非浸潤性乳管がん(DCIS)診断後の乳がんによる死亡リスクは低い

乳管内上皮の異常細胞-非浸潤性乳管がん(DCIS)と呼ばれる非浸潤性の病態-と診断された女性は一般に、乳がんによる死亡リスクが低いことが新たに実施された試験によって示唆された。さらに、病変部の治療によって、乳房内の再発が抑制される可能性はあるものの、20年の追跡調査後、すでに低い死亡リスクがさらに低くなることはないようである。

10万人以上の女性を対象とした観察試験によって得られた結果(Exit Disclaimer参照)が、JAMA Oncology 8月20日版に発表された。トロントにあるWomen’s College HospitalのSteven A. Narod医師らは、NCIの疫学統計プログラムSEER(Surveillance, Epidemiology and End Results )のデータからDCISと診断された女性の乳がん死亡率を推定した。

DCISは乳管内に異常細胞が生じるもので、マンモグラフィーで発見されるという特徴がある。場合によっては、浸潤がんとなり他の組織に転移することがある。現時点では、わずかな割合で病変が浸潤性になるという懸念があるため、DCISと診断された女性のほぼ全員がなんらかの治療を受けている。

「現在進行中の試験では、ほとんどの患者が(放射線治療の有無を問わず)乳腺腫瘤切除術(乳房温存術)または片側もしくは両側の乳房切除術(全摘術)を受けています。DCIS診断後20年以内の乳がん死亡率は3.3%であり、一般集団の死亡率とほぼ同じです。治療法によって死亡率が変化することはありません」と研究者らは述べた。

「DCISは治療法に関係なく転帰がきわめて良好です」と、本試験には参加していないが、NCIのがん予防部門を統括するBarry Kramer医師は述べた。「DCISに対する治療が有害作用を引き起こす可能性があります」と、同医師は言う。「たとえば、放射線照射によって治療後、二次がんが発生するリスクが高まるほか、乳房切除によって重篤な健康問題が引き起こされる可能性があります」。

若年でDCISと診断された女性およびアフリカ系アメリカ人など、一部の患者で乳がんによる死亡リスクが高くなる可能性があることが本試験によって明らかになった。35歳までにDCISと診断された女性の死亡率は、それ以降に診断された女性に比べて高く(3.2%に対して7.8%)、アフリカ系アメリカ人のほうが白人より高かった(3%に対し7%)。本試験の対象患者は診断時の平均年齢が54歳で、35歳未満は1.5%であった。

「本試験では多数の患者を長期にわたり追跡調査しているため、DCISの治療は見直さざるを得ない状況に追い込まれています」と、付随論説の著者らは述べた。

「乳がんによる死亡率の低さを考慮すれば、DCISには緊急で診断から2週間以内に根治手術の予定を決めなければならないなどと患者に話すことはやめるべきです」とカリフォルニア大学サンフランシスコ校のLaura Esserman医師とChristina Yau医師は書いている。

「最も重要な臨床的所見は、DCISと診断された女性に対し浸潤性乳がんの発症を抑制しても、乳がんによる死亡の可能性を軽減することにはならないという観察結果です」と、著者らは言う。たとえば、乳腺腫瘤切除術を受けた女性は、放射線治療を受けたほうが受けないより、同じ側の乳房での再発リスクが減少したが(4.9%に対し2.5%)、10年後の乳がんによる死亡リスクは減少しなかった(0.9%に対し0.8%)。

「本試験により、乳腺腫瘤切除術は、同じ側の乳房での再発リスクを軽減しますが、乳がんによる死亡リスクに変化はないことが明らかになりました」とKramer医師は述べた。「これは、DCISに対する局所療法が死亡リスクに影響を与える可能性がないことを示唆しており、最も重要な転帰です。この観察結果は、DCISの生物学的側面に重要な識見を与えるものです」とも述べた。

また別の所見では、DCISと診断された517人の女性が乳がんで死亡しているが、DCISが発見された乳房とそうでないほうの乳房のどちらにも浸潤がんは発現していなかった。DCISには身体の他の部位に転移する“固有の特性”を有するものがあると、著者らは書いている。

「手術的除去および放射線療法という現行のアプローチでは致命的な乳がんに至るまれな症例に対しては十分でない可能性があり、新たな治療法が必要です」とEsserman医師とYau医師は結論づけた。

Kramer医師は、DCISの新たな治療法が必要であることに同意しており、本試験の結果がこの動きに拍車をかけることになると述べた。同医師は前立腺がんとの類似の可能性を示唆し、スクリーニングにより検出された初期がんを管理するための(早期手術ではない)周到な追跡法の開発に言及した。

「数年前、前立腺がんを放置することは全く思慮にかけていると思われていました」と同医師は認めた。しかし、検診により発見された前立腺がんの一部は進行が遅いため、治療せず放置しておいたほうがよいということがデータによって明らかになるに従い、研究者らは待機療法、のちに監視療法といった方法を試みるようになった。

「われわれは、DCISを対象とした試験の妥当性を示すデータを構築し始めています」Kramer医師は言う。「われわれはまだそこまで至っていないのかもしれませんが、このようなデータが、新たな治療法を検討するための試験の妥当性を評価するのに役立つのです」。

翻訳担当者 萬田美佐 

監修 原 文堅(乳がん/四国がんセンター) 

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