早期HER2陽性乳がんの再発予防に抗体薬物複合体トラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)が極めて有効
ステージ1のHER2陽性乳がん患者において、抗体と化学療法薬で構成される薬剤での1年間の治療は、再発予防に非常に効果的であることが、ダナファーバーがん研究所が主導する研究チームにより証明された。
HER2タンパク質が陽性と判定された早期乳がん患者512人を対象とした臨床試験において、手術後にトラスツズマブ エムタンシン(T-DM1)(商品名:カドサイラ)を投与された患者の97%は、治療後5年経過しても生存しており、浸潤がんも確認されなかった。著者らは、本日公開のJournal of Clinical Oncology誌に掲載された今回の結果は、ステージ1の患者にとってT-DM1が妥当な治療法であることを示した、と述べた。
この試験で研究者らは、T-DM1による治療後にがんが再発する可能性を示すバイオマーカーも探した。その結果、HER2DX検査(臨床的因子と腫瘍組織内の4つの遺伝子の活性を評価する)のスコアが高い患者は、再発リスクが高いことが判明した。
「ステージ1のHER2陽性乳がんの再発率は5~30%です。術後、化学療法とHER2に結合する抗体トラスツズマブによる治療により、再発リスクを大きく減少させることができます。しかし、副作用は患者さんのQOLに悪影響を及ぼしかねません」と、筆頭著者で、ミラノ大学(イタリア)と、ダナファーバーの Paolo Tarantino医師は言う。「今回の研究では、このタイプの患者さんを対象として、強力な化学療法薬にトラスツズマブを結合させたT-DM1の有効性と毒性を評価しました」。
抗体薬物複合体として知られるT-DM1は、現在、HER2陽性乳がんに対し、術後療法、術前治療後にがんが残存する場合の術後療法、また、転移性HER2陽性乳がんの治療薬としても承認されている。今回のランダム化第2相試験、ATEMPT試験では、ステージ1のHER2陽性乳がん、がんが小さくリンパ節転移のない患者が対象であった。
この試験には全米のがん関連施設で512人の患者が登録された。このうち384人がT-DM1、128人が化学療法とトラスツズマブによる治療を受けた。研究者らは、治療から5年後、T-DM1を投与された患者の97%にがんの再発が認められなかったことを明らかにした。臨床に関連する毒性の発現率は、T-DM1群と化学療法+トラスツズマブ群で同程度であった。しかし、本試験の患者報告アウトカムでは、T-DM1群の方が化学療法+トラスツズマブ群よりも、神経障害や脱毛が少なく、労働生産性が高かった。
HER2DX検査の結果、リスクスコアが設定された閾値以上の患者は、がん再発の可能性が有意に高かった。
「ATEMPT試験から、ステージ1のHER2陽性がん患者さんに術後1年間T-DM1投与すると、非常に良好な長期予後が得られることがわかりました」 と、統括著者のダナファーバーがん研究所乳腺腫瘍科主任Sara Tolaney医師(公衆衛生学修士)は述べた。
- 監修 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立国際医療研究センター乳腺腫瘍内科)
- 記事担当者 平沢沙枝
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- 原文掲載日 2024/06/27
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