づく治療では利益を受けない、臨床試験の対象にならない、これ以上のがんに対する治療を行っても臨床的意義を示唆する明確な証拠がないという患者を対象にしている。こうした患者には、がんに対するさらなる治療は有効でない可能性が高いため、患者の生活の質を向上させ、場合によっては生存を延長させるために、患者が悩まされている症状や懸念に対処する緩和ケアに重点を置くべきである。

こうしたASCOの推奨内容が発表されてから32カ月が過ぎたが、研究者は5つのすべてのがんで、積極的医療ケアの利用率がほとんど変っていない(70-75%)ことを明らかにした。分析の対象期間におけるホスピスケアの利用も低いままで、5種類のがんで同様だった(14-18%)。

「ASCOの推奨は、終末期における積極的なケアを減らすための重要な第一歩だった。私達の研究結果は、ガイドラインを推奨するだけでは、臨床現場に広く変化をもたらすには不十分であることを示した。特に緩和ケアとホスピスに関して、医師と患者をさらによく教育し、こうしたケアをもっと利用しやすくする必要がある」と、Chen医師は話した。

この研究は、North Carolina Translational and Clinical Sciences(NC TraCS)研究所から資金提供を受けた。

抄録の全文はこちら

1https://www.asco.org/latest-news-releases/asco-publishes-top-five-list-opportunities-improve-quality-and-value-cancer, Accessed May 12, 2016.

翻訳担当者 片瀬ケイ

監修 東 光久(総合診療、腫瘍内科、緩和ケア/福島県立医科大学白河総合診療アカデミー)

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原文掲載日 

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