コーヒーが、乳がん治療薬タモキシフェンの効果を高める可能性

 

「ホルモン剤タモキシフェンとコーヒー2杯を毎日摂取するとがん予防効果を上げ、(乳がん)腫瘍再発のリスクを軽減させることが判明した」と英Mail Online紙が報告した。同研究はまた、カフェインががんの増殖を遅らせることも明らかにした。

その研究で乳がん女性1,090人のコーヒー摂取について調査した。そのうち約半数がタモキシフェンを服用していた。タモキシフェンは、エストロゲンというホルモンとの関連で知られる乳がん(エストロゲン依存性乳がん)を治療する際に用いられるホルモン治療薬である。

研究では、1日に2~5杯のコーヒーを飲む女性は、コーヒー摂取量が1杯以下の女性よりも原発腫瘍のサイズが小さく、エストロゲン依存性腫瘍の割合が少ないことが判明した。

エストロゲン依存性乳がんでタモキシフェンの治療を受けていた女性では、毎日少なくとも2~5杯のコーヒーを飲む女性は、コーヒー摂取量が比較的少ない女性よりもがんの再発リスクが半減した。

また、研究者らはコーヒーから検出された2つの物質、カフェインとコーヒー酸(コーヒーから発見された化合物)の乳がん細胞における効果について研究室で実験を行った。研究者らは、それら2つの物質が乳がん細胞の増殖を抑制することを発見した。

本研究の結果は興味深いが、コーヒーが乳がんに効果があるということを証明できておらず、他の因子として、交絡因子と呼ばれるものが結果に影響を及ぼしていた可能性がある。

乳がんでタモキシフェンを投与されている女性が適度にコーヒーを摂取することは、害にはならない。しかし、過剰摂取は易刺激性、不眠症、消化不良の原因となりうる。

研究の出典

研究はスウェーデンのルンド大学、スコーネ大学病院、英国のブリストル大学の研究者らにより実施された。スウェーデンがん協会やスウェーデン・リサーチ・カウンシルなどスウェーデンの団体からさまざまな助成を受けた。

研究についてはピアレビュー専門誌Clinical Cancer Research誌で発表された。

この研究結果に関するMail Online紙の報道内容は、コーヒーがエストロゲン依存性乳がんの再発を防ぐ、またはタモキシフェンの作用を高めることが証明されたというニュアンスで伝えている。初期結果は有望ではあるものの、今回はそれに当てはまらない。

Mail Online紙はまた、独立した専門家からの研究へのコメントを何ら掲載していない。その結果、タモキシフェンを投与されている何百万人もの女性が、どれくらいの量のコーヒーを飲むとよいのか心配し始めることが危惧される。

カフェイン摂取について英国の公式ガイドラインはないが、通常は1日にカフェインを400 mg以上摂取する(およそカップ4杯分のコーヒー、または栄養ドリンク2杯)と、副作用を引き起こす可能性がある。

研究の種類

これはスウェーデン在住で初期の浸潤性乳がんの女性1,090人を対象としたコホート研究であった。今回は、2013年に同研究者らが発表した少人数での女性の研究の追跡調査であり、同コホートの中からさらに少人数の女性を対象とした。研究者らは、先行研究でタモキシフェンを投与されていた乳がんの女性の中~高頻度のコーヒーの摂取と生存率向上との関連が明らかとなったと述べている。研究の目的は、コーヒー摂取量、がんの特性、生存率の関係をより大規模な乳がんの女性のコホートで調査することであるとも述べている。

乳がん腫瘍の中には、成長するためにエストロゲンに依存するものがある。エストロゲン受容体(ER)陽性乳がんと呼ばれるものである。

タモキシフェンは、これらのタイプの乳がんに投与される主要なホルモン療法薬剤で、エストロゲンががん細胞に結合するのを阻害する。これががん細胞の増殖を抑制または阻止する。

研究者らはまた、コーヒーに含まれる2つの物質、カフェインとコーヒー酸が乳がんの増殖に影響を及ぼす可能性のメカニズムを調査するため、ヒトの乳がん細胞を用いた細胞実験を実行した。

研究内容

コホート研究のために、2002~2012年の間に初期の浸潤性乳がんと診断された24~99歳の女性1,090人を登録した。手術前に、体測値と胸のボリュームを測定され、詳細な質問票で出産歴、投薬使用、そして喫煙、アルコールならびにコーヒー摂取などの生活要因の情報を集めた。

コーヒー摂取は低頻度(1日に1杯以下)、中等度(1日に2~4杯)、または高頻度(1日に5杯以上)に分類された。

研究者らは、病理報告書とカルテから腫瘍のサイズと悪性度、リンパ節への転移の広がり、腫瘍がホルモン受容体陽性だったかどうかの情報を得た。

女性らは、2013年1月以前に、乳がんの初再発、最新の無病期間あるいは死亡のいずれかについて最初の報告があるまで追跡調査された。乳がんが再発したか、または死亡したかの追跡調査の情報は、各種の公式記録から得た。その結果は標準的な統計方法で解析され、腫瘍のサイズのような他の要因は調整された。

細胞実験では、タモキシフェン併用あり、またはなしのヒト乳がん細胞を、48時間カフェインまたはコーヒー酸にさらした。研究者らは、ER陽性、ER陰性、またはタモキシフェンに抵抗を示した乳がん細胞を用いた。各実験を実施するにあたり、最低でも3回は実験を繰り返した。

結果

コホート研究の主な結果は、下記の通りである。

・中等度から多量のコーヒー摂取量を報告した女性は、コーヒー摂取が少ない女性と比較して、よりサイズの小さい浸潤性の原発腫瘍を発症していた。

・また、中等度から多量のコーヒー摂取量は、コーヒー摂取が少ない患者と比較してER陽性腫瘍の割合が低いことと関連があった。

・中等度から多量のコーヒー摂取は、タモキシフェンを投与されていたER陽性腫瘍を有する女性の乳がんが再発するリスクが49%低下したことと関連していた(調整ハザード比 0.51; 95%信頼区間 0.26-0.97)。

細胞実験では、カフェインとコーヒー酸がER陽性とER陰性双方のがん細胞の増殖を抑制した。また、カフェインとコーヒー酸は、乳がん細胞に対して他の影響も及ぼしており、細胞の成長を遅滞させたり、細胞の死を促進したりした。

結果の解釈

研究者らは、これらの知見はER陽性とER陰性双方の乳がんに対するカフェインとコーヒー酸のさまざまな抗がん特性を示唆していると述べている。特に、コーヒーは、タモキシフェンに対する腫瘍細胞の感受性を高め、そのため乳がんの増殖を抑制する可能性があるとの考えを示している。コーヒーに含まれる物質が、がん細胞の成長に必要な信号経路のスイッチを切る働きを持つ可能性があると彼らは述べている。

結論

本研究は興味深いが、いくつか制約がある。第1の知見は、コーヒー摂取が比較的多いと報告した女性は乳房の腫瘍径が小さく、がんがER陽性である可能性が低いということであった。しかし、女性達は診断後に一度コーヒーの摂取について報告したきりで、質問票で彼女達が過去または現在コーヒーを飲む習慣について聞かれていたかどうかの記載が不明確である。女性達はまた、特に長期にわたるコーヒー摂取について思い出すことを求められた場合、コーヒー摂取を過剰に低く、あるいは過剰に高く見積もった可能性がある。研究でコーヒー摂取における正確さがさらに妨げられているのは、コーヒーの「カップ」の大きさについて標準的な定義を示さなかったことである。

第2の知見は、タモキシフェンを投与されていたER陽性がんの女性の間で、より多いコーヒー摂取がより良い結果と関連していたということであった。これは特に研究室での実験の結果が得られたこともあり有望に聞こえるが、交絡因子が結果に影響を及ぼした可能性は常にある。

タモキシフェンは、通常閉経前のER陽性がんの女性にのみ用いられる。したがって、アロマターゼ阻害剤のような異なるホルモン療法が求められる閉経後の女性でも同様の効果がみられるかどうか不明確である。

コーヒー摂取と乳がんリスクの潜在的な関連について、さらなる研究が求められる。またそれは、新たな治療法につながる可能性がある。

しかし、注目すべきなのはコーヒーの過剰摂取がマイナスの副作用を起こす可能性があるということである。定期的に1日5杯以上コーヒーを飲むと、不眠症、易刺激性、胃のむかつき、心悸亢進を引き起こす可能性がある。

Analysis by Bazian. Edited by NHS Choices. Follow Behind the Headlines on Twitter. Join the Healthy Evidence forum.

翻訳担当者 太田 奈津美

監修 大野 智(腫瘍免疫学、免疫療法、補完代替医療/帝京大学/東京女子医科大学)

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