術前化学療法後の標的腋窩リンパ節郭清により、乳がんリンパ節転移の腋窩評価の正確性が向上

新たな手術法で特定の患者群に対する侵襲的手術の必要性が減らせることがMDアンダーソンがんセンターの研究により明らかに

テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの外科医が開発した新たな手術法により、リンパ節転移陽性乳がん患者の腋窩の評価と病理診断がより正確になり、体が衰弱するような合併症を伴う侵襲的な手術の必要性が減るという。

Journal of Clinical Oncology誌に掲載された今回の研究により、リンパ節転移陽性乳がん患者の一部に対する施設の治療ガイドラインが変更され、標的腋窩リンパ節切除術(TAD:Targeted Axillary Dissection)を実施することになった。

TADでは、センチネルリンパ節に加えて、最初の診断時(化学療法前)にがん転移が認められたリンパ節の摘出を行う。最初の診断時にがん転移のあるリンパ節には、後に行われる手術で同定できるようにクリップをつけておく。

毎年、乳がん女性の6万人以上が腋窩リンパ節に転移があると診断されている。このような患者に対する標準治療は、最近まで、脇の下の完全な腋窩リンパ節郭清であった。

ALNDは、乳がん患者にとって回復が非常に困難な手術の一つで、生涯に渡る影響を及ぼす可能性もある、とMDアンダーソンがんセンター乳腺外科助教授で、今回の研究の筆頭著者であるAbigail Caudle医師は説明する。患者はしびれや、リンパ浮腫(しばしば体を衰弱させるほどの腕の腫れ)のような合併症を経験することがある。

しかし、手術の前に、「術前化学療法」を行うことで、こういった患者のうちおよそ40%で、リンパ節に転移の所見が見られなくなる、すなわち、がん転移のないリンパ節を切除するための侵襲的な手術の必要はなくなるはずだということが、研究によって明らかにされている。

「化学療法が手術前に行われることが多くなれば、リンパ節の転移がなくなる可能性がより高くなり、外科医は広範囲にわたるリンパ節の手術を行う必要がなくなります」と、Caudle氏は説明する。

外科医が化学療法によってリンパ節が変化した患者を同定する方法がなかったため、今まであまりに多くの女性がより侵襲的な手術を受けてきたという問題に取り組む必要がある、とCaudle氏は述べる。

いくつかの研究では、1個または数個の主なリンパ節のみを摘出する低侵襲なセンチネルリンパ節郭清(SLND)は転移状態の評価に有望であることが示されたが、センチネルリンパ節切除のみでは10~15%の女性で残存病変を見逃すことがある。これは偽陰性率(FNR)と定義される。

「今までリンパ転移陰性となった患者さんを確定する良い方法がなく、あまりに多くの女性が不要な手術の対象になっています」「私たちの研究では、がん転移があったとわかっているリンパ節に狙いを定めて、選択的に切除、検査を行うことで、願わくは、化学療法で全てのがんを消せていた場合にはさらなる手術を回避するという、新たな方法を見つけたいと考えました」と、Caudle氏は言う。

今回の単施設前向き試験には、腋窩リンパ節転移を有する208人の乳がん女性が登録された。診断時に初めて超音波検査と生検を行う際に、放射線科医が、転移のあるリンパ節にクリップを留置した。その後化学療法を行った。

手術中に標的リンパ節の位置を特定するため、手術前日にクリップしたリンパ節に小線源を挿入した。手術中には、病理医がクリップリンパ節と他のリンパ節との関連を確認するため、病理診断を行った。

分析で明らかになったことは以下のとおり。

・登録患者のうち、191人が腋窩リンパ節郭清(ALND)を行い、そのうち120人(63%)で残存病変が確認された。115人の患者では、クリップリンパ節に転移が判明し、偽陰性率は4.2%であった。

・センチネルリンパ節郭清および腋窩リンパ節郭清を施行した患者118人において、偽陰性率は10.1%であった。残存病変があった69人のうち7例が偽陰性であった。クリップリンパ節の評価を加えることで、偽陰性率は1.4%に減少した。

・患者208人のうち96人は標的腋窩リンパ節切除術(TAD)を施行し、そのうち85人は、腋窩リンパ節郭清(ALND)も行い偽陰性率を調べた。偽陰性率は2.0%であった。
研究者らは、患者の23%で、切除したクリップリンパ節がセンチネルリンパ節ではなかったことに注目している。これは化学療法前にがん転移が判明したリンパ節が、センチネルリンパ節の切除のみでは見逃され、検査されない可能性を示唆している。

「今回の試験により、腋窩リンパ節転移ありと診断され、術前化学療法を施行した最大40%の女性が、広範囲で、多くの場合身体に負担となる手術を回避できる可能性が示されました」と、乳腺外科教授の、Henry Kuerer医学博士は述べた。「私たちの研究結果は、すでに判明している病巣を特異的に標的にし、患者さんの合併症を軽減したという点において、”Precision surgery(精密手術)”の典型です。

これらの結果をうけて、MDアンダーソンの乳腺外科医たちは、研究チームと共に施設の治療ガイドラインを変更した。初期症状でリンパ節転移が3個以下の女性に対して、クリップリンパ節またはセンチネルリンパ節に転移がみられなくなった場合にはさらなる手術が省略できるように、標的腋窩リンパ節切除術(TAD)を考慮する。これらの結果から、研究者らは、リンパ節転移が少ない女性に対するTADの推奨を、米国のガイドラインが強化していくように期待している。

この試験は継続中であり、いつの日か、より進行した腋窩転移のある患者がこの手術法を行えるように、MDアンダーソンのネットワークグループや認定パートナーメンバーへと研究規模をさらに拡大していく予定である。

この研究結果は第68回外科腫瘍学会年次がんシンポジウムで発表された。

MD Andersonがんセンターが行った研究に参加した、Caudle氏、Kuerer氏以外の共著者は下記のとおりである:Wei T. Yang, M.D., professor and chair, Radiology; Savitri Krishnamurthy, M.D., Breast Surgical Pathology; Kelly K. Hunt, M.D., chair ad interim, Breast Surgical Oncology; Elizabeth A. Mittendorf, M.D., Ph.D., Dalliah M. Black, M.D., Gildy V. Babiera, M.D., Isabelle Bedrosian, M.D., Sarah M. DeSnyder, M.D., Rosa F. Hwang, M.D., all with Breast Surgical Oncology; Michael Z. Gilcrease, M.D., Pathology; Brian P. Hobbs, Ph.D., Biostatistics; Beatriz E. Adrada, M.D., Rosalind P. Candelaria, M.D., Basak E. Dogan, M.D. and Lumarie Santiago, M.D., all of Diagnostic Radiology – Breast Imaging; Simona F. Shaitelman, M.D., and Benjamin D. Smith, M.D., Radiation Oncology; and Mariana Chavez Mac Gregor, M.D., Health Services Research.

本研究は、部分的にCancer Center Support Grant、米国国立衛生研究所(NIH)(P30 CA 16672, CAO 16672)、Mike Hogg Foundation、MDアンダーソンがんセンターClinical Innovator Awardから資金援助を受けた。

いずれの共著者も関連のある開示はない。

翻訳担当者 相葉沙枝

監修 高野利美(腫瘍内科/虎の門病院)

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