米国臨床腫瘍学会(ASCO)が乳がん治療後ケアに関するガイドラインを公表

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米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、米国がん協会(ACS)と共同で乳がんサバイバーのための治療後のケアに関する最新版のサバイバーシップ・ガイドラインを公表し、その詳細がこのほどJournal of Clinical Oncology誌に掲載された。 今日、米国には約310万人の乳がんサバイバーがいると推定され、さらに、現時点で乳がんと診断されている患者の90%は診断から5年後も生存していると予測されている。そのため、乳がんサバイバーの生活の質(QOL)を向上し、社会の一員として生活を続けることができるよう、乳がんサバイバーが抱える固有の問題に取り組むことが課題となっている。 乳がんの治療法は幅広く、乳がんのタイプ、転移の範囲、危険因子や年齢によりその選択肢は異なるが、各治療法にはそれぞれに特異的に存在する長期的な問題が付随しており、そのリスクが上昇するため、治療後のケアに関するガイドラインは、患者ごとに高度な個別化がなされている。 ガイドラインの刷新はプライマリー・ケア、婦人科、腫瘍外科、腫瘍内科、放射線腫瘍科、看護科の専門家により構成された委員会により行われる。委員会には、広範囲にわたる文献調査を実施し、今後取り組むべき問題を特定し、乳がんサバイバーをケアする医療提供者に対し経過観察について提言する役割がある。 今回の重要な点として、下記の推奨項目が挙げられる。

▪ 治療終了後に実施する問診と診察の頻度は、各患者の状況により決定すべきである。

▪ 医療提供者は内分泌療法を受けている患者には、同療法への長期的な遵守を奨励すべきである。

▪ 治療終了後、再発の有無を検査するため、健側の乳房、および乳がん発症後に乳房切除術ではなく部分切除術を受けた乳房に対し、毎年マンモグラフィー検査を実施すべきである。

▪ 再発のリスクが高く、MRIの実施が妥当とされる場合を除き、乳がん再発検査を目的としてMRIを実施すべきではない。

▪ 再発の有無を調べるための臨床検査は推奨されない。

▪ 特定のがんの家族歴が強い患者や60歳以下のトリプル・ネガテイブ乳がん患者に対して、遺伝カウンセリングを提供するべきである。

▪ 乳がん以外のがん検診については、一般向けの検診推奨内容に従って実施するべきである。

▪ うつ状態、不安、苦痛、整容性の問題、性に関する悩み、人間関係の変化、社会的役割に関わる問題、雇用問題、経済的問題など、心理社会的要素に対処すべきである。

▪ 選択的エストロゲン受容体調節薬による治療を受けている閉経後の患者に対し、婦人科検診を毎年実施すべきである。

▪ ホルモン療法を受けている、または、化学療法誘発性閉経を迎えた女性患者に対し、骨密度測定を2年毎に実施すべきである。

▪ 広範囲の手術またはリンパ節切除を実施した場合や、治療の一部に放射線療法が含まれていた場合は、リンパ浮腫の予防やリンパ浮腫専門医への紹介についても検討すべきである。

▪ 受胎能力の温存を希望する閉経前の患者に対し、妊娠に関する問題について話し合う機会を提供するべきである。

▪ 再発の徴候や症状に関するカウンセリングを実施するべきである。

▪ 治療の種類により大きく影響を受ける次の身体機能について調べるべきである: 神経障害、疼痛、疲労、認知機能の低下または変化、循環器疾患、ほてり、早発閉経。

▪ 多種の慢性副作用のリスクや重症化を避けるため、運動、栄養、禁煙などの健康的習慣を呼びかけるべきである。

▪ 個々の患者の危険因子や乳がんの治療法に応じて治療後ケアの計画を立て、実践すべきである。

▪ 長期的な副作用が認められたサバイバーについては、副作用の重症化を予防し、最小限に抑えるため、適切な専門医を紹介すべきである。

本ガイドライン最新版の詳細情報は下記をご参照ください。 Journal of Clinical Oncology:

http://jco.ascopubs.org/content/early/2015/12/07/JCO.2015.64.3809.full

医療提供者への質問および実施の可能性があるフォローアップ検査についての説明など、乳がんサバイバーのフォローアップに関する患者用手引きは下記をご参照ください。 Journal of Clinical Oncology:

http://www.cancer.net/research-and-advocacy/asco-care-and-treatment-recommendations-patients/follow-care-breast-cancer.

身体機能の変化や心理社会的問題を感じている乳がんサバイバーの方は、QOL向上のために医療提供者へ相談し、適切な支援や情報を受けるようにしましょう。

参考文献: Runowicz C, Leach C, Henry N, et al. American Cancer Society/American Society of Clinical Oncology Breast Cancer Survivorship Care Guidelines. http://jco.ascopubs.org/content/early/2015/12/07/JCO.2015.64.3809?jco-home. Accessed January 19, 2016.


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翻訳担当者 山口真奈美

監修 小坂泰二郎(乳腺外科/順天堂大学附属練馬病院)

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