OncoLog 2013年11-12月号◆陽子線による新たな部分乳房放射線治療

MDアンダーソン OncoLog 2013年11-12月号(Volume 58 / Numbers 11-12)

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陽子線を使った新たな部分乳房放射線治療

乳腺腫瘤摘出手術後に実施する全乳房、または部分乳房放射線療法は、乳癌再発率を下げることができる。しかしそのメリットは、正常組織に対するリスクとのバランスを考えなければならない。

陽子線を用いた新たな部分乳房照射法は、正常組織への放射線量を最小限に抑えた有効な補助療法として有望である。

標準治療である全乳房照射の効果は確立されているが、乳房の正常組織や、まれに心臓や肺といった近隣の臓器に損傷を与える可能性がある。現在、加速部分乳房照射に使用されている照射法は、原発腫瘍に隣接した部分を標的とし、一般的には1週間にわたる照射を行う。この照射法では正常組織への放射線量を減らすことはできるが、排除できるわけではない。

最も一般的な部分乳房照射手法は、三次元原体照射と小線源治療である。「三次元原体照射療法では、乳房の約半分は被ばく線量が半分になる」と、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの放射線腫瘍学教授のEric A.Strom医師は言う。小線源治療は腫瘍があった部位の近くに針またはカテーテルで放射性シードを挿入し、全方向に放射線を照射できるが、腫瘍床だけでなく正常組織にも影響を与えてしまうと同医師は続けた。

これに対して、陽子線治療は事実上、(治療部位外への組織に対する)放射線が散乱することはないが、別の問題がある。陽子線は体内に入ると比較的少量の線量を放出しつつ、エネルギーが消失するまで組織間を通過する。そして陽子はエネルギーが消失する直前に、残存する電離放射線を散乱させることなく、一気に放出する。これは「ブラッグ・ピーク」と呼ばれている。「問題は腫瘍床を治療するために、さまざまな深度で大量のブラッグ・ピークを重ねる必要があることです」と、Strom医師は述べた。多くの乳癌がそうであるように、腫瘍床が皮膚表面に近い場所にあると、少量の線量でも皮膚の同じ場所が何度も照射を受け、累積で大量の入射線量になってしまう。

初期に行われた陽子線療法の研究では、こうした高入射線量のために、乳癌患者は皮膚に軽い火傷や肌荒れを起こしている。なお、これらの研究はMDアンダーソンが実施したものではない。三次元原体照射と小線源治療はともに皮膚の温存という利点があるため、最近までは、陽子線治療は一般的に乳癌患者の治療には使われていなかった。MDアンダーソンで実施中の第2相試験では、異なる角度から複数の陽子線を腫瘍床に向けて照射する手法の効果を試している。「皮膚線量を複数の近接する場所に散らすことで、高い線量が集中してしまう場所がなくなります」と、本臨床試験の主任研究者であるStrom医師は述べた。

本臨床試験の参加者は、非浸潤性乳管癌、またはステージ1、ステージ2の浸潤性乳癌で乳腺腫瘤摘出手術を受けた女性。本試験の対象及び除外基準は、他の部分乳房照射法に使われる臨床試験の選別基準に準じた。腫瘍の大きさは3cm以下で、腫瘍が完全切除されていること。さらに多巣性の腫瘍またはリンパ節転移のある患者、および術前化学療法を受けた患者は除外された。手術から8週間以内に、各患者は10回照射の陽子線療法を開始した(1日2回照射で、5日または6日間)。

この臨床試験の目標は、乳癌患者に対する陽子線療法の毒性と整容性の評価である。中間結果は近く開催される学会で発表予定だが、Strom医師によれば有望である。「最初の25人の患者では、皮膚が若干赤くなる程度で、グレード3の皮膚反応を呈した人はいませんでした」と同医師は述べた。

またいくつかの癌に対する陽子線治療と違い、陽子線を使った部分乳房放射線の費用は、通常の放射線治療と同等という利点の可能性がある。実際、陽子線で部分乳房放射線を10回照射する費用は、小線源治療による部分乳房放射線を10回照射する費用や、全乳房放射線としていくつかのセンターで実施している強度変調放射線療法(IMRT)による30回の照射費用より安い。

「陽子線の部分乳房放射は、他の部分乳房放射線療法に比べ、より良い費用効果で、近隣組織を避けながらより腫瘍床の形に一致した線量分布を達成できる可能性があります」と、Strom医師は述べた。

【画像キャプション訳】
画像は陽子線による部分乳房照射(上)、三次元原体照射(中)、小線源治療(下)の治療計画。乳房と周辺部位にかかる放射線量を100%(赤)から5%(紫)までで示している。

— Bryan Tutt
 

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翻訳担当者 片瀬ケイ

監修 中村光宏 (医学放射線/京都大学大学院医学研究科)

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