若年の乳がん患者の中でBRCA遺伝子検査の検査率が上昇

米国国立がん研究所(NCI)ブログ~がん研究の動向~

新たな研究によると、乳がんリスクの上昇と密接に関わる遺伝子変異を調べる検査の検査率が、乳がんと診断された40歳以下の女性で劇的に増加した。

全体的に、Young Women’s Breast Cancer Studyに参加した女性の87%が診断後1年以内にBRCA1およびBRCA2遺伝子の変異を調べる検査を受けた。遺伝子のいずれかに変異があると、乳がんの生涯リスク、若年時の乳がん発生リスク、および卵巣がんの生涯のリスクが上昇する。

検査を受けた女性の割合は7年の研究期間内で徐々に増え、乳がんと診断された女性の検査率は、2006年の約77%から2013年ではほぼ100%に至った。

Shoshana Rosenberg理学博士(ダナファーバーがん研究所所属)の研究班が行った研究報告は、JAMA Oncology誌2月11日号に掲載された。

現在のBRCA検査の傾向

有害なBRCA遺伝子変異の存在は、患者の治療法決定に影響を及ぼすだけでなく、患者の家族にも関わりが生じてくる。そのため、医師は乳がんと診断された若年女性に対しBRCA遺伝子検査を受けるよう勧めることが多い。

過去に行われたいくつかの研究結果によると、乳がんと診断された若年女性のBRCA遺伝子検査の受診率は約20~25%であった、とRosenberg博士の研究班は記している。

だが、BRCA遺伝子検査自体の特許に関する訴訟問題、また2013年5月に女優のアンジェリーナ・ジョリーが有害なBRCA1遺伝子変異を有していたことを知り(ジョリーは乳がん率の高い家族歴があったため検査を受けた)予防的両側乳房切除術を受けたことを告白したこともあり、BRCA遺伝子検査の認知度が上がり、ここ数年で注目を集めてきた。

今回の研究では、2006年8月から2013年12月の間に乳がんと診断され、計11の大学病院ないし地域の医療センターで治療を受けた40歳以下の女性約900人が対象となった。

研究開始後の2年間で、診断後1年以内に検査を受けた患者は70~80%であった。その後、その割合は飛躍的に上昇し、2012年と2013年ではごく一部を除くすべての患者が検査を受けた(検査率はそれぞれ96.6%と95.3%)。また約80%は診断後3カ月以内に検査結果を知ったと答えた。

「社会的認識が上がったことで医師に遺伝子的リスクの問題を相談する傾向が高まり、結果として検査率が上がったのかもしれません」と、Rosenberg博士はニュースリリースで述べた。

検査を受け陽性ないし陰性の判定(一部は判定不能)を受けた女性のうち約30%は判定後に治療が変わったと報告した。その中で、BRCA遺伝子変異が陽性だった女性の86%は、患側乳房のみの切除ではなく患側と健側両方の乳房切除を受け(両側乳房切除術)、また53%は卵巣と卵管も切除した(卵管卵巣摘出術)。

遺伝子変異が陰性の女性でも50%強が両側乳房切除術を受けた。だが、卵管卵巣摘出術を受けたのはごく少数であった。

BRCA検査を受けなかった女性のうち約半数は、自分には遺伝子変異がないだろうと思っていたり、主治医が変異はないだろうと考えたため検査を受けなかった、と答えた。

この研究結果は、地域の医療機関で治療を受けている若年女性のBRCA遺伝子検査の検査率を反映していないだろう、と著者は記している。

例えば、研究に参加した患者はほぼ全員が医療保険に加入し、また全員が「総合的な遺伝子カウンセリングと遺伝子検査がいつでも受けられるがんセンターで治療を受けている」ためだと著者は述べている。

「地域の医療現場では、患者は医療保険や検査費用に対する懸念がより強い傾向にあります。そうした状況ではBRCA遺伝子検査の検査率が低くなる傾向にあるはずです」と、Lyndsay Harris医師(NCIがん治療・診断部門所属)は語った。

地域の医療現場ではBRCA遺伝子検査を勧めることに対する意識が低くなっているのではないか、とHarris医師は続けた。

多重遺伝子検査と治療法の選択

JAMA Oncology誌の同研究に対する論説の中で、Jeffrey Weitzel医師(カリフォルニア州ドゥアーテ、City of Hope Cancer Center所属)の研究班は、より多くの乳がんと診断された若年女性が推奨された遺伝的な乳がんのリスク評価を受けていたことを知り「報われた」と述べた。

だが、知見は肯定的なことばかりではないと話を続けた。

「検査を受けなかった48%の女性については、本人やその主治医がBRCA遺伝子の変異はないだろうと考えていたことをほのめかしたのが気がかりです」と述べた。

またHarris医師は、特にBRCA遺伝子変異が陰性の女性が高い割合で両側乳房切除術を受けていることに触れた。

「BRCA遺伝子変異を有する人であっても、定期検診と予防薬が非常に有効なのです」と同医師は語った。「ですから、患者が治療の選択肢に関して受ける説明にバイアスがかかっているのではないか、という疑問が浮上します」。

著者は、BRCA遺伝子変異は陰性だが両側乳房切除術を受けた患者の数が比較的多いことに同意し、「遺伝子変異を有さない患者は対側の乳がん発生リスクが比較的小さく、また両側乳房切除術が生存期間の改善と関連性がないということについて、さらに話し合う必要があると考えられます」と述べた。

乳がんと診断された女性は他の遺伝子検査にも適用が拡大しているとWeitzel医師の研究班は述べた。

研究により乳がん発生リスクの上昇との関連性が示されたBRCA遺伝子変異以外の遺伝子変異検査においても、次世代シークエンシングは「新たな時代のさきがけとなる」と記した。

研究に参加した女性の中には、多重遺伝子検査の1つを行うことで、たとえばp53がん抑制遺伝子など、両側乳房切除術の「考慮をする根拠となる」のに十分なほどリスクを上昇させる遺伝子変異が検出されていたかもしれない、と述べた。

しかし、「現時点で多重遺伝子パネルに含まれている遺伝子で表現率が中等度から低度のものについては、両側乳房切除術の根拠とするほどのリスクには達しない」と研究班は忠告した。

画像訳
乳がんリスクの判定:BRCA1およびBRCA2遺伝子の変異の発見が、乳がんと卵巣がんのスクリーニングと治療法の決定によい影響を与えた。

翻訳担当者 渋谷武道

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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原文掲載日 

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