【SABCS24】機械学習モデルはHR+/HER2-乳がんのCDK4/6阻害薬への反応予測に有効

実臨床データとゲノムデータの組み合わせにより、臨床データとゲノムデータを分けて調べた場合と比較して、より正確な転帰予測が可能に

ホルモン受容体(HR)陽性、HER2陰性の転移乳がん患者のうち、初回治療としてホルモン療法へのCDK4/6阻害薬の追加がより良い転帰となり得る患者を予測する上で、臨床要因とゲノム要因の両方を組み込んだ機械学習(ML)モデルが、臨床データまたはゲノムデータの一方のみに基づくモデルよりも優れた結果を示した。この結果は、2024年12月10日から13日に開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS)で発表された。

CDK4/6阻害薬とホルモン療法の併用は、HR陽性HER2陰性転移乳がん患者の転帰を有意に改善したが、CDK4/6阻害薬に対する反応は患者によってさまざまであり、著しく良好な効果が得られる患者もいれば、時間の経過とともに治療抵抗性を示す患者や、まったく効果が得られない患者もいると、本研究発表者のPedram Razavi医師(医学博士、スローンケタリング記念がんセンター・グローバル研究プログラム科学ディレクター)は指摘する。

「転移診断時に、CDK4/6阻害薬の追加で利益を得られる患者と得られない患者を特定することが臨床上非常に必要であり、そうすれば前もってescalation(薬物療法などの治療強度を上げること)およびde-escalation(治療効果を損なうことなくより軽度な治療にすること)を検討することができる」とRazavi医師は言う。「転帰をより正確に予測することで、一部の患者は強度の高い先行アプローチに伴う不必要な副作用や経済的負担を回避することもできるだろう」。

Razavi医師の説明によれば、現在、無治療期間(TFI)、すなわち補助ホルモン療法の最終投与から転移疾患および測定可能疾患の発症までの期間などの特定の臨床的特徴に主に基づいて、初回治療でのCDK4/6阻害薬併用で早期進行のリスクが高い可能性のある患者を特定し、escalation治療対象者を特定している。Razavi医師らは、追加の臨床的要因とゲノム要因を含むマルチモーダル機械学習モデルで患者をより正確に層別化できるかどうかを検討したいと考えた。

彼らは、スローンケタリングで開発された機械学習ツールであるOncoCast-MPMを使用して、CDK4/6阻害薬による無増悪生存期間(PFS)を予測する3つのモデルを生成した。1つは臨床病理学的特徴(CF)に基づくモデル、もう1つはゲノム特徴(GF)に基づくモデル、そして1つはCFとGFを統合したモデル(CGF)である。このモデルは、CDK4/6阻害薬を併用する一次ホルモン療法を受け、治療前または治療開始後2カ月以内にMSK-IMPACTによる腫瘍シーケンシングを受けたHR陽性、HER2陰性の転移乳がん患者761人のトレーニングコホートを用いて開発された。MSK-IMPACTは、遺伝子変異を検出し、患者を治療や実行可能がん標的臨床試験に適合させるためにデザインされた検査である。モデルの性能は、326人の患者のホールドアウト検証コホートで検証された。

CFとGFでトレーニングされたモデルはそれぞれ、高、中、低の3つのリスク群を識別し、CFの無増悪生存期間(PFS)中央値はそれぞれ 6.3カ月、15.2カ月、24.5カ月、GFのPFS中央値はそれぞれ 9.9カ月、18.1カ月、23.1カ月であった。

CGF統合モデルは、低リスクと高リスクのカテゴリーの間に位置する2つの中間群を含む4つのリスク群を識別した。PFS中央値は、高リスク群で5.3カ月、低リスク群で 29カ月、中間2群のPFS中央値はそれぞれ10.7カ月、19.8カ月であった。特に、高リスク群と低リスク群間のハザード比は、CFモデルおよびGF モデル (3~4倍の差) と比較して、CGF モデルで有意に高く (6.5倍の差)、CGFモデルによる患者の層別化が優れていることを示している。ホールドアウト検証コホートの検証では、PFSとハザード比がほぼ同一となり、モデルの堅牢性が確認できた。

「3つのモデルはどれも非常に優れた性能を示し、単一または少数の臨床的特徴に基づく従来の臨床リスクモデルを上回った。しかし、臨床的特徴とゲノム的特徴を組み合わせ始めると、解析の威力が格段に向上した」とRazavi医師は述べている。

今回の機械学習モデルによって選択された臨床的因子およびゲノム的因子は、主にCDK4/6阻害薬またはホルモン療法のいずれかの効果または耐性と関連することがわかっているものであった。効果不良の主なゲノム予測因子は、TP53欠失、MYC増幅、PTEN欠失、RTK-MAPK経路の変化、RB1欠失、全ゲノム倍加、およびヘテロ接合性喪失の高割合など、生物学的に妥当な変化であった。主な臨床予測因子としては、肝転移、1年未満のTFI、プロゲステロン受容体陰性、エストロゲン受容体低発現、および内臓転移が含まれていた。

「患者が転移疾患と診断された時には、これらの変数はすべて利用できるものであり、このような機械学習モデルは幅広く適用可能である。今後の期待としては、初発転移疾患の治療への取り組みに変革をもたらすようなescalationおよびde-escalation戦略に関する臨床試験設計にこうしたモデルを組み入れたい」とRazavi医師は話す。「初回治療でCDK4/6阻害薬を使用している患者が高リスク群に属していることがわかれば、治療を担当する腫瘍医は、より綿密に疾患の経過を観察し、リキッドバイオプシーと腫瘍由来バイオマーカーを利用して、二次治療オプションと臨床試験のために情報を提供することができる。これにより、乳がんに一歩先んずることもできる」。

この研究の限界としては、単一施設での設計、後ろ向きデータ解析、専門がんセンターに関連する潜在的紹介バイアスなどが挙げられる。これらの課題に対処するために、Razavi医師とチームは外部データセットを使用するモデルを検証中であり、医師が臨床データとゲノムデータを入力して患者固有の転帰予測を受け取ることができるオンラインツールの開発を目指している。

(本研究の資金提供については、原文を参照のこと)

  • 野長瀬祥兼(腫瘍内科/市立岸和田市民病院)
  • 記事担当者 山田登志子
  • 原文を見る
  • 原文掲載日 2024/12/13

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