T-DM1が過去に複数の治療法を受けたHER2陽性乳がん患者の全生存期間を改善(サンアントニオ乳がんシンポジウム2015)

2種類以上のHER2標的治療(トラスツズマブ[商品名:ハーセプチン]+ラパチニブ[商品名:タイケルブ])を受けたにもかかわらず病態が進行したHER2陽性転移性乳がん患者のうち、トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1[商品名:カドサイラ])投与を受けた患者では、医師の選択した治療法を受けた患者と比較して全生存期間中央値が改善したことが、2015年サンアントニオ乳がんシンポジウム(12月8~12日)で発表された第3相TH3RESA臨床試験結果により示された。

HER2を標的とする抗体薬物複合体であるT-DM1は、トラスツズマブ+タキサン併用療法後に病態が進行したHER2陽性転移性乳がん患者の治療薬として、2013年2月に米国食品医薬品局(FDA)の承認を得た。

ベルギーのルーヴァン・カトリック大学内科腫瘍学教授のHans Wildiers医学博士は、「がん治療の基準として広く用いられてきた全米総合がんセンターネットワーク(NCCN)ガイドラインでは最近、トラスツズマブ投与後のHER2陽性転移性乳がん患者の優先治療薬としてT-DM1を推奨するように変更された。つまり、この薬剤は、タキサン・ベース化学療法+トラスツズマブ、またはタキサン・ベース化学療法+トラスツズマブ+ペルツズマブ(パージェタ)のいずれかの併用療法を受けた後、転移疾患が進行した場合に広く使用されている。しかし、この治療が推奨される以前に二次治療以降の治療を受けた患者が数多く存在する。TH3RESAは、T-DM1が二次治療以降の治療を受けた患者においても有益性を示す可能性があるかどうかを確定するようにデザインされた」と述べた。

「以前公表したTH3RESA結果から、T-DM1により無増悪生存期間が2倍近くに延長することがわかった」とWildiers氏は続いて述べた。

「われわれは今回の研究で、過去に複数の治療法を受けたHER2陽性転移性乳がん患者において、T-DM1が実際に全生存期間を改善したことを明らかにしている。無増悪生存期間を改善する乳がん治療は複数あるが、それらは全生存期間を改善しておらず、対象患者は新しい治療選択肢を緊急に必要とするため、今回の結果はきわめて重要である」。

TH3RESAに参加したHER2陽性転移性乳がんの全患者602人は、過去にタキサンを含む化学療法を受け、転移疾患の診断後には、トラスツズマブおよびラパチニブを含むHER2標的治療法を2種類以上受けていた。

患者は、T-DM1投与群(3.6mg/kg、3週間ごと)、または医師の選択による治療法群に無作為に割り当てられた。

追跡調査中央値30.5カ月後、全生存期間中央値はT-DM1投与群患者404人で22.7カ月であり、医師の選択治療法群患者198人の15.8カ月に比べて有意に延長した。

全生存期間の有益性は、患者の年齢、ホルモン受容体の状態、内臓転移、前治療法の種類の数に関係なく確認された。

グレード3以上の有害事象発生率は、医師選択治療法群がT-DM1投与群より高かった(47.3%対40.0%)。

Wildiers氏は、「T-DM1投与群では全生存期間中央値が改善しただけでなく、グレード3以上の副作用発生率が低かった。これらの患者が低毒性で長く生存したという事実から、T-DM1はHER2標的治療法を2種類以上受けた患者においても、有用な治療選択肢となることを示唆する」と述べた。

この研究はロシュ社の支援による。Wildiers氏の研究施設は、同氏が行う全国的会議での講演、コンサルティング業務に対する報酬、および学術調査に対する無制限の研究助成金をロシュ社より受けている。



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翻訳担当者 岐部幸子

監修 原 文堅(乳腺科/四国がんセンター)

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