胸部放射線治療をうけた小児がん患者において、特定の遺伝子変異体が乳がん発現のリスクに影響する可能性

2016年4月16~20日開催の米国がん学会(AACR)年次総会で発表された研究によると、小児がんに対する治療の一部として胸部放射線治療を受けた患者のうち、2つの特異的な遺伝子変異体のいずれかを有する女性では、後年乳がんを発症するリスクが有意に高かった。

メリーランド州ベセスダにある米国国立がん研究所(NCI)がん疫学・遺伝学部門放射線疫学部の主任研究員であるLindsay M. Morton博士は、「治療の一部として胸部放射線治療を受けた小児がんサバイバーの女性は、放射線治療を受けなかったサバイバーよりも後年乳がんが発現するリスクが高いことはすでに確証されています」と述べた。「私たちは、遺伝的感受性変異体が乳がん発現に影響があるのかどうか、また、どんなサバイバーに影響を及ぼすのかの調査に着手しました」。

Morton博士らは、ゲノムの2領域における特異的な変異体が、10グレイ(放射線線量の単位)以上の胸部放射線治療を受けた小児がんサバイバーにおいて、後の乳がんリスクの上昇に関連していたことを発見した。各リスク対立遺伝子のコピーでは、1番染色体のq41の変異体はほぼ2倍のリスク上昇に関連し、11番染色体のq23の変異体は3倍以上のリスク上昇に関連する。

Morton博士は、「各リスク対立遺伝子のコピーで乳がんリスクが有意に上昇したにもかかわらず、胸部放射線治療を受けなかったサバイバーの間では影響がないようでした」と述べた。「これはディスカバリー研究のため、別の集団において今回の知見を再現することが非常に重要です」。

「その知見が確認されれば、私たちは小児がん診断時に放射線治療の有益性とリスクをより正確に特定できるようになります」と博士は付け加えた。「さらに、すでに治療を受けた患者に対しては、今回の結果を活用して乳がんを発現するリスクが最も高いサバイバーを特定することができるため、スクリーニングが最大の効果を表す可能性があります」。

今回の研究では、St. Jude Children’s Research Hospital、Childhood Cancer Survivor Study およびSt. Jude Lifetime Cohortの試験責任医師らが追跡調査する2つの独立するコホートに登録されている小児がんサバイバー女性3,002人の血液検体や唾液検体から採取したDNAゲノム解析を実施した。これらのコホートの小児は、中央値で25年間追跡調査されており、207人が乳がんと診断されていた。

Morton博士によると、調査対象母集団規模は、リスク低下に関連する可能性があるゲノム領域を特定して統計的に証明するのに十分な数ではなかった。博士はまた、今回の研究における別の制約として、サバイバーが診断された乳がんのタイプに関する情報を得られなかったことにも言及した。

本試験は以下の助成を受けた:the Intramural Research Program of the National Institutes of Health, the National Cancer Institute, the Leukemia & Lymphoma Society, and the American Lebanese Syrian Associated Charities。Morton医師は利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 太田奈津美

監修 河村光栄(放射線腫瘍学、画像応用治療学/京都大学大学院医学研究科)

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