術前化学療法にPD1阻害薬追加で高リスク早期ER+HER2-乳がんの完全奏効率が有意に上昇

CheckMate7FL試験およびKEYNOTE-756試験結果

CheckMate7FL試験(ランダム化多施設二重盲検プラセボ対照第3相試験)では、アントラサクリンおよびタキサンによる術前化学療法にニボルマブ(販売名:オプジーボ)を追加することで、早期の高リスク、高悪性度、エストロゲン受容体(ER)陽性、HER2陰性乳がんと新規診断された患者における病理学的完全奏効(pCR)率が有意に上昇するかを調査した。本試験では、ニボルマブ群のpCR率がプラセボ群のpCR率と比較して有意に上昇する主要評価項目を達成した。本解析では追跡期間中央値が短すぎるため、無イベント生存期間(EFS)について結論を出すことはできない。本研究結果は、Peter MacCallum Cancer Centre(メルボルン)およびメルボルン大学(オーストラリア、パークビル)Sherene Loi博士らによって、2025年1月21日にNature Medicine誌に掲載された。

KEYNOTE-756試験(ランダム化多施設二重盲検プラセボ対照第3相試験)では、治療歴のない高リスクのER陽性HER2陰性早期乳がん患者を対象に、ペムブロリズマブ(販売名:キイトルーダ)+化学療法による術前療法後にペムブロリズマブ+内分泌治療による術後療法を行った場合と、プラセボ+化学療法による術前療法後にプラセボ+内分泌治療による術後療法を行った場合の有効性と安全性を評価した。術前化学療法にペムブロリズマブを追加することで病理学的完全奏効率が有意に上昇した。無イベント生存期間評価は現在進行中である。本知見は、シャンパリモー臨床センター/シャンパリモー財団(ポルトガル、リスボン)乳腺科のFatima Cardoso博士らによって報告され、2025年1月21日にNature Medicine誌に掲載された。

CheckMate 7FL試験

本試験の背景として、治療に対する反応と臨床転帰における不均一性は、ER陽性、HER2陰性乳がんの分子サブタイプ[ER(エストロゲン受容体)とPgR(プロゲステロン受容体)の発現が異なるサブタイプ、免疫原性、増殖性、受容体チロシンキナーゼ駆動性など、特異的治療を必要とするサブタイプ]の明確な違いによって引き起こされる可能性がある、と著者らは記している。

高リスクの早期ER陽性、HER2陰性乳がん患者に対する全身療法には、術前または術後化学療法、CDK4/6阻害薬を含む術後標的治療を併用または併用しない長期術後内分泌治療、腫瘍に生殖細胞系列のBRCA病的変異を有する患者に対するPARP阻害薬などがある。

抗PD-L1薬は、早期のトリプルネガティブ乳がん(TNBC)、およびPD-L1陽性転移性TNBCの臨床転帰を有意に改善する。ER陽性、HER2陰性乳がんのサブセットにはTNBCと同様にリンパ球の密な浸潤が認められる。しかし、この浸潤とER陽性、HER2陰性乳がんにおける免疫チェックポイント阻害薬反応との関連は不明である。

アダプティブランダム化試験であるI-SPY2試験結果から、抗PD-(L)1薬は、術前治療後に病理学的完全奏効または残存腫瘍量(RCB)スコア0または1の微小残存病変を達成する高リスクのER陽性、HER2陰性乳がん患者の割合を増加させる可能性があることが示唆された。

CheckMate7FL試験の目的は、早期の高リスク、ER陽性、HER2陰性乳がんと新規診断された患者において、ニボルマブを術前化学療法に追加した後に術後内分泌治療を行うことの有用性を検討することであった。また、試験分担医師らはニボルマブと術前化学療法の併用が最も奏効する可能性が高い患者サブ集団を定義することも試みた。

合計510人の患者が、アントラサイクリンおよびタキサンベースの化学療法にニボルマブまたはプラセボを併用する群に無作為に割り付けられた。主要評価項目である病理学的完全奏効率は、ニボルマブ群でプラセボ群に比べ有意に高く、24.5%対13.8%(p = 0.0021)であり、PD-L1陽性患者ではそれぞれ44.3%対20.2%と、より大きな有益性が認められた。RCB 0または1の割合もニボルマブ群でプラセボ群より改善した。本解析では追跡期間中央値が短すぎるため、無イベント生存期間について結論を出すことはできない。

ER値およびPgR値別にpCR率を解析した結果、ER値またはPgR値あるいはその両方が10%未満の患者は、ER値またはPgR値あるいはその両方が10%以上の患者よりも、ニボルマブの追加投与による効果が大きいことが確認された。注目すべきは、この効果はERが50%以下の場合にも認められたことである。この結果はまだ検証されていないが、ERとPgRが低い患者も早期TNBC患者と同様の治療が可能であることを示唆している。

安全性は既知の安全性プロファイルと一致しており、化学療法にニボルマブを追加しても手術の実施可能性に変化はなかった。新たな安全性シグナルは確認されなかった。ニボルマブ群で発生した5人の死亡例のうち、2人は試験薬の毒性に関連しており、プラセボ群で死亡例はなかった。

CheckMate 7FL試験結果は、この乳がんサブタイプおよびその状況において、術前化学療法に免疫チェックポイント阻害薬を追加することの有益性を確固たるものにするものであり、病理学的完全奏効(pCR)がすべての患者にとってより大きな無イベント生存期間(EFS)改善につながるのか、あるいはPD-L1陽性の腫瘍を有する患者にとってのみなのかは、より長期間の追跡調査で示されることになる。これまでの研究で、TNBCにおけるPD1阻害薬の追加は、PD-L1発現が低い患者を含め、pCR率のわずかな上昇をもたらしたが、有意なEFS改善が観察されたことは注目に値する。

全体として、この結果は、ER陽性、HER2陰性乳がんの術前療法における新たなマイルストーンとなる。なぜなら、この患者集団における病理学的完全奏効(pCR)率を改善するための集中的な取り組みが行われてきたが、今のところ成功していないからである。この知見は、ルミナルタイプの乳がんにおけるT細胞免疫監視と免疫療法反応に関する理解を再構築するものである。間質腫瘍浸潤リンパ球レベルまたは PD-L1発現レベルが高い患者ほどpCR率が高く、このサブセットにおける将来の術前療法研究の新たな基準を設定する可能性がある。

KEYNOTE-756試験

本試験の背景として、第2相のI-SPY2試験において、ペムブロリズマブと術前化学療法との併用は、術前化学療法のみを受けた患者と比較して、MammaPrintスコアで定義される高リスク、ER陽性、HER2陰性の腫瘍を有する患者の推定病理学的完全奏効(pCR)率を倍増した、と著者らは記している。さらに、ペムブロリズマブと術前化学療法の併用は、早期TNBC患者のpCRと無イベント生存期間を改善することが示されている。

KEYNOTE-756試験の試験分担医師らは、これまでの知見を基に二重盲検プラセボ対照第3相試験を実施し、治療歴のないER陽性、HER2陰性のグレード3高リスク浸潤性乳がん患者を、術前療法としてペムブロリズマブまたはプラセボ(3週ごと)をパクリタキセル(毎週)とともに12週間投与し、その後ドキソルビシン/エピルビシンとシクロホスファミド(2週または3週ごと)を4サイクル投与する群に1:1で無作為に割り付けた。手術後に術後放射線治療を併用または併用しない患者は、ペムブロリズマブまたはプラセボによる術後療法を9サイクル投与に加えて術後内分泌治療を受けた。2つの主要評価項目はITT解析(治療意図による解析)集団における病理学的完全奏効と無イベント生存期間であった。

合計で635人がペムブロリズマブ/化学療法群に、643人がプラセボ/化学療法群に割り当てられた。本試験の事前に規定された最初の中間解析において、病理学的完全奏効率はペムブロリズマブ/化学療法群で24.3%、プラセボ/化学療法群で15.6%であった(p = 0.00005)。この解析では無イベント生存期間は成熟していなかった。

腫瘍のPD-L1発現が高い場合およびER陽性率が10%未満の患者サブグループでは、病理学的完全奏効(pCR)率の数値的な上昇が観察された。PD-L1複合陽性スコア(CPS)1未満、1以上、10以上に基づく事前に規定したサブグループにおける推定治療差は、それぞれ4.5、9.8、13. 2パーセントポイントであった。また、PD-L1 CPS 20以上に基づくpCRのサブグループ事後解析では、推定治療差は17.4パーセントポイントであった。また、術前化学療法にペムブロリズマブを追加することで、より多くの患者がより低いRCBカテゴリーに移行し、pCRが認められない患者において、併用療法が手術後に残存する腫瘍組織を減少させる能力を示した。

術前療法期において、グレード3以上の治療関連有害事象は、ペムブロリズマブ/化学療法群で52.5%、プラセボ/化学療法群で46.4%の患者で報告された。ペムブロリズマブ/化学療法群の有害事象は、各薬剤の既知の安全性プロファイルと一致していた。

この結果は、化学療法にペムブロリズマブを追加することで、未治療の高リスク早期HER2陰性乳がん患者の病理学的完全奏効(pCR)率が改善した第2相I-SPY2試験の結果と一致する、と著者らはコメントしている。第3相のCheckMate 7FL試験では、ニボルマブと術前化学療法を併用した高リスク、早期、グレード2または3のER陽性、HER2陰性乳がん患者において、プラセボと術前化学療法を併用した患者と比較して、pCR転帰が同様に改善したことが報告された。もう一つの主要評価項目である無イベント生存期間については、CheckMate 7FL試験およびKEYNOTE-756試験ともにデータは成熟しておらず、引き続き評価中である。

参考文献

Loi S, Salgado R, Curigliano G, et al. Neoadjuvant nivolumab and chemotherapy in early estrogen receptor-positive breast cancer: a randomized phase 3 trialNature Medicine; Published online 21 January 2025. DOI: https://doi.org/10.1038/s41591-024-03414-8
Cardoso F, O’Shaughnessy J, Liu Z, et al. Pembrolizumab and chemotherapy in high-risk, early-stage, ER+/HER2 breast cancer: a randomized phase 3 trialNature Medicine; Published online 21 January 2025. DOI: https://doi.org/10.1038/s41591-024-03415-7

  • 監修 下村昭彦(腫瘍内科/国立国際医療研究センター病院乳腺・腫瘍内科)
  • 記事担当者 佐藤美奈子 
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  • 原文掲載日 2025/02/12

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