乳房全摘術+再建の合併症率および費用は腫瘍摘出+放射線よりも高い(SABCS2015)

米国の早期乳がん患者には、ガイドラインに従った局所治療のさまざまな選択肢がある中、民間保険の若年女性とメディケア(公的医療保険)の高齢女性の双方にとって、合併症率および合併症関連費用が最も高いのは乳房全摘術+再建であり、また、若年女性にとっては最も高額な治療法であることが、サンアントニオ乳がんシンポジウム2015(12月8~12日)においてBenjamin D. Smith医師より発表された。

「早期乳がん患者には、局所治療の選択肢がいくつかあります。最適な治療法は患者ごとに微妙に異なりますが、これらの治療の、すべてとは言わないまでも、そのほとんどが大勢の患者にとってガイドライン上適切な治療と考えられています」と、ヒューストンのテキサス大学MDアンダーソンがんセンター放射線腫瘍学科、乳房放射線腫瘍部門の准教授、リサーチディレクターのBenjamin D. Smith医師は述べた。

現在、ガイドラインに従った局所治療で早期ステージ乳がん女性が選択できるのは、腫瘍摘出+全乳房放射線、腫瘍摘出+密封小線源治療、再建・放射線治療なしの乳房全摘術(全摘術のみ)、放射線治療なしの乳房全摘術および再建(全摘術+再建)、放射線治療なしの腫瘍摘出(腫瘍摘出のみ)である。

「腫瘍摘出+全乳房放射線と比べて全摘術+再建がどういった体験になるのか、また、副作用、患者の負担、患者が加入する保険会社の負担について、両治療間にどのようなトレードオフがあるのかを理解してもらうための適切な枠組みというのがないのです。私にとって、それはまるでブラックボックスです」とSmith医師は語る。

「米国ではこの10年間、全摘術+再建の割合が上昇しています。私たちの研究は、この治療法を選択したことによる害を、より単純な治療法を対照として定量化する、初めての試みであると考えています」とSmith医師は述べた。

Smith医師らは、治療費情報を収集するのに2つのデータソースを使用した。若年女性のデータ収集には、雇用主からの保険請求用の市販データベース、MarketScanが使われた。高齢女性のデータ収集にはSEER-Medicareが使用された。

試験責任医師は、2000~2011年に早期ステージ乳がんと診断され、診断前の1年と診断後の2年間に保険全額支払を受けた女性のデータを収集した。治療による合併症で診断から2年以内に発症した、創傷、局所感染、漿液腫または血腫、脂肪壊死、乳房痛、肺臓炎、肋骨骨折、移植組織の脱落、インプラント抜去は診断・処置コードで認識され、合併症関連費用および全費用が計算された。

MarketScanコホートからの44,344人のデータに基づくと、若年女性の合併症のリスクは、腫瘍摘出+全乳房放射線で30%、腫瘍摘出+密封小線源治療で45%、全摘術のみで25%、全摘術+再建で56%であった。

SEER-Medicareコホートからの60,867人の高齢女性では、合併症のリスクは、腫瘍摘出+全乳房放射線で38%、腫瘍摘出+密封小線源治療で51%、全摘術のみで37%、全摘術+再建で69%、腫瘍摘出のみで31%であった。

患者および治療法の差異を調整したうえでの合併症のリスクは、若年および高齢女性の双方にとって、全摘術+再建のほうが腫瘍摘出+全乳房放射線よりも2倍高かった。

合併症関連費用は、全摘術+再建のほうが腫瘍摘出+全乳房放射線よりも高額であり、民間保険の若年女性では8,608ドル高く、メディケアの高齢女性では2,568ドル高かった。

若年女性にとって最も高額な治療(処置費用および合併症にかかる治療費用)は全摘術+再建で、平均費用は89,140ドルであり、腫瘍摘出+全乳房放射線よりも23,421ドル高かった。メディケアの高齢女性では、腫瘍摘出+密封小線源治療(37,741ドル)と全摘術+再建(36,166ドル)が最も高額な治療であった。一方、腫瘍摘出+全乳房放射は34,097ドルであった。

「腫瘍専門医が患者にとって適切な治療をすべて奨めると、患者の中には放射線を避け、代わりに全摘術+再建を選ぶ女性がいます。今回の研究は、その選択における各治療のトレードオフに関する情報を提供しているので、このような患者にとっては有益です。今回の研究結果は、効果的、安全、かつ費用を意識した治療の促進が高まる中、特に支払う側の視点からも有益です」とSmith医師は語った。

本研究は、Varian Medical Systems社のHealth Services部、Duncan Family Foundationより助成を受けた。Smith医師には申告すべき利益相反はない。

翻訳担当者 白石里香

監修 小坂泰二郎(乳腺外科/順天堂大学附属練馬病院)

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