乳がん後の母乳育児が安全であることを証明する初めての研究結果
● 欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2024で発表された2つの国際的な研究により、乳がん治療後に母乳育児をした女性において、再発や新たな乳がんの増加はないことが示された。
● この結果は、乳がん後の母乳育児が、この選択肢を望む若い女性において実行可能であり、安全であるという最初の証拠を提供するものである。
ESMO2024で発表された2つの国際的な研究によると、生殖細胞系列のBRCA変異(特定のがん、特に乳がんの発症リスクを著しく増加させるBRCA遺伝子の遺伝的変化)を有する女性を含め、乳がんの治療を受けた後に母乳育児をする女性は、再発や新たな乳がんの発症リスクが増加することはない(1、2)。
「私たちの研究は、生殖細胞系列のBRCA変異を持つ若い女性における乳がん後の母乳育児の安全性に関する最初の証拠を提供します」と、研究の1つを発表するEva Blondeaux博士(IRCCS Ospedale Policlinico San Martino[イタリア、ジェノバ]の腫瘍医)は述べた(1) 。「このことは、これらの女性が、母親のニーズと赤ちゃんのニーズのバランスを達成できる可能性を示しています」。
乳がんはホルモンに依存するという性質があるため、以前は乳がん後の妊娠や母乳育児について懸念があった。これは特にBRCA遺伝子変異を持つ女性に当てはまり、もう片方の乳房に2回目の乳がんを発症するリスクが依然として高い。最近の研究で、生殖補助医療(3)や妊娠は、生殖細胞系列のBRCA変異を有する女性を含め、乳がんの再発や新たな症例(4)のリスクの増加とは関連しないことが示された一方で、これらの女性における母乳育児の実行可能性や安全性については、ほとんどエビデンスが得られていなかった。
「これらの新しい知見によって、こういった患者に対するカウンセリングの方法が改善されることを願っています」とBlondeaux博士は語った。この国際的研究では、生殖細胞系列のBRCA遺伝子変異を有し、乳がんを克服した約5000人の若い女性を追跡調査した。その後出産した女性474人のうち、ほぼ4人に1人が母乳で赤ちゃんを育てていた。半数弱は、将来のがんリスクを減らすために両方の乳房を切除したため、母乳で育てることができなかった。出産から7年間(中央値)の追跡調査後、母乳育児をした女性では、母乳育児をしなかった女性と比較して、乳がんの再発や新たな乳がんの発生数に差はなかった(調整部分分布ハザード比1.08、95%信頼区間0.57-2.06、p=0.82)。無病生存期間や全生存期間にも差はなかった。
調査をBRCA以外にも拡大し、ホルモン受容体陽性の早期乳がんの女性を対象とした2つ目の新しい研究でも、同様の結果が示され、母乳育児に関連するリスクは認められなかった(2)。
「これらの結果は、乳がん後に妊娠し母乳で育てたいと願う女性にとって重要なことです」と、本研究の共著者であるFedro Alessandro Peccatori博士(不妊・生殖ユニット長:ヨーロッパ腫瘍学研究所IRCCS[ミラノ、イタリア]) は述べた。
「乳がんサバイバーを、がんに罹患していない女性と同じように、あらゆる権利、ニーズ、可能性を有する女性として捉え始める時です」と博士は強調した。「医師たちは、これらの女性に赤ちゃんを産む機会を与えることに不安を抱いていましたが、私たちは最近、この方法が短期的には安全であることを示しました。今、この新しい情報により、乳がんサバイバーにとって母乳育児は不可能であり安全ではないという神話を覆すことができます。彼女たちは母乳育児を含め、正常な妊娠と赤ちゃんとの関係を持つことができるのです」。
国際的な臨床試験であるPOSITIVE試験には、出産のために乳がん治療を一時中断した女性518人が参加し、317人が少なくとも1回の出産を経験し、そのうちのほぼ3人に2人が母乳育児をしていた(62%)。最初の出産から2年後、乳がんの再発または新たな乳がんに罹患した女性の割合は、母乳育児をした女性(3.6%)としなかった女性(3.1%)で同程度であった。
この結果について、本研究には関与していないが、Gustave Roussy(ヴィルジュイフ, フランス)の腫瘍内科医兼研究者であるMaria Alice Franzoi博士は、次のように述べている: 「乳がん治療を受けた若い女性の母乳育児の可能性と安全性については、これまで質の高いデータが不足していました。これまで、女性や医療提供者は、乳がん手術後に母乳育児が可能かどうか、授乳のために補助療法を中断することの安全性、授乳に関連するホルモンの変化に関する情報が不足していました」と説明した。しかし、理想的には、追跡調査をもっと長く続けるべきだと注意を促した。
「これらの2つの研究から得られたデータは、乳がんと診断された若い女性たちとの実際的な話し合いの指針として非常に役立つでしょう」とFranzoi氏は続けた。「私たちは、診断の時点で、希望する女性のための妊孕性温存、妊娠、母乳育児を含むサバイバーシップケアの計画について考え、議論すべきです。そうすれば、乳がん治療の全過程において、共同意思決定に向けて準備が整い、力づけられるのです」と同氏は結んだ。
参考文献(原文)
1. Blondeaux E, Delucchi V, Mariamidze E et al. Breastfeeding after breast cancer in young BRCA carriers: results from an international cohort study. Abstract 1815O, presented at the ESMO Congress 2024 (13-17 September), Proffered Paper Session on Saturday, 14 September, 14:45-16:25 (CEST) in the Pamplona Auditorium - Hall 3.
2. Azim HA, Niman S, Partridge AH et al. Breastfeeding in women with hormone receptor-positive breast cancer who conceived after temporary interruption of endocrine therapy: Results from the POSITIVE trial. Abstract 1814O. presented at the ESMO Congress 2024 (13-17 September), Proffered Paper Session on Saturday, 14 September, 14:45-16:25 (CEST) in the Pamplona Auditorium - Hall 3.
3. Lambertini M, Magaton IM, Hamy-Petit A-S et al. Safety of assisted reproductive techniques in young BRCA carriers with a pregnancy after breast cancer: results from an international cohort study. Abstract 266O presented at ESMO Breast Cancer 2024.
4. Partridge AH, Niman SM, Ruggeri M et al. Interrupting endocrine therapy to attempt pregnancy after breast cancer. NEJM 2023; 388: 1645-1656
5. Lambertini M, Blondeaux E, Agostinetto E et al. Pregnancy after breast cancer in young BRCA carriers. An international hospital-based cohort study. JAMA 2024; 331: 49-59
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- 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立国際医療研究センター乳腺腫瘍内科)
- 記事担当者 青山真佐枝
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- 原文掲載日 2024/09/09
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