乳がん個別化試験で、免疫陽性サブタイプにDato-DXd/イミフィンジが効果改善
早期乳がんに対し、抗体薬物複合体Dato-DXdと免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブの術前併用療法が有用である可能性がI-SPY 2.2試験で示された。
乳がんは、米国および世界のがん種別死亡原因で第2位である。そのため、生存率を向上させ、長期的な治療関連毒性を軽減するような治療計画や治療法が依然として必要であるが、これは特に、乳がんの中で悪性度の高いサブタイプで言えることである。このタイプの患者の多くは病気を克服する一方で、末梢神経障害、副腎機能不全、治療関連白血病、長期的な心臓障害など、深刻な合併症に長期間苦しむ。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)が主導するI-SPY試験コンソーシアムは、10年以上にわたり、第3相臨床試験で標的治療レジメンを迅速に特定することに焦点を当て、早期乳がんに対する新たな治療法の開発を加速させるべく取り組んできた。そのフォローアップとなるI-SPY 2試験では、ステージ2、3の分子学的に高リスクな乳がん患者を対象に、病理学的完全奏効(pCR)を初期エンドポイント終点として設定。pCRとは、治療に奏効してがんの所見が完全に消失した状態を指し、合併症が少なく、良好な長期転帰が予想されることと強く相関している。
I-SPY 2.2試験では前回と同様、同じ乳がんサブタイプで有効性が認められた群に優先的に患者を割り当てるアダプティブ・ランダム化アルゴリズムを用いて、複数の薬剤を並行して評価する。この試験では、連続多段階ランダム割付試験(SMART)デザインにより、薬剤を連続的に試験し、患者個々の反応に基づいて治療を最適化する個別化された治療アプローチが可能である。
「I-SPY 2.2試験は、I-SPY試験のうち最新のもので、患者さんへの負担が少なく、わかりやすい試験デザインとなっています。各患者さんが最小限の毒性で最良の結果を得られるような、生物学的特性を標的にした治療を特定し、開発することが最終目標です。この臨床試験がまさにそれを実現するでしょう」と、I-SPY 2.2試験ファウンダー兼主任研究員、UCSF乳がんケアセンター所長、UCSF乳がん腫瘍学プログラムの共同リーダーであるLaura Esserman医師(経営学修士)は述べた。
I-SPY 2.2試験で、1つの試験群に関する最近の結果が9月14日付のNature Medicine誌で発表された。それによると、免疫陽性、および通常再発リスクが高いトリプルネガティブの乳がんサブタイプでは、抗体薬物複合体ダトポタマブ デルクステカン(Dato-DXd)と免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブ(一般名:イミフィンジ)との併用で、高い割合でpCRが達成された。HER2陰性乳がん患者106人のうち、全体の50%が完全奏効を達成した。重要なのは、完全奏効を達成した免疫陽性サブタイプの患者のうち、50%以上が標準的な化学療法を受けず、90%以上が特に毒性が高い標準治療のひとつであるドキソルビシン シトキシン(AC)を必要としなかったことである。
SMART試験のデザインでは、術前療法が3つのブロックに分けられる(事前に規定された6つのHER2陰性サブタイプ)。患者はまず、異なる新規薬剤にランダムに割り付けられ治療を行う(ブロックA)。次に特定の腫瘍サブタイプに合わせたタキサンベースの化学療法レジメンが行われ(ブロックB)、続いてドキソルビシン シクロホスファミドまたはACの併用化学療法レジメン(ブロックC)が実施される。臨床目標は、患者それぞれに必要最低限の治療を行い、毒性への曝露を最小限に抑えながら、pCRを達成することである。各ブロックの後に、MRIによる体積変化と針組織生検に基づくサブタイプ別アルゴリズムにより治療の方向転換が指示された。pCRの可能性が高いと予測された患者には、早期手術の選択肢も含まれた。
免疫陽性サブタイプでは、ブロックAの後、Dato-DXd/イミフィンジ併用療法は成功の閾値を上回り、全ブロックで79%の完全奏効率を示した。このpCRは、標準治療(術前化学療法)で予測される率と同程度であったが、Dato-DXd/イミフィンジ単独(ブロックA)では54%、ドキソルビシン シクロホスファミドなし(ブロックA+Bの後)では92%が同様の結果であった。ホルモン陰性/免疫陰性のサブタイプでは、Dato-DXdとイミフィンジによる治療により、3つの治療ブロックすべてにおいてpCR率が46%となり、成功の閾値を超えた。「重要な結果がこのように次々と発表されるのは非常に喜ばしいことです」と、本研究の統括著者であるEsserman氏は述べた。「Dato-DXd/イミフィンジは、多くの患者さん、特にサブタイプが免疫陽性の患者さんにとって、標準化学療法を不要にする可能性のある有望な併用療法です」。
試験で新たな毒性は観察されなかった。 吐き気、疲労、口内炎、発疹などの一般的な副作用はブロックAで観察されたが、それらはほぼすべて軽度で、治療後に解消した。 ブロックAの治療のみを受けた患者で副腎機能不全を発症した患者はいなかった。 ブロックBおよびCにおける神経障害や血球減少などの副作用は、タキサン系薬剤および化学療法による治療と一致していた。SMART試験のデザインにより、Dato-DXd/イミフィンジ単独のような術前補助療法を評価し、副作用を最小限に抑えることができるという利点が示された。
「生物学的特性と観察された反応に合わせて治療を調整する手法は、個別化治療において素晴らしい進歩です」とEsserman氏は述べた。「私たちは、試験内で個別化治療を行うランダム化試験が可能であることを示しました。この患者さんが中心であるという特徴は、患者さんがこうした研究に参加したいと思う理由となります。この群あるいは評価を行うすべての群から得られる結果は、常に私たちに情報を提供し続け、私たちは試験デザインについて理解し、改善することができます」。
現在も試験は継続中で、研究者らは特定の患者の経験や治療結果に基づいて調整を行っている。Dato-DXd/イミフィンジ併用治療によって最も効果を得られそうな、免疫陽性サブタイプとホルモン陰性免疫陽性DNA修復欠損サブタイプの組み合わせについて、引き続き調査を行いたいとしている。
この試験から得られたもう一つの興味深い知見は、特に化学療法への反応率が低いサブタイプの1つであるルミナルB乳がんの35%が、この治療を経た後にがんの残存が認められなかったり、認められてもごくわずかであったことである。これは、すでに第3相試験が進行中であるDato-DXdのより長期的な治療コースの検討を必要とする可能性がある。しかし、このことは、ルミナルB型乳がんのようなサブタイプが免疫を標的とした治療に対して反応性を持つようになる可能性を示唆している。
※共著者、資金提供、開示事項については原文参照のこと。
- 監修 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
- 記事担当者 平沢沙枝
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- 原文掲載日 2024/09/27
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