変化に対処する―最新の研究データは進行中の臨床試験にどう影響するか

米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

がん分野の第3相臨床試験では、多くの場合、新規治療を既存の標準治療と比較する。科学の急速な進歩に伴い、ある試験計画を別の研究結果が追い越すことがあり、その時は新規治療を含めた試験の再調整が必要となる。

試験の再計画が必要となった進行中の例では、最近開始された臨床試験で、NCI資金提供のECOG-ACRIN Cancer Research GroupによるEA1131試験がある。乳がんの中でも最も治療が困難なことで有名な型、トリプルネガティブ乳がん女性を対象にした試験である。この試験では、手術前に化学療法を受けたものの(術前化学療法と呼ばれる)、手術の時点で胸やリンパ節内にがんが残っていることが確認された(残存病変)女性を対象とした。試験の初期計画では、手術の後に術後化学療法を行う群か追加治療を行わない群に、患者を無作為に割り付ける予定であった。これは2015年5月の試験開始の時点で標準治療であった。

患者の登録を開始してからまもなく、日本と韓国の共同臨床試験CREATE-X(Capecitabine for Residual Cancer as Adjuvant Therapy)から、意外な結果が発表された。この試験は、術前化学療法の後に残存病変を有したホルモン受容体陽性またはトリプルネガティブ乳がんの女性などを対象とし、カペシタビンによる術後化学療法を行う群か、追加治療を行わない群かのどちらかに無作為に割り付けた。

CREATE-Xの結果は2015年12月に開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウムにて発表され、カペシタビンによる治療を受けた女性は、追加治療を受けなかった女性と比べて、無再発生存期間が長かったことが明らかとなった。CREATE-Xの結果は、最新の併用化学療法後の手術の時点で乳がんが残った女性に対し、有望な治療選択肢を提示した。

CREATE-Xの結果は、まだ査読誌に掲載されていない。しかし、この患者群におけるカペシタビンの印象的な第一報を受けて、NCIおよびECOG-ACRIN試験代表者らは、一時的にEA1131試験を休止し、CREATE-X試験の利用可能データの慎重な見直しをすることが最善であるとした。交絡因子の一つとして、日本人はカペシタビン代謝の仕方が白色人種と異なっているため、米国で利用されている用量よりも、この薬剤に対して耐量が高い可能性がある。われわれは、米国の用量レベルを検討する時にこの要因を考慮にいれている。

われわれの取り組みはまだ完了していないが、この試験で、プラチナ製剤による術後化学療法が追加療法をしない時と比較して優れているかどうかの検討は行わないことを決めた。それに代わり、プラチナ製剤による化学療法対カペシタビンという2通りの術後化学療法を比較することにした。

この春試験が再開した時、もともと参加していた患者はそのまま参加を継続して良いが、医師と新たな情報についての話し合いは必要であろう。

現在、術前化学療法後に残存病変を有する乳がん女性に対するカペシタビンは、FDAに承認されていない。現在治療を受けている女性(この臨床試験以外で)に対しては、この薬剤をFDA認可外として使えるが、保険会社がこの条件において保険適用としない可能性がある旨を伝えるべきである。

CREATE-X試験の結果は、EA1131に対するだけでなく、他の進行中の試験に対しても影響を与える可能性がある。例えばNCIは、トリプルネガティブ乳がんの女性に対してチェックポイント阻害剤Pembrolizumab[ペンブロリズマブ](商品名:Keytruda[キートルーダ])の試験を行なっている。最初の試験コンセプトでは、過去にカペシタビンによる術後化学療法を受けた患者は試験に適格ではないとしていた。しかし、期待の高まる免疫療法の薬剤に関して、今は試験の適格基準を拡大し、そのような患者が参加することも検討中である。

米国外で行われた試験結果に関するこの再調査は、NCIがん治療評価プログラムで長い間存在したプロセスの一例にすぎない。われわれは、試験に影響を与え得る新しい情報に迅速に対応できるよう備えており、必要があれば試験プロトコルを修正することが可能である。

今回のケースのように、新しい情報を織り込むために改正をする間、試験を一時的に休止することはまれなことであり、新しいデータの信頼性が高い場合にのみ適用される。常に、われわれの取り組みの中心となるのは、安全かつ有効である新しい治療を効率的に患者に届けることである。

【画像キャプション訳】
Jo Anne Zujewski医師、Breast Cancer Therapeutics代表 NCIがん治療評価プログラム

翻訳担当者 平沢紗枝

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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原文掲載日 

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