OncoLog2013年10月号◆リンパ節陽性の乳癌患者に対する術前補助化学療法後のセンチネルリンパ節切除は、一部の患者では腋窩リンパ節郭清の代わりになるかもしれない
MDアンダーソン OncoLog 2013年10月号(Volume 58 / Number 10)
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リンパ節陽性の乳癌患者に対する術前補助化学療法後のセンチネルリンパ節切除は、一部の患者では腋窩リンパ節郭清の代わりになるかもしれない
センチネルリンパ節切除は、腋窩リンパ節に臨床所見がない乳癌患者における病期判定の標準方式となっている。
最近の研究によると、リンパ節に臨床所見がある患者であっても、腋窩リンパ節郭清の代わりとしてセンチネルリンパ節のみの切除が好ましい人もいる。センチネルリンパ節切除は、腋窩リンパ節郭清と比べてリンパ浮腫や他の副作用を発症する可能性が低い。
2011年の米国外科学会(ACOSOG)で発表されたZ0011試験結果により、診察時にリンパ節転移の臨床所見が無い患者に対しては、センチネルリンパ節切除のみを行うことは有効であることが明らかになった。この多施設試験には、触知可能なリンパ節肥大はなく、乳房温存術とセンチネルリンパ節切除を受けた800人以上の乳癌患者が参加した。センチネルリンパ節に1つまたは2つまでのリンパ節転移がある患者は、腋窩リンパ節切除群、あるいは、これ以上の腋窩リンパ節の治療を行わない群(追加手術や腋窩に放射線治療を行わない)に無作為に割り付けた。患者全員に対して全乳房照射を実施し、また、ほとんどの患者に術後補助化学療法を行った。この試験により、腋窩リンパ節郭清は生存に寄与しないことが明らかとなった。
これらの結果、多くの外科医は腋窩リンパ節切除に対するアプローチを変更した。「臨床的にリンパ節転移陰性で乳房温存術を予定している患者に対しては、センチネルリンパ節を切除した際に術中迅速病理診断を行い、そしてリンパ節に1つでも転移があった場合には腋窩リンパ節郭清を実施していた。しかしACOSOG Z0011の結果が発表された現在、リンパ節郭清は実施していない」と、テキサス州立大学MDアンダーソンがんセンターの外科腫瘍学教授であるKelly Hunt医師は述べ、「治療決定に際してこの情報を考慮せず、そして患者はリンパ節郭清によるベネフィットを享受できないのであれば、このような追加手術を行う必要があるだろうか」と続けた。
ACISIG Z0011試験ではMDアンダーソンの責任研究者であり、また本試験の共同著者でもあるHunt医師は、この結果は臨床的リンパ節陽性の患者の一部においても腋窩リンパ節郭清とその合併症を回避できるかもしれないかどうかを研究者に問うものになったと述べた。
術前補助化学療法
腋窩リンパ節郭清は、依然として、臨床的リンパ節転移陽性の乳癌患者に対する標準治療である。しかし一部の臨床的リンパ節陽性患者は、術前補助化学療法により腋窩リンパ節郭清が不要になるかもしれない。「近年、化学療法や分子標的薬は非常に改善され、多くのリンパ節転移を根絶している。その結果、われわれ外科医は、術前化学療法の後にどれほど積極的な手術を施行する必要があるかを再考している」とHunt医師は述べた。
どのような特性が化学療法後に腋窩リンパ節郭清を回避できる患者を選別するのに役立つかを調査するために、Hunt医師らは、臨床的リンパ節陽性であった乳癌患者の後ろ向き研究に着手した。全患者に対し術前化学療法を行い、その後、乳房温存術または乳房切除術とリンパ節切除を実施した。多くの患者は、センチネルリンパ節と腋窩リンパ節郭清の両方を行っていた。
化学療法後に超音波検査によってリンパ節が正常化したように見えた患者のリンパ節の病理学的完全奏功率は51%と、超音波検査上リンパ節病変が化学療法に反応しなかった患者における奏功率33%に比べて高かった。超音波検査でリンパ節が正常化した患者は、センチネルリンパ節を切除した全患者と比べ、偽陰性のセンチネルリンパ節所見も低下した(16%対21%)。偽陰性センチネルリンパ節所見とは、センチネルリンパ節は陰性であるが、センチネルリンパ節以外のリンパ節に最低1つの転移が見つかることである。
センチネルリンパ節切除における偽陰性率は予想していたより高いものであったとHunt医師は述べた。しかし、多変量解析により、センチネルリンパ節手術の技術面が偽陰性率に大きく影響していたことが明らかになった。多くの患者は、異なる経路で腫瘍からリンパ管に流れる2~3個のセンチネルリンパ節があるため、2個以上のセンチネルリンパ節の切除は偽陰性率の低下に関連するとHunt医師は述べた。また、偽陰性率の低下は、テクネチウム99mのような放射性同位元素標識物質と青色染色の両方を使用することにも関連していた。「この2つの方法を併用した場合、全てのセンチネルリンパ節の識別率が向上し偽陰性率が低下した」と同医師は述べた。
画像の役割
MDアンダーソンでは長年にわたって乳房の腫瘍の超音波検査をする際に、腋窩、鎖骨下部、内胸領域も標準的技法として検査を行っていたため、後ろ向き研究が可能であった。従って、この研究対象となった全患者の画像や放射線検査のレポートを調べることができた。放射線診断科の准教授であり本研究の共同著者であるHuong Le-Petross医師は、乳房の腫瘤と共に腋窩リンパ節の超音波検査を実施することがどこででも広く採用されることを望んでいると述べ、「腋窩の超音波検査は、より正確な病期と患者の予後を予測する手助けとなる」と続けた。
Le-Petross医師は、画像研究はリンパ節生検の代わりにはならないとの注意喚起をしているが、超音波検査は外科医が切除すべき肥大したリンパ節を見つける助けとなり、放射線腫瘍医が治療計画を作る際の助けとなる。化学療法を受ける患者は、「治療前に超音波の検査を行いそして化学療法中は超音波検査でさらに詳しく調べることで、治療が有効であるかどうかの指標となる。リンパ節病変において進行あるいは治療に反応がないという証拠は、腫瘍内科医が直ぐに治療を変更することに繋がるかもしれない」と同医師は述べた。
前向き研究
2つ以上のセンチネルリンパ節を検査した場合に偽陰性率が低下したという結果は、ACOSOGによる前向き研究の結果と類似していたと、Hunt医師は述べた。ACOSOG Z1071試験も臨床的リンパ節陽性で術前補助化学療法を実施した乳癌患者のセンチネルリンパ節切除を評価したものであった。700人以上の乳癌患者が参加し、MDアンダーソンを含む多施設で実施されたACOSOG Z1071試験の結果は、Journal of the American Medical Association誌に近々公表されると、同医師は述べた。
現在進行中の試験は、乳癌の超音波検査の際に見つけた腫大したリンパ節に放射線科医がクリップをかけるものである。この試験に参加しているLe-Petross医師は、「超音波検査で疑わしきリンパ節を発見した場合、私は針生検を行うと同時にクリップを留置する」と述べた。またHunt医師は、この手法が癌が転移しているリンパ節を見落とす可能性を減らすことでセンチネルリンパ節生検の偽陰性率を低くすることを期待していると述べた。
MDアンダーソンや他のがんセンターでは、臨床的リンパ節陽性で術前補助化学療法を実施しセンチネルリンパ節切除を行う予定の患者が参加する第3相試験が始まろうとしている。この試験は、術中病理診断で1つでもセンチネルリンパ節に癌が見つかれば、腋窩リンパ節郭清群か術後にリンパ節に放射線療法を行う群のどちらかに無作為に割り付けるものである。「腋窩リンパ節郭清の代わりに放射線を用いることが合併症を減らす別な方法となるかもしれない」とHunt医師は述べた。
リンパ節陽性の患者において、合併症を減らすために腋窩リンパ節郭清を避けることは大いなる関心ごとではあるが、これらの試験結果が明らかになるまでは注意をすべきであると、Hunt医師は提言した。さらに、「どの臨床的リンパ節陽性患者において、センチネルリンパ節生検のみに留めるかについては、より厳しく判断する必要がある」と述べた。「化学療法後の超音波検査では、治療前に腫大していたリンパ節が正常に見えなければならない。また、センチネルリンパ節を切除するセンチネルリンパ節生検の技術面に注意が払われている、すなわち、放射線同位元素標識のトレーサーと青色染色の両方を用いて少なくとも2つリンパ節を切除することも確認する必要がある」とHunt医師は述べた。
— Bryan Tutt
【写真キャプション訳】
(上段)治療前の超音波画像(左)は、46歳の乳癌患者の3.6 x 2.9 x 1.7 cmの疑わしいリンパ節を示している(矢印)。化学療法後の超音波画像では、リンパ節は1.7 x 1.1 x 0.7cmと正常の大きさを示していた。肥大化したリンパ節の正常化は、腋窩リンパ節郭清の代わりにセンチネルリンパ節切除を行う必須条件である。
(下段)センチネルリンパ節切除術中に、乳癌患者から切除されたセンチネルリンパ節。放射性同位元素標識物質と青色染色の両方を用いることは、腫瘍に繋がる全てのセンチネルリンパ節を見つけ、センチネルリンパ節生検の所見が偽陰性となる可能性を低くする助けとなる。
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