非転移性ホルモン受容体陽性乳癌患者に対して最長10年のタモキシフェン投与を推奨(ASCOガイドライン改訂)

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は5月27日、ステージIからIIIまでのホルモン受容体陽性乳癌患者に対する補助内分泌療法の診療ガイドライン改訂を発表した。

今回の改訂は、2010年のASCOガイドライン改訂以降にレビューを実施した5つの研究から得た、タモキシフェンによる治療期間に関する新たなデータを反映させたものである。
フォローアップ期間が最長の最大規模ランダム化試験2つで、タモキシフェンを10年間投与した患者は、5年投与の患者に比べ生存率が向上し、また、再発リスクや対側乳癌発生リスクが低かった。

「タモキシフェンの5年投与はこの数十年、補助内分泌療法の標準とされてきましたが、このたび私たちはホルモン受容体陽性患者に対して最長10年の投与期間延長を推奨するに足るエビデンスを得ました」と、改訂ガイドラインを作成したASCO専門家委員会の共同議長で医学博士のHarold J. Burstein氏は語っている。
「閉経後の患者には、タモキシフェンの代替として、あるいはタモキシフェンから継続してアロマターゼ阻害剤投与という選択肢もあります。アロマターゼ阻害剤は閉経前の患者にはお勧めできません」。

ホルモン受容体陽性(HR+)乳癌は世界中で最も一般的な乳癌である。乳癌患者の約60%から75%がエストロゲン受容体陽性(ER+)で、さらにこのタイプの乳癌の65%はプロゲステロン受容体陽性(PgR+)でもある。補助内分泌療法は、ER、PgR共に陽性、もしくはどちらかが陽性であれば、ほぼ全ての患者に適切な治療法で、高い効果をもたらす。

この診療ガイドライン策定にあたって、ASCO専門家委員会は関連医学文献の体系的レビューを正式に実施した。タモキシフェン投与期間延長についての2つのランダム化試験(1件は公開済み、他方は2013年ASCO年次総会にて発表済み)が、今回の新たな推奨の根拠となった。
アロマターゼ阻害剤投与期間延長については、前回のガイドライン改訂以降新たなエビデンスは出ていない。

ガイドライン推奨のポイント
・閉経前あるいは閉経期のホルモン受容体陽性乳癌患者は、タモキシフェンによる5年間の補助内分泌療法を行い、その後は、閉経状態に基づき追加治療を行う。
閉経前であれば、引き続き合計10年までタモキシフェンを投与する。閉経後は、合計10年までのタモキシフェン継続投与、もしくはアロマターゼ阻害剤(AI)併用の補助内分泌療法を最長10年行う。

・閉経後のホルモン受容体陽性乳癌の補助内分泌療法では、以下の選択肢がある。
1)タモキシフェンの10年間投与
2)AIの5年間投与
3)タモキシフェン5年投与終了後、さらに最長5年のAI投与
4)タモキシフェン2年~3年投与後、最長5年のAI投与

・閉経後でタモキシフェンあるいはAIに忍容性がない場合、別の補助内分泌療法を行う。AI投与を5年未満で中止した場合は、合計5年までの残りの期間はタモキシフェン投与を行ってもよい。タモキシフェンを2年~3年投与していた場合、最長5年のAI投与を行って、合計7年から8年までの補助内分泌療法とする。

ガイドラインは、補助内分泌療法延長について患者と話し合う際に臨床医が直面する問題についても触れている。

「大切なのは、臨床医と患者が最長10年間の補助内分泌療法を行う際の期待できる効果と副作用リスクを比較検討することです」と、ASCO専門家委員会の共同議長である医師で公衆衛生学修士のJennifer Griggs氏は語る。「タモキシフェンの術後ホルモン療法を受けている患者の多くが、副作用を経験しており、その副作用は長期に継続するようです。しかし、試験では予想外の新たな副作用はみとめられませんでした」。

「米国臨床腫瘍学会診療ガイドライン改訂:ホルモン受容体陽性乳癌に対する補助内分泌療法(Adjuvant Endocrine Therapy for Women with Hormone Receptor-Positive Breast Cancer: American Society of Clinical Oncology Clinical Practice Guideline Focused Update)」と題される今回のガイドラインは5月5日、Journal of Clinical Oncology誌に発表された。

翻訳担当者 菊池明美

監修 野長瀬祥兼(社会保険紀南病院)

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