降圧薬の長期使用による閉経後乳癌の発生リスク上昇の可能性

キャンサーコンサルタンツ

降圧薬の一種であるカルシウム拮抗薬を10年以上使用している閉経後女性において、乳癌の発生リスクが2倍以上に上昇することが示され、JAMA Internal Medicine誌に発表された。

米国の女性において、乳癌は癌死亡原因の第2位である。癌を発生する確率は、遺伝的因子と非遺伝的因子の両方によって左右される。非遺伝的因子としては、食習慣、運動習慣、物質(薬物を含む)への曝露があげられる。

高血圧は慢性的な病態であり、降圧薬を用いて治療することが多い。実際に、降圧薬は米国で最も処方されている薬である。降圧薬は数種類あり、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)、β受容体遮断薬、利尿薬などである。

降圧薬は多くの患者に処方されているが、長期投与の影響に関するデータはわずかである。このような状況を受けて、米国ワシントン州のシアトルからピュージェット・サウンドにかけての3郡の大都市で集団ベース症例対照研究を実施し、閉経後女性を対象として、降圧薬と、浸潤性乳管癌および浸潤性小葉乳癌の発生リスクとの関連性を評価した。本研究の対象は、浸潤性乳管癌を有する女性880人、浸潤性小葉乳癌を有する女性1,027人、癌を有していない女性856人(対照群)であった。全対象者の年齢は55~74歳であった。

病歴、肥満状態、飲酒状況、喫煙状況、高血圧の既往、降圧薬の使用状況(種類、投与期間、最近の使用状況)に関して、データを詳細に収集した。

全般的に、降圧薬の使用は乳癌の発生リスクの上昇と関連せず、この結果は、降圧薬の使用状況(現在使用中、過去に使用、短期間の使用)によって左右されなかった。一方、降圧薬の種類別および投与期間別に解析した結果から、カルシウム拮抗薬が乳癌の発生リスクと有意に関連することが示された。すなわち、カルシウム拮抗薬を10年以上使用中の女性において、浸潤性乳管癌および浸潤性小葉乳癌の発生リスクは、カルシウム拮抗薬を使用したことのない女性および他の降圧薬を使用している女性より2.5倍高かった。

一方、他の降圧薬(β受容体遮断薬、利尿薬、ARB)は乳癌の発生リスクの上昇と関連せず、長期使用した場合にも上昇はみられなかった。

結論として、閉経後女性においてカルシウム拮抗薬の長期使用により乳癌の発生リスクが上昇する可能性がある。この仮説を検証し、機序を解明するために、研究をさらに実施する必要がある。

参考文献:
Li CI, Daling JR, Tang MTC, et al. Use of antihypertensive medications and breast cancer risk among women aged 55 to 74 years. JAMA Internal Medicine. Published early online August 5, 2013. doi:10.1001/jamainternmed.2013.9071


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翻訳担当者 永瀬祐子

監修 原野謙一(乳腺科・婦人科癌・腫瘍内科/日本医科大学武蔵小杉病院)

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