デノスマブなどの骨修飾薬に起因する顎骨壊死はそれほど稀ではない
がんが骨転移した場合、患者は疼痛や骨折などの骨関連事象を緩和する薬を投与されることが多い。しかし、こうした薬剤によって時として顎骨の一部が壊死することがある(顎骨壊死)。
顎骨壊死は、デノスマブ(Xgeva、日本での販売名:ランマーク)や、ゾレドロン酸などのビスホスホネート製剤を含む、上記治療薬の稀な副作用と考えられていた。しかし、新たな研究で、この重篤で痛みを伴う副作用は、これまで考えられていた以上に高頻度で発生することが判明した。
オーストリアで実施された本研究で、転移乳がん患者の約9%が骨修飾薬(骨吸収抑制薬)投与後に顎骨壊死を発症したことが判明した。
デノスマブ投与患者が顎骨壊死を発症する可能性は、ビスホスホネート製剤投与患者と比較して5倍近くであったことが示された。本研究結果は、Journal of Clinical Oncology誌8月20日号に掲載された。
「(顎骨壊死は)生活の質に重大な影響を及ぼす可能性があるため、この結果は重要な知見である」と本研究の筆頭研究者であるChristine Brunner医師(インスブルック医科大学)らは記した。
本研究は転移乳がんに重点を置いたものであるが、多発性骨髄腫、肺がん、および前立腺がんなど、骨から始まる、あるいは骨に転移する他の種類のがんも骨修飾薬で治療されているとStanley Lipkowitz医学博士(NCI女性悪性腫瘍部門主任)は指摘した。
「(骨修飾薬で)同様に管理されている他のがんでも、(顎)骨壊死の比率が同様に上昇する可能性は十分にあります」とLipkowitz氏(本研究には不参加)は述べた。
20年間にわたる顎骨壊死の研究
多くの研究で、がん患者が顎骨壊死に罹る頻度が調べられているが、本研究はいくつかの点で異なっているとLipkowitz氏は述べた。
主な相違は、本研究が20年間収集されたデータを含むことであると言う。他の研究では数年間しかデータが収集されていない。
「長期にわたる追跡調査により、(骨修飾)薬の投与期間が長いほど、(顎骨壊死の)発症率が高くなることがわかりました」とLipkowitz氏は述べた。顎骨壊死の発症率は、最初の1年間は低かったが、治療年数とともに上昇し続けた。この治療薬は通常、無期限で投与されるものである。
乳がんは骨転移することが多いため、本研究結果は重要な知見であるとLipkowitz氏は述べた。
また、転移乳がんに対する、より新しく効果的な治療薬により、患者の生存期間は延長し、骨修飾薬の投与期間も長期化しているとLipkowitz氏は言い添えた。
デノスマブは顎骨壊死のリスクが高い
顎骨壊死の発症頻度を調べるために、Brunner氏らは2000年から2020年まで、オーストリアのある州に住む乳がん患者のデータベースを調査した。
その結果、骨転移した乳がん患者で、デノスマブ、ビスホスホネート製剤、またはその両方を投与された639人が見つかった。いずれの種類の薬剤も月に1回投与された。
全体として、こうした患者の9%にあたる56人が顎骨壊死を発症したことがわかった。デノスマブ投与患者はビスホスホネート投与患者と比較して、顎骨壊死発症率が高かった(12%対3%)。ビスホスホネート製剤投与後にデノスマブを投与された患者の顎骨壊死発症率が最も高かった(16%)。
しかし、両方の薬剤を投与されていた患者は非常に少ないとLipkowitz氏は指摘する。本研究において、この両剤投与を受けていた少数の患者は、ビスホスホネート製剤投与から始まり、2010年にデノスマブが標準治療となった後にデノスマブに切り替えた可能性が高いとのことである。
本研究の限界の1つは、患者が治療を開始する前に歯科検診を受けていなかったことであるとCesar Migliorati歯科医学博士(フロリダ大学歯学部)は述べた。そのため、治療開始前に、歯周病や歯の感染症(顎骨壊死の2大危険要因)に罹っていた患者の人数は不明である。
もし多数の患者に歯科基礎疾患があったのであれば、こうした疾患が顎骨壊死発症率を上昇させた可能性があるとMigliorati氏と解説した。同氏は、本研究には関与していないが、顎骨壊死と骨修飾薬との関連を最初に報告した1人である。
骨修飾薬投与を受ける患者への助言
顎骨壊死は口内に痺れを引き起こし、強い痛みを伴う可能性があるとMigliorati氏は解説した。そのために嚥下や会話が困難になる可能性もある。
顎骨壊死の重症例は治療も困難であるため、予防が重要であるとLipkowitz氏は述べた。専門医によると、顎骨壊死を予防するための最善の方法は、骨修飾薬投与を受けながら、歯磨き、禁煙、定期的な歯科受診などで口腔衛生を維持することである。
骨修飾薬投与を開始する前に、歯科検診を受けることも非常に重要であるとMigliorati氏は指摘する。歯周病や歯の感染症に罹っている場合は、骨修飾薬投与を開始する前にそれを解決する必要があると言い添えた。
そして、腫瘍内科医が歯科医と連絡を取り、治療計画について話し合うことが非常に重要であるとともに、骨修飾薬で想定される危険性と利益の両方を患者ごとに検討する必要があるとMigliorati氏は述べた。
例えば、デノスマブはビスホスホネート製剤と比較して骨関連事象の治療に有効であることが複数の研究で示されているが、本研究では、デノスマブに替えると顎骨壊死リスクが高くなることが示されたとLipkowitz氏は指摘した。
良い知らせもあるとLipkowitz氏は述べた。ビスホスホネート製剤であるゾレドロン酸は、オーストリアでの本研究での事例のように1カ月に1回ではなく、3カ月に1回の投与でも同様に有効であることが、いくつかの新規研究で示されている。同じことがデノスマブにも当てはまる可能性があるが、決定的な臨床試験はまだ進行中とのことである。
3カ月ごとの投与であれば、患者は「期間内で投与される薬剤の総量が減少する」ことになるとLipkowitz氏は解説し、このことは「完全にはわかっていない」が、投与中の顎骨壊死の発症リスクを減少させる可能性があると述べた。
- 監修 小坂泰二郎(乳腺外科/JA長野厚生連 佐久総合病院 佐久医療センター)
- 記事担当者 渡邊 岳
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- 原文掲載日 2024/09/26
【この記事は、米国国立がん研究所 (NCI)の了承を得て翻訳を掲載していますが、NCIが翻訳の内容を保証するものではありません。NCI はいかなる翻訳をもサポートしていません。“The National Cancer Institute (NCI) does not endorse this translation and no endorsement by NCI should be inferred.”】
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