次世代SERDのイムルネストラントが、標準ホルモン療法抵抗性の進行乳がんに有効【SABCS24】

イムルネストラントがアベマシクリブとの併用、またはESR1変異乳がんにおいて単剤で有効

臨床試験段階の次世代選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)であるイムルネストラント[Imlunestrant]は、ホルモン療法既治療のER陽性HER2陰性進行乳がんに対して、ESR1遺伝子変異を有する患者では単剤療法として、またESR1遺伝子変異の有無にかかわらず全患者においてはアベマシクリブ(販売名:ベージニオ)との併用療法として、無増悪生存期間を改善した。この結果は第3相EMBER-3試験の結果として、2024年12月10日から13日まで開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウム(SABCS) で発表され、同時にNew England Journal of Medicine誌にも掲載された。

「このEMBER-3試験の主な目的は、脳関門通過性を有する経口SERDであるイムルネストラントを単独、またはCDK4/6阻害薬であるアベマシクリブとの併用において評価することでした。対象はアロマターゼ阻害薬単独またはCDK4/6阻害薬との併用による治療中または治療後に、再発または進行したER陽性HER2陰性進行乳がん患者さんです」と、スローンケタリング記念がんセンターPatricia and James Cayne Chair for Junior Faculty、内分泌療法研究プログラム部門長、早期薬剤開発サービスの臨床責任者であり、本研究の発表者であるKomal Jhaveri医士は述べた。

「CDK4/6阻害薬は、アロマターゼ阻害薬による標準のホルモン療法に追加する重要な薬剤です。もし乳がんが進行した場合、SERDとCDK4/6阻害薬との併用が有用です。しかし、フルベストラント(販売名:フェソロデックス)のような既存のSERDは、経口投与した時のバイオアベイラビリティ(生物学的利用能)がないことや、毎月の筋肉内注射の必要性があり、またESR1変異を有する患者に有効性が限られているなどの理由から、イムルネストラントのような新規SERDが、有効性と投与の簡便性の両方を改善するように開発が進められています」と、Jhaveri氏は述べ、ホルモン療法で進行する患者のうち、ESR1変異を有するのは40%〜50%であることを指摘した。

フルベストラントとは異なり、イムルネストラントは経口投与が可能で、血液脳関門を通過することができるため、中枢神経系転移を標的にできる可能性がある、とワイルコーネル医科大学の准教授でもあるJhaveri氏は説明する。

今回の多施設共同試験では、ER陽性HER2陰性の進行乳がん患者874人を、イムルネストラントを単独で投与する群、標準ホルモン療法(フルベストラントまたはエキセメスタン)を単独で投与する群、イムルネストラントとアベマシクリブを併用で投与する群、のいずれかに、無作為に割り付けた(1:1:1)。

標準ホルモン療法と比較すると、イムルネストラントは、ESR1変異を有する患者において無増悪生存期間を有意に改善したが、全集団においては改善しなかった。ESR1変異を有する患者では、イムルネストラントによって進行または死亡のリスクが38%減少した。

「これらの有望な結果は、イムルネストラントが、ESR1変異を有する多くの再発乳がん患者にとって、もう一つの単剤治療の選択肢となる可能性があることを意味します」とJhaveri氏は述べる。

さらに、無増悪生存期間中央値は、イムルネストラント+アベマシクリブ併用群が9.4カ月、イムルネストラント単独群が5.5カ月となり、イムルネストラント+アベマシクリブ併用群では、イムルネストラント単独群と比較して、進行または死亡のリスクが43%減少した。経口投与が可能なこの2つの治療薬の併用による有益性は、ESR1遺伝子変異やPI3K経路変異の有無、CDK4/6阻害薬による治療歴の有無などに関わらず、すべての患者で観察された。

「二次治療の対象となる患者さんのほとんどがCDK4/6阻害薬による治療歴があり、現在使用可能な多くの二次治療がバイオマーカーの選択を必要とすることを考えると、臨床的に関連するサブグループ間で結果が一貫していることは心強いです」とJhaveri氏は指摘し、このデータは日常診療を変えるものであると述べた。

Jhaveri氏によると、イムルネストラントは単剤療法でも併用療法でも忍容性は良好であった。イムルネストラントの安全性プロファイルは良好、一般に低グレードで管理可能な有害事象であり、経口SERDに特有とされる眼科的または心臓に関する安全性の懸念は認められなかった。併用療法の安全性プロファイルは、フルベストラントとアベマシクリブの既知のプロファイルと一致しており、中止率は6.3%と比較的低く、利用可能な併用レジメンと比較しても良好であった。さらに、患者報告アウトカムでは、フルベストラントの投与を受けた患者の72%が注射部位の疼痛、腫脹、発赤を報告している。

「これらのデータを総合すると、イムルネストラント単剤またはイムルネストラント+アベマシクリブ併用療法は、ER陽性・HER2陰性の進行性乳がん患者に対し、ホルモン療法が進行した後に全て経口で行える標的療法の選択肢を提供できる可能性を示しており、患者さんにとって喜ばしいことです」

試験の限界の1つは、第3相のpostMONARCH試験やEMERALD試験とは異なり、EMBER-3試験ではCDK4/6阻害薬による治療歴を必要としなかったことである。しかし、EMBER-3の併用療法比較では、ほとんどの患者(65%)がCDK4/6阻害薬による治療歴があり、イムルネストラント+アベマシクリブの治療効果は全集団と一致していた。

本研究はEli Lilly and Companyより助成を受けた。Jhaveri氏は、Novartis、Pfizer、Taiho Oncology、Genentech、AbbVie、Eisai、AstraZeneca、Blueprint Medicines、Daiichi Sankyo、Sun Pharma Advanced Research Company Ltd.、Menarini/Stemline Therapeutics、Gilead、Scorpion Therapeutics、Olema Pharmaceuticals、Bicycle Therapeutics、Lilly/Loxo Oncology、およびZymeworksとコンサルティングまたはアドバイザリー契約を結んでいる。Jhaveri氏はまた、Novartis、Genentech、AstraZeneca、Pfizer、Lilly/Loxo Oncology、Zymeworks、Immunomedics/Gilead、Puma Biotechnology、Merck Pharmaceuticals、Context Therapeutics社、Scorpion Therapeutics、Eisai、RayzeBio、Blueprint Medicinesからも研究資金援助を受けている。

  • 監修 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
  • 記事担当者 平沢沙枝
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  • 原文掲載日 2024/12/11

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