非浸潤性乳管がん(DCIS)に対するホルモン療法の種類は、QOLが決定の助けとなる

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非浸潤性乳管がん(DCIS)を有する60歳以上の閉経後女性において、治療に伴う生活の質(QOL)の問題やさまざまな副作用によって、最適なホルモン療法の種類が決まる場合もある。この結果がこのほどLancet誌で発表された。

乳がん全体のおよそ75%を占めるホルモン受容体陽性乳がんは、女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンへの曝露による刺激を受けて増殖する。

この女性ホルモンの曝露からがん細胞を遮断する薬剤は、ホルモン受容体陽性患者の治療において重要な要素である。

これらの薬剤は、種類により異なる機序で抗腫瘍作用を発揮する。閉経後の女性における本疾患の治療では、アナストロゾールなどのアロマターゼ阻害剤やタモキシフェンなどの抗エストロゲン剤が最もよく使われる。

過去の研究結果によると、60歳以下の早期ホルモン受容体陽性乳がん女性患者においては、アナストロゾールなどのアロマターゼ阻害剤は、タモキシフェンよりも優れた効果を示し、60歳以上の患者は、どちらの治療効果も同等であることが示されている。

QOLや症状の重症度は、薬剤の種類で異なるが、その他にも患者の健康問題(合併症)、他に服用している薬剤との相互作用、副作用による深刻な病状のリスク、年齢、副作用の忍容性などの変数にも左右される。

このほど、米国乳がん・大腸がん術後補助療法プロジェクト(National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project : NSABP)に所属する研究員らは、DCISを有する閉経後の女性を対象として、アナストロゾールとタモキシフェン投与後のQOLと症状の違いを評価した。

この試験は、NSABP B-35試験に参加したDCIS閉経女性患者1,193人を組み入れた。2003年~2006年の間、患者に対して乳房部分切除と放射線療法を行い、その後5年間、アナストロゾールまたはタモキシフェンのいずれかを投与した。

QOLの問題を評価するため、ベースライン時と治療開始から6年間、6カ月に1回の頻度で患者に質問票による調査を行った。

質問票では、アナストロゾールまたはタモキシフェンを投与した時のそれぞれの症状と重症度を患者に評価してもらった。

・全体的な身体の健康、心の健康、活力、倦怠感、落ち込み等の症状すべてにおいて、アナストロゾール投与患者とタモキシフェン投与患者の間で有意差がなかった。

・血管運動症状(閉経に関連した寝汗、ほてり、顔面紅潮、気分の変動等)、膀胱調節障害、婦人科症状においては、タモキシフェン投与患者で有意に重症度が高かった。

・筋肉痛や関節痛、また膣の症状は、アナストロゾール投与患者で有意に重症度が高かった。

・60歳未満の患者は、60歳以上の患者と比べて、血管運動症状、膣の症状、体重の問題、婦人科症状の副作用において、有意に重症度が高かった。

以上の結果、60歳以上の患者においては、タモキシフェンとアナストロゾールの有効性が同等であることを踏まえ、患者にはそれぞれの薬による健康への深刻な悪影響と症状のリスクを伝えて、治療法を決定すべきであると結論づけた。

また、60歳未満の患者の場合、治療法は有効性で決定すべきであるが(アナストロゾールを推奨)、アナストロゾールの副作用に耐え難い場合、タモキシフェンへ切り替えるのもよい代替案であると述べた。

ホルモン受容体陽性乳がん患者は、それぞれのホルモン療法による治療効果と危険性、また薬剤の影響によるQOLの問題について、主治医と話をする必要がある。

参考文献:
Ganz P, Cecchini R, Julian T, et al. Patient-reported outcomes with anastrozole versus tamoxifen for postmenopausal patients with ductal carcinoma in situ treated with lumpectomy plus radiotherapy (NSABP B-35): a randomised, double-blind, phase 3 clinical trial. The Lancet. Published online December 10, 2015. Available at: http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(15)01169-1/abstract. Accessed January 24, 2016. DOI: http://dx.doi.org/10.1016/S0140-6736(15)01169-1


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翻訳担当者 江澤逸子

監修 原 文堅(乳腺科/四国がんセンター)

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