Palbociclibがホルモン受容体陽性の転移性乳癌に有望な結果

サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4およびCDK6の阻害剤であるパルボシクリブ[palbociclib]をホルモン受容体陽性、転移性乳癌患者に一次治療として投与したところ、無増悪生存期間が有意に改善したという第2相試験PALOMA-1の結果が2014年4月5~9日に開催された米国癌学会(AACR)年次総会で発表された。

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)医学部准教授Richard S. Finn医師は「この研究は、ホルモン受容体陽性の乳癌細胞の増殖はCDK-4/6に依存し、ホルモン受容体陽性乳癌はCDK-4/6の阻害に感受性があるという、数年前に前臨床試験で得られた有力な初期観察結果を土台とするものです」と述べ、「さらに、今回の第2相試験前に実施した小規模リードイン第1相試験では、パルボシクリブと抗エストロゲン剤レトロゾールの併用投与は安全で、副作用は管理可能であり、有効性にも優れていることを示す予備結果が得られています」とした。

Finn氏は、「この第2相試験で、パルボシクリブとレトロゾールの併用投与が、ホルモン受容体陽性、転移性乳癌の患者の臨床転帰を有意に改善させることが示されました」と述べ、「この成功の二大要因のひとつは、ベネフィットを得られる可能性が最も高いタイプの乳癌患者集団として、ホルモン受容体が陽性でHER2が陰性の乳癌患者を特定したこと、もうひとつは、CDK-4/6阻害剤の目覚ましい進歩にあります。この第2世代CDK-4/6阻害剤は、CDK-4/6の阻害において極めて特異的かつ効果的で、その結果、毒性の低下につながりました」と説明した。

UCLA医学部教授で、上述の前臨床試験を実施したレブロン/UCLA 女性の癌研究プログラム (Women’s Cancer Research Program)のディレクターであるDennis Slamon医学博士は、「素晴らしいデータです。ホルモン受容体陽性、転移性乳癌患者に大きな臨床的有用性があることを示しています」と語った。スタンド・アップ・トゥ・キャンサー の乳癌ドリームチームのリーダーでもある同氏は、「今回の研究がもたらすインパクトは非常に大きいものになる可能性があります。われわれはすでにパルボシクリブに関する第3相試験を開始していますが、これまでに入手したデータに興奮しています。トラスツズマブ(ハーセプチン)をHER2陽性乳癌向けの初期相試験でテストした時と同じくらいの興奮を得ています」と述べた。

FinnおよびSlamonの両氏らはファイザー社と共同で、前臨床および第1相臨床データを基にPALOMA-1の名称でランダム化第2相試験を実施した。閉経後の転移性乳癌患者165人を組み入れ、ホルモン受容体陽性・HER-2陰性の転移性乳癌患者66人を第1部、ホルモン受容体陽性・HER-2陰性でサイクリンD1またはサイクリンp16の遺伝子、あるいはその両方に変異のある転移性乳癌患者99人を第2部とした。サイクリンD1とp16はいずれもパルボシクリブの感受性マーカー遺伝子である。

研究者らは患者を各部内で、パルボシクリブ+レトロゾール併用群もしくはレトロゾール単剤群に1対1の割合で無作為に割付けた。患者は、疾患進行、許容できない毒性の発現、あるいは同試験からの撤回まで投与を継続し、2カ月ごとに腫瘍の評価を受けた。

研究者らは本試験の第1部と第2部の両患者を評価し、主要評価項目である無増悪生存期間は、パルボシクリブとレトロゾールの併用投与を受けた患者では20.2カ月、レトロゾールの単剤投与を受けた患者では10.2カ月であったことを明らかにした。無増悪生存期間の結果からパルボシクリブとレトロゾールを併用することにより疾患進行のリスクが51%低下することが明らかになった。

しかし、パルボシクリブが特異的に標的とする分子を有する腫瘍を持つ第2部の患者の疾患進行のリスクは、第1部よりも大きく低下せず、第1部のリスクが70%低下したのに対し、第2部では49%であった。Finn氏は、「どの標的薬も、その標的の影響下にある患者の特定が難しいのです」と述べ、「ホルモン受容体陽性腫瘍のほとんどがRb経路に左右されることから、パルボシクリブの有効性の最大決定因子は、無傷のRb経路の有無にあるかもしれません(Rb遺伝子もCDK-4/6に制御される標的遺伝子のひとつ)」との見解を示した。

本研究の副次評価項目のひとつである全生存期間は、第1部と第2部の統合データを使った初回評価では、パルボシクリブ+レトロゾール併用群が37.5カ月、レトロゾール単剤群が33.3カ月となった。しかし、この差は、統計学的に有意ではない。

有害事象は、好中球減少、白血球減少、疲労、貧血等であった。「パルボシクリブの有効性向上もさることながら、過度の毒性負担の回避が重要となります。パルボシクリブの忍容性が概ね良好であったことに満足しています」とFinn氏は述べている。

Finn氏は、また、「ランダム化第2相試験の目的は、確信をもって第3相試験へと進むための証拠を得ることにあります。今回の第2相試験は、対象とした患者集団において、パルボシクリブ+レトロゾールの併用投与はレトロゾールの単剤投与よりも有効である、という仮説を実証したと考えています」と述べた。

現在、パルボシクリブについて、PALOMA-2(レトロゾールとの併用投与試験)と、後期転移性乳癌を対象としたPALOMA-3(フルベストラントとの併用投与試験)、また早期乳癌を対象としたPENELOPE-B(標準的な内分泌療法との併用治療試験)の計3件の第3相試験が実施されている。

今回発表された第2相試験はファイザー社からの資金提供を受けて実施された。Finn氏は利害の抵触がないことを言明している。Slamon氏はファイザー社の普通株式を保有している。

翻訳担当者 村上智子

監修 原 文堅 (乳腺科/四国がんセンター)

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