現在推奨されている乳房生検の診療方針に矛盾する新たなデータ

二種の乳房の組織病変を長期にわたり経過観察したところ、既存の理解に反して両種の病変は、共に乳癌に進展する可能性があるという研究結果が米国癌学会の機関誌であるCancer Prevention Research誌に掲載された。

この研究結果により、臨床で乳房の組織病変が認められた患者の診療方針が変更される可能性がある。

この研究は、乳房の組織病変の一種である異型乳管過形成(ADH)が同じ乳房内で乳癌に進展するのに対し、もう一種の組織病変である異型小葉過形成(ALH)は、直接の乳癌前駆病変ではないが、両乳房での乳癌のリスクになりうるという既存の理解に疑問を投げかけている。

「二種の異型を認める多数の症例を対象としたこの報告は、長期経過観察にて異型を認めた側の乳房と癌が発生した側の乳房を比較し、癌が進展するまでの期間をまとめた初めての研究報告です」とミネソタ州ロチェスターのメイヨークリニック、腫瘍学教授のLynn C. Hartmann医師は語る。「この二種の異型は組織学的にみると異なるものの、患者に与える影響に関しては類似点が多いことが示されました」。

「毎年、100万人以上の米国人女性が、乳房生検を行い良性と診断されており、そのうち10%の生検で、異常細胞の増殖を伴う前癌病変である異型過形成と判明しています。しかしそれは乳癌の特徴の一つであり、すべてではありません」と同医師は言う。「顕微鏡像から判断すると異型過形成にはADHとALHの二種があり、進展の仕方は異なると考えられてきました」。

「ADHは乳癌の直接の前駆病変であると広く考えられていて、外科的完全切除を必要とするかどうかの議論が行われている一方、ALHは両乳房ともに大きな乳癌リスクの指標となりますが、外科的完全切除の必要はないという見解を続ける専門家もいます」とHartmann氏は説明する。「更に、異型は『ベター・リスク』乳癌、つまり悪性度が低く予後の良い癌に進展すると主張する専門家もいます」。

Hartmann氏らは、良性乳房疾患患者のコホート(Mayo Benign Breast Disease Cohort)で、生検で確定された異型を認める女性698人(うち330人がADH、327人がALHを有し32人が両方を有する)を対象とした。研究者は平均で12.5年の追跡調査を行ったところ、143人が乳癌を発症した。

異型を認めた側の乳房に乳癌が発生した割合と、その反対側の乳房に乳癌が発生した比率は、ADHおよびALH共に2対1であった。

ADHまたはALHを認めた女性が5年以内に同じ乳房内に乳癌を発症した例はほぼ同数で、このことから研究者は、ADHと同様に、ALHは乳癌リスクの指標であることに加え、癌の前駆病変となりうることを示唆した。

ALHは主に小葉癌に進展する可能性があるという既存の理解に反して、ALHは主に乳腺管癌に進展し、ADHと同様の転帰となることがこの研究により判明した。ADHおよびALHは浸潤性乳管癌に進展し、69%は中等度または高度の悪性度であった。そのうち25%はリンパ節へ転移した。これらの患者に認められた癌のパターンは、一般的な乳癌患者に認められるものと類似していた。

「乳房生検を受け異型が発見されたら、経過観察や予防治療について専門医と相談することが適切です」とHartmann氏は言う。「このデータは臨床医が乳房異型の診療方針を決定する上で有用な情報となることを願います」。

この研究は、米国国立衛生研究所(NIH)より支援を受けたメイヨークリニックの乳癌領域特定優良研究プログラム(SPORE)、およびSusan G. Komen氏より資金提供を受けた。Hartmann氏は、利益相反はないと宣言している。

翻訳担当者 林 さやか

監修 石井一夫(ゲノム科学/東京農工大学)

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