アジア系アメリカ人に対する乳癌リスク評価の更新

NCIニュース

研究者らは、アジア太平洋諸島系アメリカ人女性(Asian and Pacific Islander American :APA) 向けにより正確な予測乳癌リスク評価法を作成した。現在最新のリスク予測は非ヒスパニック系白人女性のデータに基づいているが、研究者らは今回、中国、日本、ハワイ、他の太平洋諸島などのアジア系アメリカ人女性に対しより特化したリスク評価の統計的モデルを発表した。

このモデルは、米国国立衛生研究所の一部門である米国国立癌研究所(NCI)の研究者らにより、2011年5月11日付Journal of the National Cancer Institute誌電子版の論文に掲載された。

NCIの乳癌リスク評価ツール(BCRAT)は一人の女性が浸潤性乳癌を発症するリスクを予測するもので、患者のカウンセリングや乳癌予防試験への適格性を決定するために利用される。これはGailモデルに基づいており、各個人と家族の病歴情報をもとに今後5年間および生涯にわたり乳癌を発症する確率を算出する。BCRATは当初白人女性データに基づくものであったが、後にCAREモデルというアフリカ系アメリカ人女性の新しい予測リスクモデルが補足された。この最新モデルの発行に当たりBCRATは新しいアルゴリズムを含むものに再度更新され、APA女性への精度に対する注釈は削除された。

「今回の新しいモデルは、特定のサブグループを母集団とする最新データを集積し、更新し続けているNCIの乳癌リスク評価ツールの最新版です」と統括著者であり後にオリジナルモデルの名称となったMitchell H. Gail医学博士は述べた。

このモデルを作成するために、Gail医師と共同研究者らはAsian American Breast Cancer Study (AABCS)のデータと、NCIのSurveillance, Epidemiology, and End Results (SEER)プログラムのデータを関連させた。AABCSは地域住民を対象とした研究で1500人以上のAPA女性を含み、その38%が浸潤性乳癌であった。得られたアルゴリズムは、閉経後女性の健康問題に関する研究である、NIH の女性の健康イニシアチブに含まれる約4000人以上のAPA女性のデータを用い検証された。

APAモデルに含まれるリスク因子はBCRATの他のモデルと同様、初潮年齢、初産年齢、乳癌罹患歴のある第一度近親者数(母、姉妹または娘)、過去に実施した結果良性の乳房生検回数などである。ただし、個々の因子の比率と、複数因子の交互作用を評価した計算式は補正した。

研究者らはAABCSと名付けたモデルとBCRATモデルによる予測を比較した。ほとんどのリスク因子の組み合わせから、BCRATモデルはAABCSモデルよりもAPA女性に対してより予測リスクを高めに示した。新しいモデルと比較すると、BCRATは、中国、フィリピン人、およびほとんどの他のグループに対し高めに予測したが、白人女性よりも高い乳癌発症率を示すハワイ出身女性に対しては高くなかった。全体的に、AABCSモデルはAPA女性に対しより正確に乳癌リスクを予測することがわかった。

SEERデータによると、一般母集団では毎年APA女性10万人に93.7人が、また、非ヒスパニック系白人女性10万人に127.3人が新たに乳癌を発症している。2007年のSEER 研究によると、APAサブグループの中ではハワイ原住民女性が最も乳癌発症率が高く(10万人に175.8人)、ついで日系アメリカ人(10万人に126.5人)であった。最大のサブグループである中国系アメリカ人は、10万人に対し約77.6人であった。

新しいモデルは乳癌リスクの低い特定のアジア地域から最近移民してきた女性に対してはリスクを高めに予測する可能性がある。さらに、このツールはアメリカ以外に居住する女性に対しては当てはまらない。著者らはこのモデルには追加確認試験が必要であると結論付けているが、医師や研究者らに対し、APA女性の乳癌リスクについて説明するときや、乳癌予防試験の適格性を決定するときには、以前のモデルではなくAABCSモデルを適用するよう推奨している。

他のリスク予測モデル同様、AABCSは医師の診断のもとでのみ利用しなければならない。新AABCSを含むBCRATを構成するモデルは乳癌罹患歴のある女性、放射線治療歴のある女性、乳癌感受性遺伝子のいずれか(BRCA1,BRCA2)に異常のある女性には不適である。

参考ウエブサイト

NCIの Breast Cancer Risk Assessment Tool (BCRAT):

http://www.cancer.gov/bcrisktool/

NCIの癌疫学・遺伝学部門:

http://dceg.cancer.gov

2007 年SEER研究 APA における発症率:

http://seer.cancer.gov/publications/apicancer/index.html 

Reference: Matsuno RK, Costantino JP, Ziegler RG, Anderson GL, Li H, Pee D, Gail MH. Projecting Individualized Absolute Invasive Breast Cancer Risk in Asian and Pacific Island American Women. J Natl Cancer Inst; May 11, 2011

翻訳担当者 武内 優子

監修 原 文堅(乳腺科/四国がんセンター)

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原文掲載日 

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