OncoLog2013年10月号◆In Brief 「miR-200 MicroRNAが腫瘍の増殖速度を遅らせる」

MDアンダーソン OncoLog 2013年10月号(Volume 58 / Number 10)

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miR-200 MicroRNAが腫瘍の増殖速度を遅らせる

microRNAの一種であるmiR-200ファミリーが、肺癌、卵巣癌、腎臓癌および基底膜細胞型(basal-like)乳癌において血管新生と癌の進行を妨げている可能性があることが最新の前臨床試験で示された。

miR-200ファミリーなどのMicroRNAは、遺伝子の活性化と発現を制御している。「われわれは当初miR-200に目を向けていました。miR-200分子をナノ粒子と共に送達する手段を持っており、miR-200は癌の進行と移転に関連する上皮間葉転換を阻害することが知られていたからです。」テキサス大学MDアンダーソンがんセンター婦人科腫瘍・癌生物学教授で本研究の統括著者であるAnil Sood医師は述べる。

miR-200が癌の増殖と転移を制御する機序を明らかにするために、 Sood医師らはまず、癌ゲノムアトラスの腫瘍サンプルを用いてmiR-200ファミリーの5種すべての発現を解析した。肺癌、卵巣癌、腎臓癌および基底膜細胞型乳癌でmiR-200を多く発現している場合は、全生存期間が長かった。

癌細胞ラインを用いたmiR-200発現の解析により、サイトカインであるインターロイキン-8(IL-8)とCXCL1が関与する血管新生ネットワークが明らかとなった。公的に入手可能なマイクロアレイデータベースの解析をさらに進め、肺癌、卵巣癌、腎臓癌および基底膜細胞型乳癌では、管上皮細胞遺伝子発現型(luminal)乳癌と比較してIL-8とCXCL1量が高いことがわかった。また、肺癌、卵巣癌、腎臓癌および基底膜細胞型乳癌ではIL-8量が高いと生存率が低いが、管上皮細胞遺伝子発現型乳癌ではこの相関は認められなかった。この結果により、肺癌、卵巣癌、腎臓癌および基底膜細胞型乳癌の細胞ラインを用いてmiR-200治療によりIL-8とCXCL1量の低下を示した実験につながった。

これらの癌をマウス体内で増殖させ、miR-200を脂肪性のナノ粒子をキャリアーとして送達すると、非標的microRNA(nontargeted microRNA)を含むナノリポソームで処理した対象群と比較して腫瘍サイズおよび血管密度の急激な縮小を生じ、卵巣癌を発症したマウスで血中IL-8の低下も認められた。2種のmiR-200を組み合わせてキトサンナノ粒子を介して腫瘍血管に送達すると、卵巣癌の大きさと転移数が対照群と比較して92%低下した。別の群の卵巣癌マウスでは、miR-200を含むキトサンナノ粒子により原発巣および転移巣の腫瘍量が低下し、目立った毒性は認めずに血管新生を阻害した。

本研究は、Nature Communications 誌3月号に掲載された。著者らは、血中IL-8量が腫瘍組織量と強く相関していることから、IL-8はmiR-200 の治療が効果をもたらす患者のバイオマーカーになり得ると述べている。

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翻訳担当者 石岡優子

監修 林 正樹 (血液・腫瘍内科/社会医療法人敬愛会中頭病院)

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