緑茶との複合剤で乳癌治療薬を改良できる可能性
英国医療サービス(NHS)
2014年10月6日月曜日
Mail Onlineが「緑茶は新たな抗癌剤開発研究者らの一助となりえる」と報告している。しかし販売店へ駆け込む前に、この研究は緑茶が癌を退治するとは示唆していないことに注意して欲しい。
緑茶に含有されるエピガロカテキン3-Oガレート(EGCG)という魅力的な名前の化合物が研究により発見され、乳癌および胃癌治療に使用されるハーセプチン(トラスツズマブ)などの抗癌剤の効果の改善に役立つ可能性があることが明らかとなった。本研究では、ナノテクノロジー技術を用いて、EGCGと抗癌剤との結合によりタンパク質薬のパッケージングと輸送に関する新たな方法を開発した。研究者らはEGCGとタンパク質抗癌剤のハーセプチンの副産物からなる複合化合物を合成した。
細胞およびマウスの実験では、その化合物は標準治療であるハーセプチンの抗癌作用以上の効力を有する可能性が明らかとなった。
これは有望な結果であり、今後研究が進めばタンパク質薬剤の送達機序向上につながる可能性があるが、開発の初期段階であるこの新治療は保証されているわけではない。
この研究チームがヒトにおける将来性のある治療として試験を考える前に、他の研究グループによる基礎実験とマウス実験の研究結果による確認が必要である。
その時こそ研究者らは、このような薬剤の送達システムはどのような状況で患者に利益をもたらすかを検討することができるであろう。これらの研究では、薬剤の副作用の可能性に対して特に注意を払わなければならない。
一般的に、こうした新たなナノテクノロジーは、長年かけて有用であるかどうかが判明するため、現時点でのこのニュースのインパクトはごく小さいものである。
ナノテクノロジーのちょっとした手引き
ナノテクノロジーとは、工学と化学(話す相手による)の一部門であり、分子や原子レベルで物質を巧みに操るものである。つまり、1メートル数十億分の1しかないサイズを扱っている。
現在多岐にわたる分野で活用されており、新たなタイプの日焼け止めや、日常的なもの(よく飛ぶゴルフボールなど)はもちろんのこと、治癒過程の刺激を促す絆創膏などがある。
評論家のなかには、ナノテクノロジーは薬に大改革をもたらし、細胞レベルでヒトのからだを修復することができると予測している。
研究の由来
本研究は、シンガポールのバイオ工学・ナノテクノロジー研究所、 米国のベス・イスラエル医療センターおよびハーバード大学医学大学院 の研究者らにより行われ、バイオ工学・ナノテクノロジー研究所および 米国国立衛生研究所(NIH)から資金提供を受け、ピアレビュー専門誌であるNature Nanotechnology誌に発表された。Mail Online の取材は広く正確であった。
実験室が基本となる生体工学の本研究は、マウス実験による新薬キャリアテクノロジーを開発した。
ほとんどの薬剤は、薬物材料が的確な部位に届き、的確な時間で放出されることを確実にするため輸送物質を必要とする。
キャリアは通常時間をかけて浸透し、分解される。しかし、キャリアの中には、多量摂取により体内で毒性が発生し、面倒な副作用を引き起こす。
本研究は、体内で簡単に代謝されるキャリア開発による現在の薬物キャリアの改善を目的とし、かつそれ自体が有効となり得ることである。
研究者らは、神経システムとDNAに対する保護効果と同時に、以前の研究で抗癌効果があったと示されていたので緑茶エキスを用いたと述べている。
多くの新しいテクノロジーは、ヒトと大きさは異なるものの、最初にマウスで実験が行われる。それはヒトと同じ哺乳類だからである。しかし、マウスとヒトでは他の何かが作用するため、マウス実験での有益な所見が自動的にヒトへ応用できない。
研究の種類
本研究は、緑茶の主成分のひとつであるエピガロカテキン3-O ガレート(EGCG)の派生物(副産物)をもとに抗癌剤を運ぶ新たな生体化合物を開発した。
研究チームはEGCG派生物をさまざまな抗癌タンパク質と結合させ、複雑に操作したタンパク質の結合体であるナノ複合体として知られるものを合成した。
そのナノ複合体のひとつに次のようなものがある。EGCG派生物と結合した抗癌タンパク質ハーセプチンが核を形成し、さらにそのまわりの別のEGCGが殻を形成しているものである。
結果
研究チームは、EGCG派生物と抗癌タンパク質が組み合わさった安定したナノ複合体の合成を可能にした。
ハーセプチン-EGCG複合体を、癌を有するマウスに注射したところ、EGCGが含まれていないハーセプチンより癌細胞を標的とし(選択性が高い)、癌細胞の成長を抑制し、血中に長く滞留した。
この複合体は、ヒトの乳癌細胞で実験したところ、より優れた抗癌特性もあることが示された。
研究者らは、タンパク質であり、癌治療として化学療法や放射線療法と併用されるインターフェロンα-2aとEGCG派生物を結合させた。このナノ複合体はEGCGが含まれていないインターフェロンα-2aより、癌細胞の成長を抑制した。
結果の解釈
早期片側乳癌女性を対象に米国で実施された大規模コホート研究の結果、乳房温存術(腫瘍とその境界の正常組織を切除する術式で、乳腺腫瘍摘出術とも呼ばれる)+放射線療法との比較において、両側乳房切除術(両方の乳房を切除する術式)による10年死亡率に改善は認められなかった。
片側乳房切除術では、絶対差はわずか4%ではあるが10年死亡リスクが若干上昇した。
しかし、術式の異なる患者間で有意な相違が認められたため、片側乳房切除術による死亡リスク上昇は、一部の測定因子やその他因子(糖尿病等の他疾患の有無など)、あるいは治療機会の相違を踏まえた調整が不十分であったことが理由である可能性がある。
結論
本研究は、それ自体が抗癌特性を持つ可能性があるエピガロカテキン3-Oガレート(EGCG)と呼ばれる緑茶エキスとタンパク質薬剤を結合させ、パッケージングと輸送に関する新たな手法を開発した。
研究者らはEGCG派生物と抗癌タンパク質・ハーセプチンの複合体を合成した。また、細胞実験とマウス実験で、EGCGを含まないハーセプチンより抗癌特性が高い可能性があることが示された。
これは有望な研究であり、今後研究が進めば、タンパク質薬剤の送達機序向上につながる可能性がある。
しかし、本研究は依然開発の初期段階である。研究チームはヒトへの将来性のある治療を考える前に、他の研究グループによる細胞とマウスの研究結果による検証が必要である。
そうしてようやく、このような薬剤送達システムが患者に利益をもたらすかを検討できるであろう。
これらのさらなる研究では、薬剤の副作用の可能性に特に注意を払わなければならない。
緑茶抽出物はよくニュースのトップ記事の題材になるが、多くは薬剤開発の初期段階である。
その他にも、前立腺癌の予防、脳卒中リスクの低減、脳の能力促進、アルツハイマー病の回避に緑茶がどのように役立つかなどが人々の注意を引いている。
その飲み物(緑茶)は『スーパーフード』であるとまで主張する人もいが、これら多くの主張は、強固なエビデンスがないため支持できない。
一般的に、こうした新たなナノテクノロジーは、長年かけて有用であるかどうかが判明するため、現時点でのこのニュースのインパクトはごく小さいものである。
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