早期乳癌患者に対するセンチネルリンパ節生検のガイドラインを改定―エビデンスが多くの患者に低侵襲診断を適応すべきことを支持

米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、早期乳癌の患者に対するセンチネルリンパ節生検の適応に関して新たな推奨を公表した。このガイドライン「早期乳癌患者に対するセンチネルリンパ節生検(米国臨床腫瘍学会 診療ガイドライン改定版)」は、本日発行のJournal of Clinical Oncology誌で発表された。

2005年に学会がこのガイドラインを初めて公表して以来、数々の臨床試験から得られたエビデンスが、多くの患者に対するこの低侵襲診断法の適応を裏づけている。このガイドラインが改定されたことにより、多くの早期乳癌患者が、合併症のリスクが高い、侵襲的な腋窩リンパ節郭清を受ける必要がなくなるとみられる。

「ガイドラインの改定版には、多くの最新の研究(2005年以降の9本のランダム化比較試験と13本のコホート研究)から得た新たなエビデンスが反映されています。これらの研究に基づいて、より多くの患者が腋窩リンパ節郭清をせずに、安全なセンチネルリンパ節生検を受けることができます。そして、このガイドラインに基づいて、センチネルリンパ節生検をどの患者に適応すればいいかを決めることができます」と、米国外科学会フェロー(FACS)であり、このガイドラインを改定したASCOの専門家委員会の共同委員長であるArmando Giuliano医師は述べた。

腋窩リンパ節郭清(ALND)では、乳房の腫瘍がある同じ側の腕の下にある多くのリンパ節を除去し、癌が転移している徴候のあるリンパ節を検査する。ALND治療を受けることで、リンパ液の蓄積により腫脹を引き起こす状態となり、腕の疼痛やしびれ、リンパ浮腫など長期間にわたる副作用の原因になる可能性がある。

センチネルリンパ節生検(SNB)は、乳癌患者の生活の質(QOL)を大きく向上させる。癌がリンパ系から転移するとき、最初に到達するリンパ節またはリンパ節群はセンチネルリンパ節と呼ばれる。センチネルリンパ節生検においては、癌の徴候を検査するために除去されるリンパ節はごくわずかである。通常、このセンチネルリンパ節に癌が見つからなければ、他のリンパ節に癌が転移していないと診断される。治療により副作用が起こる可能性はあるが、ALNDに比べれば稀である。

このガイドラインでは、ランダム化比較試験から得たエビデンスに基づき、推奨内容が3点改定されている。

・センチネルリンパ節(SLN)に転移していない患者は腋窩リンパ節郭清(ALND)治療するべきではない。
・乳房全体の放射線治療による乳房温存術を予定していて、センチネルリンパ節に1~2個の転移がみられる患者は多くの場合においてALND治療を受けるべきではない。
・センチネルリンパ節転移があり、乳房切除術の予定の患者には、ALND治療の提案をすることもできる。

このガイドラインでは、コホート研究や非公式な合意に基づき2つのグループの推奨内容が改定されている。

・手術可能な乳癌と多中心性の腫瘍、乳房切除術の予定がある非浸潤性乳管癌(DCIS)、腋窩手術を受けた乳房、術前(ネオアジュバント)全身治療を受けた女性にはセンチネルリンパ節生検(SNB)を提案することもできる。
・大きいまたは局所進行性の侵襲的な乳癌(腫瘍の大きさ T3/T4)、炎症性乳癌、非浸潤性乳管癌の患者に乳房温存術が予定されている患者、妊婦はSNBを受けるべきではない。

ASCO委員会は、一部の症例においては、以前の推奨内容を改定するにはエビデンスが不十分であることもつけ加えた。

「われわれは、治療の選択肢を理解し、全員が同じ認識を持てるように、患者に執刀医と医療チームの他のメンバーと話し合うことを推奨します。乳癌の予後に関する主要な決定因子は、リンパ節転移の有無とその程度であり、それゆえ、病状の程度を理解するためにもリンパ節を診断する必要があります」と、公衆衛生学修士で、ASCOフェローで専門家委員会の共同委員長のGary Lyman医師は述べた。

ガイドラインを改定するために、ASCOは、腫瘍内科学、病理学、放射線腫瘍学、外科腫瘍学、ガイドラインの実施と用語の専門家を招集した。委員会は2004年2月から2013年1月にMedlineで発表された文献のシステマティックレビューを行い、そのエビデンスのレビューを基にした。病理学の付表も対象とした。

翻訳担当者 池上紀子

監修 原 文堅 (乳腺科/四国がんセンター)

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