高齢乳癌患者の一部では放射線治療の省略も選択肢に

ホルモン受容体陽性、腋窩リンパ節陰性乳癌の乳房温存手術後にホルモン療法を受ける65歳以上の患者には、放射線治療の省略が妥当な選択肢のひとつになるというPRIME 2試験の結果が、12月10日~14日に開催された2013サンアントニオ乳癌シンポジウムで発表された。

「放射線治療によって乳癌の再発リスクが1/3~1/4に低下することは知られています。しかし、われわれの試験から明らかになったのは、確かにその通りではあるものの、放射線治療を省略した女性が実際に再発する割合は、治療から5年の時点で5%未満ときわめて低いということでした」とエジンバラ大学がん研究センター教授(臨床腫瘍学)で英国放射線科医会特別会員のIan Kunkler氏は話す。「われわれは、再発リスクが十分に低く、乳房温存手術および術後内分泌療法の実施後は、術後放射線治療を省略するのが妥当な選択肢となる高齢患者のサブグループを特定しました」。

「この試験から、われわれが特定した集団が放射線治療を受けた場合、100人の女性あたり1人はいずれにしても再発し、4人は再発を防ぐことができるが、95人は結果的に不必要な治療を受けたことになるということが明らかになりました」とKunkler.氏は説明する。「放射線治療を受けると、同じ乳房には二度と受けることができません。その患者が放射線治療を受けていなかったら、再発後に小手術および放射線治療を受けることができたのです。しかも、放射線治療はそれ自体、特に高齢患者では健康上のリスクを伴います。さらに治療のために3~4週間は毎日出かけなければならない不便も生じます」。

「このグループに関しては、再発が起きるまで放射線治療を延期することができれば患者にとっても公共医療にとっても有益であると考えます」とKunkler氏は言う。

PRIME 2試験は国際共同第3相ランダム化対照試験で、注意深く選別した高齢患者を対象に、適切な治療を受けている場合は全乳房放射線治療を省略できるかどうかの検討を目的として開始された。この試験の主要評価項目は、温存乳房内再発(IBTR)として知られる同じ乳房での乳癌の再発率である。

試験では、5年の時点で、放射線治療を受けた患者の1.3%にIBTRが認められたのに対して、放射線治療を受けなかった患者では4.1%にIBTRが認められた。

試験には、2003年から2009年の間に1,326人が登録された。658人が無作為化により放射線治療を受けるグループに組み入れられ、668人は放射線治療を受けなかった。いずれの参加者も、65歳以上で、ホルモン感受性、低悪性度の乳癌であった。乳房周辺のリンパ節に癌がなく(腋窩リンパ節陰性)、転移が認められず、手術で腫瘍を切除した乳腺組織の辺縁に癌がなく、ホルモン療法を受けていた。

試験担当者らは、放射線治療を受けた患者と受けなかった患者との間には、5年の時点で全生存率(97%に対して96.4%)、局所再発(0.5%に対して0.8%)および反対側の乳房の乳癌発症(0.5%に対して0.7%)に有意差がみられないことを明らかにした。しかし、放射線治療を受けた患者と受けなかった患者との間の無乳癌生存率の差は(98.5%に対して96.4%)統計学的に有意であった。

「われわれの結果をきっかけに、本試験の適格基準を満たす患者では術後放射線治療の省略が考慮されるようになると思います」とKunkler氏は話す。

この試験はChief Scientist’s Office for Scotlandから資金の提供を受けた。Kunkler氏は利益相反がないことを宣言している。

翻訳担当者 中村幸子

監修 野長瀬祥兼(腫瘍内科/近畿大学付属病院)

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