NIHによる軟部組織腫瘍に対する遺伝子治療

米国国立衛生研究所(NIH)の研究者が遺伝子治療を軟部組織腫瘍の治療にも利用
NCIニュース 

数十人の患者を対象とした中間段階の臨床試験において、転移性メラノーマ(黒色腫)患者に対して奏効した治療法が、青年および若年成人に最も多い軟部腫瘍組織である転移性の滑膜細胞肉腫患者の治療にも有効であることが証明された。遺伝子操作が施された免疫細胞を使用する養子免疫療法の研究のうち、メラノーマではなく固形癌の退縮を引き起こすために使用したものは、本研究が初めてである。米国国立癌研究所(NCI)の研究者によると、このアプローチは、癌患者から免疫細胞を採取し、標的抗原であるNY-ESO-1を発現する癌細胞を認識できるように変換するための代表的な手段である。本研究はJournal of Clinical Oncology誌の2011年1月31日号で発表された。

NY-ESO-1は、メラノーマ、乳癌、前立腺癌、食道癌、卵巣癌などの患者の最大50%で発現するタンパク質で、滑膜肉腫においては80%の患者で発現する。「NY-ESO-1はメラノーマや滑膜肉腫以外にも多種類の癌で発現するため、これらの癌に対する免疫ベースの治療の格好の標的でもあるのです。」と主任研究員でNCIの癌研究センターの外科部門長であるSteven Rosenberg医学博士は言う。

本研究は、これまでに発表された転移性メラノーマ患者の研究結果を踏まえている。これらの研究では、転移性メラノーマ患者は、メラノーマ細胞の抗原を認識した受容体を表面に持つ、遺伝子操作された患者自身のT細胞や白血球による注入療法を受けることが可能であることが分かった。

本研究では、NY-ESO-1を発現した滑膜肉腫および転移性メラノーマの患者17名が、遺伝子操作で、NY-ESO-1抗原を認識できるT細胞受容体を発現させた患者自身の免疫細胞で治療を受けた。研究者らはこの治療を実施するにあたり、リンパ球と呼ばれる正常な白血球を各患者の血液から分離し、抗腫瘍効果のあるT細胞受容体をコードする遺伝子をそれらに挿入して変異させた。これらの遺伝子組み換え細胞は、NY-ESO-1を発現する癌細胞を認識し、死滅させることができる。この研究結果によると、滑膜肉腫の患者6例中4例、およびメラノーマの患者11例中5例で腫瘍の縮小がみられた。滑膜肉腫の患者1例で、PR(partial response・腫瘍の50%の縮小)が18ヶ月間継続し、メラノーマ患者の2例では、この病態では意義深いことに20ヶ月以上にわたりCR(complete response・腫瘍の消失)が維持された。

「今回私たちは、遺伝子操作でNY-ESO-1抗原に対する受容体を発現させた患者自身の細胞が、腫瘍退縮を仲介できるということを証明したので、今後この治療法を最適化し、他の一般的な癌の治療にも利用を拡大していくつもりです。」とRosenberg氏は述べた。

翻訳担当者 山本 容子

監修 後藤 悌(呼吸器内科/東京大学大学院医学系研究科)

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