OncoLog 2015年6月号◆新たな乳房画像診断技術の数々は、がんのスクリーニングと病期分類に有望

MDアンダーソン OncoLog 2015年6月号(Volume 60 / Number 6)

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新たな乳房画像診断技術の数々は、がんのスクリーニングと病期分類に有望

デジタルマンモグラフィに加え、新たな技術によって乳がんのスクリーニングおよび診断が改善される可能性がある。これらの新たな画像診断技術の一部は、まだ開発段階にあるが、すでに臨床でマンモグラフィに加えて乳がんのスクリーニングや病期分類に使用されているものもある。

乳がんのスクリーニングにおける現在の標準検査法であるデジタルマンモグラフィは、実績のある検査技術であり、数えきれないほどの命を救う助けとなってきた。しかし、高濃度乳腺や遺伝的危険因子を持つ女性の場合、通常は超音波検査または乳房の磁気共鳴画像(MRI)検査による追加の画像検査が必要となる。これらの検査技術は、臨床での病期分類にも用いられている。

しかしながら、現在の標準的な画像化技術には限界があり、スクリーニングや病期分類の手段としての有効性に限界がある。このことから、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターとその他の施設の研究者らは、どの技術がどの用途に向いているのかを判断するため、そうした

新しい画像診断技術の検証を行っている。

トモシンセシス(tomosynthesis)

トモシンセシスは、3次元(3D)マンモグラフィとも呼ばれ、乳房上をX線スキャナーが弧を描いて動きながら撮影をする。標準デジタルマンモグラフィに使用されている動かないスキャナーでは1ないし2画像しか撮ることができないが、この技術では、数秒間で60枚までの乳房画像を撮ることができる。トモシンセシスは、この2年間で急速に発展し、多くの施設で乳がんスクリーニングに利用されるようになった。

「トモシンセシスは乳がんの画像化において重要な新技術なのです」と、放射線診断科乳房イメージング部門の准教授であるBasak Dogan医師は述べた。「トモシンセシスは標準マンモグラフィと共に通常のスクリーニングに使用することで、腫瘤を分かりにくくする組織の重なりを取り除くのに役立つのです」。

マンモグラフィによる通常のスクリーニングにトモシンセシスを加えた13の単施設研究結果について、後ろ向き解析を行った結果、トモシンセシスを加えたことで浸潤がんが発見される件数が有意に増加したことがわかった。この研究結果は、2014年6月にJAMA誌に掲載され、同時にマンモグラフィで異常所見が認められ追加検査が必要となった女性の数が、トモシンセシスにより有意に減少したことも示された。Dogan医師は、次のように述べた。「不必要な再検査を避けることで、がんの疑いがある患者の追加検査を受ける不安がなくなり、さらに、これらの検査に要する費用を患者と保険会社は出さずに済むのです」。

トモシンセシスは病期分類の手段としても検討中であるとDogan医師は付け加えた。「ここMDアンダーソンのRosalind Candelaria医師が、乳がんの病期分類の精度がトモシンセシスにより改善されるかどうかを確認する進行中の臨床試験を主導しています」と、Dogan医師は述べた。「通常のマンモグラフィでは発見できない腫瘍をトモシンセシスで見つけることができるのか、そして対側乳房にどれだけの数のがんを見つけることができるのかを知りたいのです」。

トモシンセシスのその他の利用の可能性は、まだ検討されていない。Dogan医師は次のように述べている。「現在、高濃度乳腺を持つ女性のマンモグラフィによるスクリーニングの補助として超音波検査が行われているが、トモシンセシスが利用されるようになっても超音波検査が必要であるかはわかっていません。この点についての研究が、さらに必要となります」。

マンモグラフィによるスクリーニングにトモシンセシスを追加するにあたって、患者と医師の最大の懸念は、放射線被曝の増加であるとDogan医師は述べた。トモシンセシスによる画像撮影には、標準的な2Dマンモグラフィと同様に低い実効線量の電離放射線(0.7 mSv)を用いており、両方の技術を用いて別々に撮影したとしても、患者の被曝量は2倍であり、その線量は低く、患者の生涯発癌リスクに影響はないと考えられる。それでも、スクリーニング時の放射線線量を可能な限り低く抑えるために、新しいソフトウェア(C-View、Hologic社)を使用することにより、トモシンセシスが3D画像を撮る際に同時に2D乳房画像も撮ることができる。

その結果、どちらか一つによる撮影の被曝量と同程度に抑えることができる。この夏の終わりまでには、このソフトウェアによってMDアンダーソンにある数台のスキャナーの機能が向上するだろうとDogan医師は述べた。

分子乳房画像

分子乳房画像(Molecular breast imaging, MBI)は従来のマンモグラフィの補助として用いられる新しい撮影技術である。放射線診断科・体幹画像部門助教のGaiane Rauch医学博士によると、高濃度乳腺組織の女性を対象に実施したスクリーニング検査に関する臨床試験において、マンモグラフィに加えてMBIを実施すると、がんの検出率が1000人あたり3から12に上昇したという。

MBIではテクネチウム99mを使用する。テクネチウム99mは寿命が短い放射性のトレーサーで、静脈注射後に乳房をガンマ線カメラで撮影する。MBIの実施中、患者は楽な姿勢で着席し、乳房を軽く圧迫する。放射線診断科・乳房画像部門准教授のBeatriz Adrada医師は、「マンモグラフィでは解剖学的な画像が得られます。一方、MBIでは腫瘍が放射性トレーサーを取り込み、機能的な画像が得られます」と話す。

Rauch医師はまた、放射線科医はマンモグラフィ画像とMBI画像を見比べているとも述べた。「高濃度乳腺患者の場合、マンモグラフィでは異常を発見できない場合があります。その密な乳腺組織の陰に病変が隠れてしまうためです。MBIでは、この病変部位をはっきり見ることができます」。Rauch医師およびAdrada医師は、MBIは読み取りが早く、不必要な生検につながる偽陽性所見が少ないことから、補助的なスクリーニングを行う画像技術としては超音波検査よりはるかに優れていると話している。

MBIおよび乳房造影MRIの感度は同程度であることが複数の臨床試験において示されているが、特異度はMBIのほうが高く、偽陽性所見の数が少ない。また、MBIがMRIより優れている点として、閉所恐怖症の患者も楽に受けることができ、金属インプラントや腎臓病の患者も禁忌ではないことがあげられる、とRauch医師とAdrada医師は述べている。また、MBIは乳房造影MRIより安価であることも有利な点と言える。

研究者らはまた治療効果判定にMBIが使えるかどうか知りたいと考えている。Rauch医師は、患者に対し術前化学療法2サイクルの後にMBIを実施する臨床試験の試験責任医師を務めている。「この試験の目的は、浸潤性乳がん患者に対する術前化学療法の治療反応をMBIで予測できるかどうかということと、術前に外科医が残存病変の評価ができるかどうかを見ることです」とRauch医師は話している。

トモシンセシス(一度に多数の断層画像を撮影する技術)と同様に、MBIの放射線線量を心配する医師や患者もいる。しかし、Rauch医師、Adrada医師によると、MBIで用いられる量のテクネチウム99mの放射能は8mCi(296MBq)で、実効線量は2.4mSvにすぎないという。これはトモシンセシス+デジタルマンモグラフィの平均的な実効線量よりは高くなるが、平均年間自然放射線線量(3mSv)よりは低い。これとは対照的に、核医学的な心臓負荷試験で用いられるテクネチウム99mの放射能は30mCi(1,110MBq)にもなる。

その他の新撮影技術

トモシンセシスおよびMBIは有望な乳房画像における新技術であるが、他の新技術も研究が進んでいる。そのような技術の一つに自動乳房超音波検査がある。「自動乳房超音波検査では、従来の手持ちの超音波検査で40分かかったものが、半分の20分で同じ画像が得られます。高濃度乳腺の患者に補助的なスクリーニング法として勧めたいと思っています」とDogan医師は言う。

研究中の画像技術にはこれとは別に光音響イメージングがある。光音響イメージングでは光のパルスにより組織がわずかに熱せられ、熱せられた組織から出る音波によって、超音波画像を重ね合わせたMBIに似た機能的な画像が得られる。

Dogan医師は、乳房の良性腫瘍と悪性腫瘍の鑑別における光音響イメージングの役割を検討する現在進行中の臨床試験において試験責任医師を務めている。同試験は患者登録が終了しており、公表に向け現在結果を解析中である。また、Dogan医師によると、別の多施設試験では断層撮影装置による光音響イメージが得られているという。「この技術では乳房の病変部だけでなく全体を俯瞰する像が得られますので、どの部分に生検が必要なのかがわかります」とDogan医師は話している。

Dogan医師はさらに、マイクロバブルによるリンパ節画像にかかる臨床試験の試験責任医師にもなっている。「本試験では、超音波ガイド下でマイクロバブル造影剤を使用してセンチネルリンパ節を発見しています」と同医師は話す。「このマイクロバブルはペルフルトレンガスで、リン脂質で覆われています。気泡がリンパ管内に入ることで造影剤が見えるようになります。これによりセンチネルリンパ節を発見して針生検ができるようになり、手術によるセンチネルリンパ節郭清が不要になる可能性もあります」。Dogan医師によると北米でこの技術を用いているのはMDアンダーソンが初めてだという。

もう一つ、研究が進められている撮影技術は、新技術ではなく、通常は乳房撮影に用いられない技術、拡散強調MRIである。従来、乳房画像には造影MRIが用いられている。Dogan医師は、乳房の造影MRIを受ける患者に拡散強調画像撮影も併せて実施する多施設臨床試験のMDアンダーソンにおける試験責任医師を務めている。「2種の画像を比較して、造影剤を取り込んだものの拡散強調MRIで良性に見える病変部は、生検でも良性であることがわかってきました」とDogan医師は述べた。「拡散強調MRIの限界は小さな腫瘍を見逃してしまうということです。今後の科学技術の進歩により、この限界は克服できるものと信じています」。また、拡散強調MRIはスキャンが早く、どのMRIプロトコルとも容易に組み合わせられる点が有利だとも述べている。

その障壁から転換期へ

新しい画像技術利用の足かせとなっているのはコストだ。MBIは乳房MRIの半分のコストで実施することが可能だが、MBIによるスクリーニングを受けた患者は保険料の支払いの問題を抱えることになるかもしれない。「がん患者の場合、病期診断のためのMBIは支払いの対象となると思われるが、スクリーニングの場合、MBIがまだ新しい技術であるため、保険料の支払いが問題となりうる」とRauch医師は話している。

Dogan医師によると、トモシンセシスによる乳がんスクリーニングを保障するかどうか保険各社は同様に保留にしているという。保険金の支払い拒否により患者が困難に陥る可能性を避けるため、MDアンダーソンではトモシンセシスによるスクリーニング検査には正規料金である60ドルを請求することとしている。「トモシンセシスによるスクリーニングは、死亡率に対する有効性を示すデータが得られていないため、保険会社からの支払いはまちまちとなっています」とDogan医師は言う。「2年前に舞台に立ったばかりのきわめて新しい技術ですので、8~10年たたないと生存に関するデータが得られません」。

Dogan医師はトモシンセシスによるスクリーニングが生存に利益をもたらすと信じているとも述べた。「まだ改善の余地はあり、まだ解決されていない問題もありますが、トモシンセシスは他の新しい技術よりはるか先を歩んでいると思います。スクリーニングに転換期をもたらすことになるでしょう」。

For more information, contact Dr. Beatriz Adrada at 713-792-2709, Dr. Basak Dogan at 713-563-0124, or Dr. Gaiane Rauch at 713-745-5768.

【上段画像キャプション訳】原文ページ参照
この触知可能な腫瘤はマンモグラフィでは確認が難しかったが(左)、同じ乳房の分子乳房画像(右)ではっきりと確認できる。画像はBeatriz Adrada医師の好意による。

【中段画像キャプション訳】原文ページ参照
マンモグラフィによる標準スクリーニング(左)では、トモシンセシスで発見された病変(右、囲い部)を発見できなかった。生検の結果、病巣は浸潤がんであった。画像はBasak Dogan医師の好意による。

乳がんスクリーニングガイドライン
40歳を超えたら年に一度のマンモグラフィ検査を受けるというアメリカ癌学会の推奨にMDアンダーソンの医師は従っている。乳がんスクリーニングガイドライン、患者のリスク評価表、および医師のための乳がんスクリーニングのアルゴリズムは以下のサイトで入手可能である。www.mdanderson.org/patient-and-cancer-information/cancer-information/cancer-topics/prevention-and-screening/screening/breast.html.

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翻訳担当者 田村克代、橋本 仁

監修 河村光栄(放射線腫瘍学・画像応用治療学/京都大学大学院医学研究科)

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