乳がんのタイプにより異なるホルモン療法の有効性

キャンサーコンサルタンツ

女性の乳がん患者を対象としたホルモン療法において、ホルモン受容体陽性乳がんのサブタイプにより、その効果に違いが現れることが、Journal of Clinical Oncology誌に掲載された研究結果により明らかになった。

ホルモン受容体陽性乳がんは、女性ホルモンであるエストロゲンの作用により増殖が促進されるタイプの乳がんである。そのため、ホルモン受容体陽性の乳がん患者に対する治療は、がん細胞と結合し増殖を助けるエストロゲンを阻害する薬剤が標準療法の一部となっている。

ホルモン受容体陽性乳がんに対して使用される抗エストロゲン剤として、現在最も多く使用されている薬剤はタモキシフェンである。また、そのほかに使用されている薬剤として、アロマターゼ阻害剤がある。

タモキシフェンおよびアロマターゼ阻害薬は、それぞれ異なる生物学的経路を通じて抗エストロゲン効果を発揮する。また、タモキシフェンおよびアロマターゼ阻害薬はどちらも広く使用されているが、異なる副作用が認められている。

臨床試験では、異なるタイプのホルモン受容体陽性乳がんの女性患者2,923人を対象として、一般に広く使用されているアロマターゼ阻害薬レトロゾール(販売名:フェマーラ)とタモキシフェンによる効果を比較した。

データ分析にあたり、患者は2群に分けられた。一方は、母乳を乳頭まで運ぶ役割を担う乳管に発生する浸潤性乳管がん(IDC)の患者群であり、もう一方は母乳を生成する小葉に発生する浸潤性小葉がんの(ILC)患者群である。

さらに、その試験より得られたデータから、乳がんの2種類のサブタイプについて分析がなされた。がん細胞の分裂が速いルミナールBタイプと、分裂が遅いルミナールAタイプである。

・総合的結果として、浸潤性小葉がん患者の無病生存率は、ルミナールBタイプおよびルミナールAタイプの両方において、レトロゾール投与群の方がタモキシフェン投与群と比較し、より高いことが判明した。

・浸潤性乳管がん患者のうち、ルミナールBタイプ患者では、レトロゾールの方が無病生存率において優れた結果を示した。

・浸潤性乳管がん患者のうち、ルミナールAタイプ患者では、レトロゾール投与群とタモキシフェン投与群の無病生存率に差は認められなかった。

研究者らは、ルミナールAタイプの浸潤性乳管がん患者を除き、ホルモン受容体陽性の浸潤性乳管がんおよび浸潤性小葉がんを有する乳がん患者において、レトロゾールはタモキシフェンと比較して、無病生存率を大幅に改善すると結論づけた。また、ルミナールAタイプの浸潤性乳管がん患者では、レトロゾールとタモキシフェンの効果は同等であることがわかった。

これらの結果から、医療提供者はがんの特性を考慮することにより、個々の患者に最適な治療法を選択することが可能になると考えられる。

参考文献:
Filho O, Giobbie-Hurder A, Mallon E, et al. Relative Effectiveness of Letrozole Compared With Tamoxifen for Patients With Lobular Carcinoma in the BIG 1-98 Trial. Journal of Clinical Oncology. 2015; 33 (25): 2772-2779


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翻訳担当者 山口真奈美

監修 小坂泰二郎(乳腺外科/順天堂大学附属練馬病院)

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