乳癌の放射線療法に対する耐性をタンパク質ZEB1が促進
乳癌の放射線療法に対する耐性をタンパク質ZEB1が促進
MDアンダーソンがんセンターニュースリリース
ツイスト(ねじれ)、カタツムリ、ナメクジ、とあたかも童謡に出てくる言葉のようだが、これはさまざまなタイプの組織を形成する能力を持つ、幹細胞様の性質の細胞を産生するタンパク質に命名された風変わりな名称である。
さらに風変わりな名称でZEB1(ジンクフィンガーホメオボックス/1zinc finger E-box binding homeobox 1)というタンパク質があり、米国ヒューストンにあるテキサス大学MDアンダーソンがんセンターでの研究から、放射線療法による乳癌治療を妨げると現在考えられている。
MDアンダーソンの実験放射線腫瘍学の助教、Li Ma博士は、2014年8月発行のNature Cell Biology誌に、ZEB1が実際にはDNA損傷反応経路として知られる最も重要な防御反応を増強し、放射線療法により損傷した乳癌細胞DNAの修復を促進する可能性について、発表した。
「放射線療法は、DNAの損傷を誘発し細胞死を生じます。放射線を用いて正常細胞を損傷せずに腫瘍を治療する理論的根拠は、正常細胞と比較して腫瘍細胞では細胞分裂が活発であり、DNA損傷修復機構が大抵は欠損しているためです」とMa氏は述べた。
このため腫瘍細胞はDNA損傷の修復能が低い。ただし、常に低いとは限らない。放射線に対し耐性のある腫瘍細胞が生じる場合もある。こうした細胞は何らかの理由でDNA損傷応答機構を「作動」することが可能なのである。現在まで、なぜその機序が作動するのかが解明されていなかったのである。
Maの研究班によって、腫瘍細胞が破壊される直前に、DNA損傷応答機構という非常ボタンを作動するという狡猾な腫瘍細胞の能力は、癌幹細胞を発現する傾向を持つZEB1により誘発されることが示された。
「癌幹細胞ではDNA損傷反応機構の活性化により放射線抵抗性が促進されることが示されています」とMa氏。「われわれの研究から、ZEB1は上皮間葉移行(EMT)として知られるプロセスを誘発し、これにより癌細胞が放射線耐性などの癌幹細胞特性を獲得することが示されました」。
EMTは、創傷治癒に対する人体の反応の1つの機構であり、そして癌細胞が腫瘍増殖にEMTを利用する機序を獲得したと考えられている。
ZEB1は、ATMの名で知られる遺伝子がDNA傷害応答機構における重要な役割を果たすタンパク質Chk1を安定化させるという複雑な事象の連鎖によりこの好ましくない結果を達成した。ZEB1はChk1の作用を促進することで、USP7と呼ばれる酵素の動員を介し癌細胞の放射線抵抗を獲得する。
有害な放射線治療にも関わらず、このシグナル伝達経路が腫瘍の増殖を維持する仕組みについて理解を掘り下げることで、放射線抵抗性に対処する新たな治療法を開発することが可能かもしれない。
「放射線療法は乳癌の治療に重要な役割を果たします」とMa氏。「放射線抵抗性腫瘍細胞という障害を乗り越えるため、重要な原因を特定し、CHK1を抑制するZEB1を標的とする薬剤を含め安全で有効な新しい治療法を開発することが重要となります」。
Ma氏による研究への参加者は以下の通り。Collaborators in MD Anderson’s Departments of Molecular and Cellular Oncology, Radiation Oncology, and Bioinformatics and Computational Biology. Other participating institutions included the University of Louisville Health Sciences Center in Louisville, Ky., the Houston Methodist Research Institute, China Medical University, Taiwan, and The University of Texas Health Science Center Graduate School of Biomedical Sciences in Houston
本研究は米国国立研究所(R00CA138572, R01CA166051, R01CA181029 and U54CA151668)およびCancer Prevention Research Institute of Texas scholar award(R1004)の資金援助を受けて実施されたものである。
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