乳がん術前化学療法により領域リンパ節照射を省略できる可能性

米国がん学会(AACR)  サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)

術前療法後にリンパ節からがんが消失した患者では治療の段階的縮小が選択肢に

術前化学療法後にリンパ節転移陽性からリンパ節転移陰性に転じた乳がん患者において、術後療法である領域リンパ節照射(RNI)を省略しても、術後5年の疾病再発や死亡のリスクは増加しないことが、NRG Oncology/NSABP B-51/RTOG 1304臨床試験の結果として、2023年12月5-9日に開催されたサンアントニオ乳がんシンポジウムで発表された。

領域リンパ節に転移した乳がんと診断された患者は、術前化学療法を受けることがある。術前療法によってリンパ節からがんが完全に消失する場合もある。NRG Oncology Breast 委員会の長であるEleftherios(Terry)Mamounas 医師(公衆衛生学修士、セントラル フロリダ大学外科教授、オーランド ヘルスがん研究所の包括的乳腺プログラムのメディカルディレクター)によると、現在のところ、そのような患者が手術後にどのような治療を受けるべきかについて確立された標準治療はない。

「そのような患者をリンパ節転移陽性(当初診断)患者として治療するべきか、リンパ節転移陰性(手術時出現症状)患者として治療するべきかについては、活発な議論があります」とMamounas氏は語る。

リンパ節転移陽性患者として治療を受けた場合、乳房切除術後に胸壁照射と領域リンパ節照射を受けるか、乳房温存術後に全乳房照射と領域リンパ節照射を受けることが推奨される。一方、リンパ節転移陰性と判断された場合は、手術後の領域リンパ節照射を省略することが適切とされる。

領域リンパ節照射は、乳房近くのリンパ節に照射する放射線治療の一種で、手術後の患者の再発リスクを軽減することを目的としている。

「痛み、疲労、リンパ浮腫、乳房再建への影響など、治療に伴う合併症を避けるために、領域リンパ節照射を省略することを選ぶ患者もいます」とMamounas氏は述べる。「したがって、このような患者集団において領域リンパ節照射を安全に省略できるかどうかを評価することが大切です」。

患者の転帰に対する領域リンパ節照射の影響を評価するために、Mamounas氏らは、NRG Oncology/NSABP B-51/RTOG 1304 第3相臨床試験を実施した。この試験には、リンパ節転移陽性の非転移性乳がんと診断され、術前化学療法後にリンパ節にがんがないことが確認され、乳房切除術または乳房温存手術を受けた患者1,641人が登録された。

患者は「領域リンパ節照射なし」群(乳房切除術後の観察、または乳房温存手術後の全乳房照射)と「領域リンパ節照射」群(乳房切除術後の胸壁照射と領域リンパ節照射、または乳房温存手術後の全乳房照射と領域リンパ節照射)のいずれかに無作為で割り付けられた。

評価可能な患者(1,556人)は、術後補助療法のリンパ節照射を受けたか否かにかかわらず、同様の転帰をたどった。「領域リンパ節照射なし」群では91.8%、「領域リンパ節照射あり」群では92.7%の患者が、術後5年経っても湿潤性乳がんの再発がなかった。遠隔再発率および全生存率も両郡間で同様であり、術後5年後に遠隔再発のなかった患者は各郡で93.4%、5年後に生存していた患者は、「領域リンパ節照射なし」群で94%、「領域リンパ節照射あり」群で93.6%であった。

「本研究の結果は、術前化学療法で転移陽性の領域リンパ節を減少させることにより、一部の患者は腫瘍学的転帰に悪影響を及ぼすことなく、術後療法の領域リンパ節照射を省略できることを示唆しています。長期転帰のために患者の追跡調査を続けます」とMamounas氏は総括した。

本研究の潜在的な限界は、これまでのところ患者の乳がん再発が予想より少なかったことであり、このことが再発数に基づいて統計解析を行う研究計画の遂行に影響を与えたことである。しかし、本研究の統計計画では、研究開始から10年後の解析も規定されており、2023年に達成されている。研究者らは、解析を強化するためにより長期間の追跡調査を計画している。

本研究は、米国国立衛生研究所(NIH)の国立がん研究所(NCI)の支援を受けている。Mamounas氏はGenentech社, Merck社, Exact Sciences社, TerSera Therapeutics社, Biotheranostics Inc.社,Sanofi社のコンサルタントを務め、Genentech社, Merck社, Exact Sciences社の講演依頼を受け、Moderna社の株式を所有している。

  • 監訳 下村昭彦(乳腺・腫瘍内科/国立国際医療研究センター乳腺腫瘍内科)
  • 翻訳担当者 山口みどり
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  • 原文掲載日 2023/12/06

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