腹腔鏡下遊離大網弁移植はリンパ浮腫の有力な治療法となる可能性

MDアンダーソン OncoLog 2015年10月号(Volume 60 / Number10)

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腹腔鏡下遊離大網弁移植はリンパ浮腫の有力な治療法となる可能性がある

新しい腹腔鏡下や顕微鏡下手術の技術を用いて、乳がん患者のリンパ浮腫を安全かつ効果的に治療できるよう、外科医は大網弁の使用を再検討している。

「リンパ浮腫は治療法のない深刻な疾患である」とテキサスMDアンダーソンがんセンター大学の形成外科准教授Alexander Nguyen医師は言っている。 さらに、国際リンパ学会の合意文章を引用して、「現在考えられる最良の治療法は顕微鏡下手術である」と付け加える。

血管柄付きリンパ節移植―顕微鏡下手術により身体のある部位のリンパ節を別の部分に移植―がリンパ浮腫の症状を改善し、患肢の浮腫を軽減するということが示されてきた。しかしながらそのような弁移植によりリンパ組織を提供した側の部位にリンパ浮腫を認めることがある。

移植するリンパ組織を提供する部位についての検討

上腕のリンパ浮腫の治療のために、しばしば鼠径部や鎖骨上のリンパ節を用いて血管柄付きリンパ節移植が行われる。しかしながらこれらの部位からリンパ節を取り出すことにより、下肢や反対側の上腕にリンパ浮腫を認めることがある。形成外科のNguyen医師とその同僚達によって考案された治療アルゴリズムにより、リンパ節移植の安全性は向上してきた。またNguyen医師は核医学教室の教授Franklin Wong医学博士と協力して、外科医が四肢の最も重要なリンパ節を同定し残しておくことができるように、提供部位のリンパ節の図解作成に取り組んできた。

しかしながらこれらの取り組みにもかかわらず、提供側の部位のリンパ節摘出後のリンパ浮腫の可能性を完全になくすことは出来ない。これは特に肥満患者で問題となり、彼らの術後のリンパ浮腫のリスクは高い。「残念ながら上肢のリンパ浮腫のリスクが高い人は下肢においてもそのリスクは高い」と Nguyen医師は言う。彼はリンパ浮腫を起こすことなく摘出できる健常な部位のリンパ組織の候補として、過去には有望であると考えられていた大網について再検討した。

古くからあるアイデアに新しい技術を取り入れる

大網(たいもう*腹膜の一部)は豊富なリンパ組織に加えて感染を防御する免疫特性を持っている。Nguyen医師はこれらの特性はリンパ浮腫の患者に有益であると考えた。患者の多くは蜂窩織炎やリンパ管炎などにより感染を繰り返し発症する。

リンパ浮腫の治療として大網弁を用いることは新しいアイデアではない。外科医は40年以上も前に四肢のリンパ浮腫の治療のために大網移行術を行っていた。しかし開腹により大網を取り出すことと、さらに血管を切除せずに残したまま有茎弁として移植することはリスクの高い手術であった。「40数年前には開腹手術が必要であり、外科医は遊離弁としてではなく、血液供給のために血管を切除せず、つながったままの状態で有茎弁として移植した。これは大きな手術痕や腸管のねじれの原因となり得る血管の張りを残し、術後に患者は腸管の閉塞やその他の重篤な合併症に悩まされた」とNguyen医師は言った。このため大網弁移植はリンパ浮腫の治療に効果的ではあったが―50%以上の患者が改善―外科医はその手術に伴うリスクのため、その後行わなくなった。

Nguyen医師と形成外科学准教授のHiroo Suami医学博士は、近年の外科技術の向上により、大網弁のリンパ組織の質を損なうことなく手術リスクを軽減することができるという仮説を立てた。「われわれはさまざまな技術に対応できるよう訓練された外科医チームを持っている。そしてわれわれは超顕微鏡下手術と、通常の顕微鏡下手術、腹腔鏡下手術を合わせた腹腔鏡下遊離リンパ組織弁形成術を開発した」とNguyen医師は言っている。

新しい手術方法では、外科医は最も侵襲の低い技術を用いて大網のリンパ組織を摘出する。「われわれは大網のリンパ組織構造を図解し、より多くのリンパ組織とより大きな血管を含んでいる大網の右半分の組織を摘出する」とNguyen医師は言う。

その大網弁は患者の上肢や下肢に移植され、術前の画像所見や身体所見により決定された部位、基部あるいは末梢部に結合される。顕微鏡下手術の技術を用いて血流が適切に供給されるように、動脈と静脈の両方に大網弁の血管が吻合される。外科医はまた大網弁のリンパが静脈に流れるようにリンパ管と静脈の吻合も行う。

期待される結果

大網弁のリンパ組織は術中リンパグラフィで図示される。インドシアニングリーン染色液を注入すると大網を通じて広がり、リンパの流れが確認される。「他の部位からの遊離弁移植では染色液はそれほど早く動かず、そこに留まってしまう」とNguyen医師は言う。術後のリンパグラフィ検査でも結果は同様である。

この新しい手術手技は2013年11月に初めて、乳がん手術後の上肢リンパ浮腫の2人の患者に行われた。「患者のリンパ浮腫は改善した。彼女らの腕は軽くなり、皮膚の状態は良くなった。さらに、皮革のようになっていた皮膚は柔らかくなった。2人とも以前はリンパ浮腫を認めていた腕にしばしば感染症が起きていたが、術後は起きていない」とNguyen医師は言っている。

その後Nguyen医師は20人以上の患者に同様の手術を行い同様の結果を確認している。1人のみ大網弁が生着しなかったが、その原因として下肢の静脈性高血圧が最も考えられるとNguyen医師は言っている。摘出した後の大網に合併症を認めた患者はいない。

「われわれはその後も成功している。患者はもう圧迫帯をつけておらず、感染症再発予防の抗生剤維持療法も受けていない」とNguyen医師は言っている。

今後の展望

大網の感染防御機能は大網弁移植先の再建にも有益である。Nguyen医師は、骨盤欠損部位の修復、頭皮の再建、胸壁欠損部位の補填、乳房再建後の欠損部位の修復のために腹腔鏡下大網弁移植を行っていると話している。これらの大網弁は頭頸部のリンパ浮腫の治療にも用いられている。

上肢または下肢にリンパ浮腫を認めるがん生存者にとって、大網弁は摘出後のリンパ浮腫のリスクの低い効果的な治療として期待されるとNguyen医師は言っている。「鼠径部や鎖骨上弁に比べて大網弁ははるかに優れていると考えられる。将来この治療域に大改革をもたらすかもしれない」。

【画像キャプション訳】
左: リンパ浮腫を認める四肢に遊離弁として使用される大網弁が腹腔鏡下に取り出されている。
右: 蛍光画像により大網のリンパ組織が強調されている。画像提供 Nguyen医師。

For more information, contact Dr. Alexander Nguyen at 713-794-1247.

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翻訳担当者 中村 奈緒美

監修 原 文堅(乳腺科/四国がんセンター)

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