健康な女性にも乳がんに似た細胞があることが研究で判明

乳房組織には、浸潤性乳がんに見られる遺伝子変化を持つ正常細胞が含まれており、将来の早期発見へのアプローチの指針となる可能性がある。

健康な女性の場合、一見正常に見える乳房細胞の一部に浸潤性乳がんに多くみられる染色体異常が含まれている可能性があることが、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターの研究者らによる新しい研究でわかった。この発見は、乳がんの遺伝的起源に関する従来の考え方に疑問を投げかけるものであり、がんの早期発見法に影響を与える可能性がある。
 
 2024年11月20日、Nature誌に発表されたこの研究は、49人の健康な女性の乳房組織から採取された正常細胞の少なくとも3%に、染色体の増減(異数性)として知られる状態が存在し、それらが加齢とともに拡大・蓄積していくことを発見したものである。研究責任者のNicholas Navin博士(システムバイオロジー学科長)によれば、これは「正常な」組織に対する私たちの理解に疑問を投げかけるものである。
 
研究者たちは、非浸潤性乳管がん(DCIS)の分子診断および生検を用いた早期発見法の開発を続けているが、これらの知見は課題を提起するものであり、細胞が浸潤性乳がんと誤って混同される可能性があるため、偽陽性と同定される潜在的なリスクを浮き彫りにしている。
 
「がん研究者や腫瘍医がこれらの正常な乳房組織細胞のゲノム画像を見れば、浸潤性乳がんと分類するでしょう」とNavin 氏は言う。「正常細胞には23対の染色体があると常に教えられてきましたが、それは不正確なようです。私たちの研究で分析した健康な女性全員に染色体異常が見られ、がんが実際にいつ発生するのかという非常に興味深い疑問が浮かび上がってきたからです」。
 
この研究は、714,000以上の細胞をプロファイリングし、正常な乳房組織の細胞レベルでの包括的な遺伝子マップを作成したHuman Breast Cell Atlasに関するNavin氏の以前の研究を基礎としている。
 
今回の研究では、乳房縮小手術を受けた既往疾患のない健康な女性49人のサンプルを調べた。研究者らは、臨床乳がんデータと比較して、正常乳房組織における染色体コピー数の変化を調査した。
 
シングルセルシーケンスと空間マッピングを用いて、研究者らは特に乳房の上皮細胞を調査した。Navin氏は、上皮細胞は身体の内外を覆っている細胞であり、がんを生じさせると考えられている細胞であると指摘する。
 
研究者らは、これらの正常乳房組織の上皮細胞の中央値3.19%が異数体であり、82.67%以上が浸潤性乳がんによく見られる拡大コピー数変化を有していたと報告した。興味深いことに、女性の年齢と異数体細胞の頻度およびコピー数変化の数には有意な相関があり、高齢の女性ほどこれらの細胞変化が蓄積していた。
 
最も頻度の高い変化は、浸潤性乳がんによく見られる1q染色体の追加コピーと10q、16q、22の染色体の欠損であった。Navin氏によると、これまでの研究でこれらの領域にも乳がんに関連する特定の遺伝子が同定されている。
 
このデータは、これらの異数性細胞が、エストロゲン受容体(ER)に対して陽性または陰性となりうる明確な遺伝子シグネチャーを持つ、乳腺の既知の細胞系譜の両方を表していることを明らかにした。一方の系統はER陽性乳がんに類似したコピー数の変化を有していたが、もう一方はER陰性乳がんに一致した事象を有しているようであり、両者の起源が潜在的に異なることを強調している。
 
Navin氏は、これは正常集団に見られるまれな異数性細胞についての報告であり、これらの細胞ががん化する潜在的な危険因子があるとすれば、それを特定するためにはさらなる縦断的研究が必要であると指摘している。さらに、上皮細胞は多くの身体系に存在するため、今回の知見が他の臓器にも応用できる可能性があることを強調している。
 
「私たちの身体はある意味では不完全であり、一生の間にこのような種類の細胞を生成する可能性があることを示しています」とNavin氏は語った。「このことは、乳がんの分野だけでなく、複数のがん種にかなり大きな影響を与える可能性があります。これは、必ずしもすべての人が前がん状態で生きているということを意味するわけではありませんが、がんの発生に対する意味を理解するために、より大規模な研究を立ち上げる方法を考える必要があります」。
 
本研究は、米国国立衛生研究所(RO1CA240526、RO1CA236864、1R01CA234496、F30CA243419)、Cancer Prevention and Research Institute of Texas (CPRIT)、Single Cell Genomics Center(RP180684)、アメリカがん協会、Rosalie B、Hite Fund for Cancer Research Fellowshipの支援を受けた。。謝辞、共著者の全リストおよび開示情報はこちらをご覧ください。

  • 監修 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
  • 記事担当者 青山真佐枝
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  • 原文掲載日 2024/11/20

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