Atezolizumabとアブラキサンの併用治療はトリプルネガティブ乳がんの新規治療法として有望

キャンサーコンサルタンツ

治験薬アテゾリズマブ[atezolizumab]を化学療法薬剤ナブパクリタキセル(アブラキサン)と併用すると、トリプルネガティブ乳がんの患者に高い抗腫瘍効果が認められる。2015年度サンアントニオ乳がんシンポジウムにて、このような結果が、このほど発表された。

乳がんの約10~20%は、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)とされている。この種の乳がんはホルモン、HER2ともに陰性である。

ホルモン受容体陰性乳がんとは、エストロゲンとプロゲステロン両方の受容体が陰性の乳がんのことである。すなわち、この種の乳がんは、女性ホルモンのエストロゲンやプロゲステロンへの曝露による刺激を受けて増殖するのではない。ホルモン受容体陰性乳がんは、乳がん全体のうちわずか約3分の1以下である。

乳がんの約25~30%はヒト上皮成長因子受容体(HER)2陽性とされており、がん細胞の遺伝子変異をともなうため、がん細胞表面に過剰のHER2受容体が発現する。HER2経路は細胞の増殖と複製に関与しているため、HER2受容体が過剰に発現すると複製が制御不能になり、HER2受容体陽性がん細胞が増殖する。

HER2受容体陰性乳がんとは変異型のHER2経路をもたないがんであり、過剰のHER2受容体の活動により刺激されて、複製増殖するのではない。

HER2受容体陽性乳がんとともに、ホルモン受容体陽性乳がんを対象とする治療選択肢は多いが、このような治療はTNBCには無効であるため、新しい治療選択肢や、この種の乳がんに対する薬剤の最適な組み合わせを発見する研究が現在進行している。

TNBCの典型的な標準治療は外科手術、化学療法や放射線療法だが、TNBCに対する最適な化学療法レジメンについては引き続き研究が進められている。

最近、治験薬アテゾリズマブとナブパクリタキセルの併用治療の有効性を調査する臨床試験が実施された。

アテゾリズマブは、免疫チェックポイント阻害剤と呼ばれる薬剤である。この薬剤は、免疫系ががん細胞を脅威として認識するのに役立ち、その結果がんに対する免疫攻撃が開始される。

今回の臨床試験は、進行TNBC女性患者を対象とした。

・アテゾリズマブとナブパクリタキセルによる抗腫瘍効果は、患者全体の70.8%で得られた。

・進行TNBCに対する治療歴がない患者のうち、アテゾリズマブとナブパクリタキセルによる抗腫瘍効果は、患者全体の約89%で得られた。

・ナブパクリタキセル単剤で治療を受けた患者の結果と比較した場合、ナブパクリタキセルへのアテゾリズマブ併用による重大な副作用は増加しなかった。

研究の結果、アテゾリズマブとナブパクリタキセルの併用療法は、進行TNBC女性患者に高い抗腫瘍効果があると結論づけられた。このように有望な結果が得られたため、この併用治療を評価する第3相臨床試験が開始された。

参考文献:
Adams S, et al. Safety and clinical activity of atezolizumab (anti-PD-L1) in combination with nab-paclitaxel in patients with triple-negative breast cancer. Proceedings from the 2015 annual San Antonio Breast Cancer Symposium. Presented December 10, 2015. Abstract number: 850477.


  c1998- CancerConsultants.comAll Rights Reserved.
These materials may discuss uses and dosages for therapeutic products that have not been approved by the United States Food and Drug Administration. All readers should verify all information and data before administering any drug, therapy or treatment discussed herein. Neither the editors nor the publisher accepts any responsibility for the accuracy of the information or consequences from the use or misuse of the information contained herein.
Cancer Consultants, Inc. and its affiliates have no association with Cancer Info Translation References and the content translated by Cancer Info Translation References has not been reviewed by Cancer Consultants, Inc.
本資料は米国食品医薬品局の承認を受けていない治療製品の使用と投薬について記載されていることがあります。全読者はここで論じられている薬物の投与、治療、処置を実施する前に、すべての情報とデータの確認をしてください。編集者、出版者のいずれも、情報の正確性および、ここにある情報の使用や誤使用による結果に関して一切の責任を負いません。
Cancer Consultants, Inc.およびその関連サイトは、『海外癌医療情報リファレンス』とは無関係であり、『海外癌医療情報リファレンス』によって翻訳された内容はCancer Consultants, Inc.による検閲はなされていません。

翻訳担当者 三木村 秋

監修 原 文堅(乳腺科/四国がんセンター)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

乳がんリスク評価ツールの仕組みの画像

乳がんリスク評価ツールの仕組み

2024年3月、女優のオリヴィア・マン(Olivia Munn)が乳がんと診断されたことを発表した。Munnさんはまた、がんリスク評価ツールが彼女の診断に至る過程で果たした役割を強調し...
ハイリスク遺伝子を有する若年乳がんサバイバーの生殖補助医療は安全の画像

ハイリスク遺伝子を有する若年乳がんサバイバーの生殖補助医療は安全

ハイリスク遺伝子があり、乳がん後に妊娠した若い女性を対象とした初の世界的研究によれば、生殖補助医療(ART)は安全であり、乳がん再発リスクは上昇しないハイリスク遺伝子があり、乳...
【ASCO2024年次総会】T-DXd(エンハーツ)がホルモン療法歴のある乳がん患者の無増悪生存期間を有意に改善の画像

【ASCO2024年次総会】T-DXd(エンハーツ)がホルモン療法歴のある乳がん患者の無増悪生存期間を有意に改善

ASCOの見解(引用)「抗体薬物複合体(ADC)は、乳がん治療において有望で有益な分野であり、治療パラダイムにおける役割はますます大きくなっています。トラスツズマブ デルクステ...
【ASCO2024年次総会】若年乳がん患者のほとんどが治療後に妊娠・出産可能の画像

【ASCO2024年次総会】若年乳がん患者のほとんどが治療後に妊娠・出産可能

ASCOの見解(引用)「乳がんの治療後も、妊娠や出産が可能であるだけでなく安全でもあることが、データが進化するにつれて次々と証明されてきています。この研究では、妊娠を試みた乳が...