術前化学療法で完全奏効(pCR)を得たトリプルネガティブ乳がんでは生存が改善

ステージ2またはステージ3のトリプルネガティブ乳がん(TNBC)患者が、術前化学療法によって病理学的完全奏効(pCR)を得た場合、術前化学療法後の手術時に微小かそれよりも大きい浸潤性残存病変が認められた場合と比べ、無再発生存および全生存が良好となることが明らかになった。この結果は、ランダム化第2相であるCALGB/Alliance 40603試験の結果であり、2015年サンアントニオ乳がんシンポジウム(12月8~12日)で発表された。

トリプルネガティブ乳がん患者の多く(特に腫瘍の大きさが2cmを超える患者または腋窩[腋の下の]リンパ節への転移が認められた患者)は、手術前に化学療法を受ける。この化学療法は、術前化学療法と呼ばれる。CALGB/Alliance 40603試験について以前発表された試験結果では、ステージ2またはステージ3のTNBCの標準術前化学療法にカルボプラチンまたはベバシズマブを追加した場合にpCRを得る患者が増加したことが明らかになった。手術時に切除した乳腺組織とリンパ節から浸潤性の残存がんが検出されなかったのである。こう話すのは、ロードアイランド女性および乳児病院(Women and Infants Hospital of Rhode Island)の女性腫瘍学プログラムで臨床研究アソシエートディレクターを務め、ブラウン大学ウォーレン・アルパート医学部(ロードアイランド州プロビデンス)の内科および産婦人科准教授でもあるWilliam Sikov医師である。

「今回の新しい試験データでは、割り付けられたグループに関わらずpCRを得られた患者は、そうでない患者よりもはるかに優れた転帰を示した。3年間の追跡調査後、pCRを得た患者で遠隔転移再発をきたしたのはわずか9%で、死亡したのは6%であったのに対し、pCRを得られなかった患者では27%が遠隔転移再発をきたし、25%が死亡した」とSikov氏は話す。

さらに、「この試験結果は重要ではあるが、われわれの試験は統計的検出力を得られるほど大規模ではないため、標準術前化学療法にカルボプラチンあるいはベバシズマブを追加すると無再発生存と全生存が改善するか否かの断定はできない。こうした試験結果をふまえ、現時点では、カルボプラチンとベバシズマブはいずれも、ステージ2または3のトリプルネガティブ乳がん患者への標準術前化学療法の一部とみなすべきではない」とSikov氏は言う。

CALGB/Alliance 40603試験では、手術が可能なステージ2または3のTNBC患者443人が登録された。登録患者を、標準術前化学療法を行う群、標準術前化学療法に加えカルボプラチンを投与する群、標準術前化学療法に加えベバシズマブを投与する群、または標準術前化学療法に加えカルボプラチンとベバシズマブを投与する群のいずれかに無作為に割り付けた。手術は、術前化学療法の終了から4~8週間後に行った。

試験治療開始から3年後に乳腺組織とリンパ節のいずれにも浸潤性の残存がんが認められない患者は、乳腺とリンパ節のいずれでもpCRとならなかった患者と比べ、再発リスクが70%低下し、死亡リスクは80%低下することが、Sikov氏と同僚らによって明らかにされた。乳腺あるいはリンパ節に浸潤性の微小残存病変(残存腫瘍量[Residual Cancer Burden]によって定義)がみられる患者を、乳腺とリンパ節の両方でpCRとなった患者に含めて解析を行っても、転帰に有意差はなかった(再発リスクは71%低下、死亡リスクは79%低下した)。

標準術前化学療法にカルボプラチンを加えた場合とベバシズマブを加えた場合のそれぞれが転帰に与えた影響を評価しても、無再発生存期間と全生存期間に薬剤による有意差はみられなかった。

「ステージ2または3のトリプルネガティブ乳がんに対して、標準化学療法にカルボプラチンまたはベバシズマブを追加することで利益が得られるか否かという問題に関していえば、今回の試験がその利益について否定的な試験ではないことを主張するのは重要だ。しかし、われわれの試験だけでは不十分である。つまり、今回の試験は計画された試験規模が小さいため、カルボプラチンとベバシズマブのいずれについても利益の有無の証明には至らなかったのである。われわれの試験結果は、この2剤をトリプルネガティブ乳がんに用いた先行試験や進行中の試験とあわせて考慮する必要がある。今後は、この問題を解決するためにさらなる規模の患者と必要な資源を投入していくか、あるいは今回の薬剤以外で転帰の改善をもたらす選択肢に焦点を当ててトリプルネガティブ乳がんの研究を進めていくか、いずれを選択するかが課題となる」とSikov氏は話した。

この試験は米国国立癌研究所の癌治療評価プログラム、Genentech社、およびBreast Cancer Research Foundationから研究助成を受けた。Sikov氏は、利益相反はないと公表している。

翻訳担当者 前田愛美

監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立がん研究センター中央病院)

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