米国臨床腫瘍学会(ASCO)によるChoosing Wiselyの新規リスト(データによる裏づけがなく日常診療で行われている5つの癌検査と診療)
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米国臨床腫瘍学会(ASCO)により新たに掲載されたリスト(データによる裏づけがなく日常的に行われている5つの癌検査と癌診療について)は、医師に向けた癌診療の質と価値を改善するための第一歩となる。
米国臨床腫瘍学会(ASCO)は、癌診療の質と価値を改善するための機会を提供する第2の「トップ5」リストを公表した。このASCOのトップ5リスト第2弾は、Journal of Clinical Oncology誌(JCO)に掲載され、ABIM Foundation(米国内科専門医認定機構財団)の支援によるChoosing Wisely キャンペーン(「賢い選択を」キャンペーン)の一部として公表された。このリストは、臨床研究による裏づけがない検査や手技を抑制することを狙いとし、医師と患者の対話を促すためのものである。ASCOはChoosing Wisely キャンペーンに参加した最初の9つの医学会のひとつであり、2012年4月に初となるトップ5リストを公表している(日本語訳)。
Lowell E. Schnipper医師(上記のJCO記事の筆頭著者であり、ASCOのValue of Cancer Care委員会委員長)は次のように述べた。「医師として、われわれは全ての患者に良質で価値の高い癌診療を行う基本的責任があります。つまり、有益性よりも有害になるリスクが高いスクリーニング検査や画像検査を一掃し、いかなる治療選択も確実に最も有力な裏づけによるものであることを意味します。根拠に基づく診療を提供することによって、患者が癌とともにより良く生きる手助けをするだけではなく、最大限の費用対効果をもたらす質の高いものになっていくことを約束するものです」。
ASCOが新たに作成した「トップ5」Choosing Wiselyリスト
以下のリストは、ASCOのValue of Cancer Care委員会がASCO正会員、州の癌関連団体および患者支援団体から意見を募り作成した。それぞれの推奨は、(ASCOやその他の組織が発表した研究や指針を含む)現時点で信頼性の高いエビデンスの包括的レビューを踏まえたものであり、上記の委員会によって提言されている。
1.吐き気や嘔吐を引き起こすリスクが軽度または中等度の化学療法レジメンを開始する患者に対して、そのリスクが高いレジメンに用いられる制吐剤を使用しないこと。
化学療法治療によって吐き気や嘔吐などの副作用の重症度がさまざまであり、このような副作用を抑えるために多数の薬剤が開発されてきている。薬剤が奏効した場合、患者の通院が減り、生活の質が改善し、化学療法レジメンを変更する必要が少なくなる。
最近では、化学療法レジメンによる吐き気や嘔吐の最重症症例や難治症例を管理するために、新薬が取り入れられてきている。ASCOは、このような新薬の使用は、重度や難治性の吐き気と嘔吐が起こる可能性が高い化学療法を受けている患者に限り準備しておくことを推奨している。このような新薬が非常に高価で、薬そのものの副作用が起こる可能性も否定できないからである。吐き気と嘔吐が起こる可能性が低い化学療法を受けている患者には、低価格で使用できる効果的な制吐剤が他にある。
2. 転移性乳癌患者の治療を行う際には、直ちに症状を緩和する必要がない限り、単剤化学療法に代わって多剤併用化学療法(多数の薬剤)を使用しないこと。
多剤併用化学療法は、転移性乳癌患者に対して腫瘍の増殖を遅らせる働きがあることが示されているが、単剤化学療法よりも生存期間が延長するかは明らかにされていない。また、多剤併用化学療法は、重度の副作用を引き起こす頻度が高くなることが多く、患者の生活の質を低下させる。そのため原則として、ASCOは順次、1種類ずつ化学療法薬を使用することを推奨している。そうすれば患者の生活の質が改善され、通常は全生存期間が短縮することもない。しかし、癌による負担により著しい症状(痛み、不快感など)や直ちに生死に関わりその負担を速やかに減らさなければならない状況の場合は、併用療法は有用であり実施する価値がある。
3. 初回診療を終えて癌の徴候や症状がない患者の再発をモニタリングするために、ポジトロン断層撮影(PET)、CTおよび骨シンチグラフィのような高度画像技術を使用しないこと。
データには癌診療を終了し、癌の徴候がない無症候性患者の癌の再発を管理するためにPETやPET-CTを使用しても、転帰や生存期間が改善しないことを示すものがある。このような高価な検査は偽陽性を示すことも多く、患者に不要であったり侵襲的な手技や治療を新たに実施したり、さらに放射線に曝露させる原因となることがある。
4. 余命が10年以下であると考えられる場合は、前立腺癌の症状がない男性に対して前立腺癌スクリーニングの際にPSA検査を実施しないこと。
余命を10年以下に縮めてしまう病状や他の慢性疾患がある男性には、PSAスクリーニングによって便益が得られる可能性は低い。このような男性を対象とした試験では、PSAスクリーニングによって前立腺癌や他の原因による死亡リスクが低下することはないことが示されている。さらに、このような検査により、進行が遅く結局のところは命を脅かす危険性がないと思われる癌に対して、必要のない生検や診療を実施し合併症が発現するなど、いたずらに悪影響を及ぼす可能性も考えられる。しかし、ASCOは以前、余命が10年を超えると思われる男性では、前立腺癌スクリーニングのためにPSA検査を実施することが妥当であるかを医師が患者と話し合うことを推奨していた。
5. 患者の癌細胞に、分子標的療法により奏効すると予測できる特異的バイオマーカーがある場合以外は、特定の遺伝子異常に対して用いる標的療法を使用しないこと。
標的療法は、正常細胞をほとんど傷つけることなく、癌細胞の増殖と拡大に使用される特定の経路を標的にすることができるので、癌患者に大きな便益をもたらすものである。標的療法の便益が得られる可能性がきわめて高い患者では、腫瘍細胞に特異的バイオマーカーが認められる。このことから、その腫瘍細胞が標的薬剤に感受性を持つ特定の異常が有るのか無いのかがわかる。
化学療法薬と比較すると、分子標的薬の費用は一般的に高くなる。分子標的薬は化学療法薬よりも新しく、生産コストも高くなり、特許を得ているからである。さらに、あらゆる抗癌治療と同じように、他の治療選択肢と比較して、分子標的薬の方が重篤な副作用を発現したり有効性が下回る可能性があるという理由から、分子標的薬を使用することを支持するデータがない場合、分子標的薬の使用にはリスクがある。
「すべての医療専門家は患者の健康と医療資源を賢く用いることに責任をもつ必要があります。価値が高い診療は患者に便益をもたらすだけではなく、皆さんの関心事である社会保障費を減らすことができます。ASCOでは、癌診療の従事者が検査と治療法の有益性を評価し、選択肢について患者と話し合うために必要な腕と手段を持っていることを保証したいと思います。この2つの目標が相反することはありません。患者にとって最高の診療は、社会のための最良の方法です」と、Clifford A. Hudis医師(FACP、ASCO会長)は述べた。
医療専門家がASCOのトップ5リストを踏まえて実施した臨床現場の診療を評価する手段として、トップ5の提言を踏まえた評価基準が、ASCOのQuality Oncology Practice Initiative (QOPI:癌診療の質を高める取り組み)評価として提供されている。 QOPIにより、過去の診療記録を調査し成果を分析することを通して、診療評価に役立ち実施する診療の質が高まる。臨床医および診療の質を評価する専門家がチームとなり、14,000件以上の記録(160件の診療)に基づいて「トップ5」の成果を検討し、今後導入する評価基準をさらに良いものにしている。
ASCOのトップ5リストおよびChoosing Wisely campaignの詳細は、asco.org/topfiveを参照のこと。
ASCOについて
ASCOは1964 年に設立された癌患者の診療に携わる医師たちを代表する世界有数の専門家組織である。会員数は30,000人以上であり、学会、教育プログラムおよび論文審査のある雑誌を通して、癌診療をさらに良いものにするために尽力している。ASCOを支援する関連組織Conquer Cancer Foundationは、癌患者の命に明らかな変化をもたらす画期的な研究やプログラムに資金を提供している。ASCOの情報は、サイトwww.asco.orgを参照のこと。 患者向け癌情報は、www.cancer.netで閲覧できる。
(訳注※Choosing Wisely 日本語訳リストはこちら)
原文掲載日
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