乳癌予防療法に反応する女性を新たな遺伝子マーカーで予測
遺伝子ZNF423と遺伝子CTSO内や付近の一塩基多型(single nucleotide polymorphism;SNP)として知られる遺伝的多様性 は、タモキシフェンやラロキシフェンによる予防治療を受けた女性の乳癌発症リスクと関係があることが、米国癌学会の学会誌であるCancer Discovery誌上のデータで発表された。
2つのSNPが好ましい変異である女性は予防治療に反応する可能性が高いことが本試験で示された。一方で、好ましくないSNPがある女性は予防治療による利益が得られない可能性が高く、乳癌発症リスクが5倍に増加した。
「米国予防医学作業部会が最近作成したガイドラインでは、タモキシフェンやラロキシフェンを用いる選択的エストロゲン受容体調節薬(selective estrogen receptor modulator;SERM)療法により、女性の乳癌発症リスクが減少すると強調されています。但し、1例の乳癌を予防をするために、50人もの女性がSERM療法を受け、その副作用が出る可能性があります」とJames N. Ingle医師(メイヨー・クリニック(ミネソタ州、ロチェスター市)腫瘍学教授)は述べた。
「私たち が得た結果は重要です。その理由は、この予防薬が提供されるべき女性の選択に使用可能な遺伝因子を初めて発見したためです。また、タモキシフェンやラロキシフェンが乳癌予防に作用する過程に関する新規の試験結果を発見したことも非常に重要です。」
Ingle氏ら(メイヨー・クリニック)は、米国外科学アジュバント乳房および胃腸プロジェクト(National Surgical Adjuvant Breast and Bowel Project;NSABP、ペンシルベニア州、ピッツバーグ市)と理化学研究所ゲノム医科学研究センター(東京)の研究者と共に、ゲノムワイド関連解析を実施した。その対象者は、SERM療法を受けている乳癌患者592人と対症例対照患者1,171人であった。Ingle氏らは、NSABP P-1、P-2乳癌予防臨床試験に参加している女性33,000人から、対象者を選択した。
Ingle氏らはHuman610-Quad BeadChip(イルミナ社)を使用して対象者のDNAを解析し、その中のSNPを特定した。そして、乳癌リスクとの関連性が最も高い2つのSNPを特定した。1つ目は遺伝子ZNF423内に存在し、2つ目は遺伝子CTSO付近に存在する。
「この2つのSNPsの特定は、乳癌に対する真の個別化予防治療に向けての大きな進歩です。私たちによる研究結果から、タモキシフェンやラロキシフェンによる利益を受ける可能性が高い女性と低い女性に関して、明確な方向が提供されます」とIngle氏は述べた。「乳癌の重圧を減らすた絶好の機会は、最初の段階で予防することです。臨床試験結果から、乳癌の予防治療の研究が新たに活気付く根拠がもたらされます。」
Ingle氏らは、最も頻度が高いSNPか最も頻度が低いSNPのどちらかがある乳癌細胞株を使用して、さらに実験を進めた。そして、最も頻度が高いSNPがある細胞株で、エストロゲンにより、ZNF423とCTSOの発現量、ならびに、BRCA1(乳癌リスクと関連する遺伝子)の発現量が増加したことがわかった。SNPの頻度が最も低い細胞株では、エストロゲンによっても、これらの遺伝子の発現量が増加しなかった。
エストロゲンにタモキシフェンやラロキシフェンを追加すると、ZNF423とBRCA1の発現パターンが完全に逆転した。ZNF423のSNPの頻度が最も低い細胞株で、ZNF423とBRCA1の発現量が著しく増加した。この発現パターンの逆転から、このSNPがあるSERM療法を受けている女性患者における乳癌発症率の減少が説明される可能性がある。
さらに、ZNF423とCTSOにおける様々なSNPにより、SERM療法中における乳癌発症率が予測されることをIngle氏らは発見した。好ましいな2つのSNPがある女性は、乳癌発症リスクが最小であった。一方、好ましくない2つのSNPsがある女性は、乳癌発症相対リスクが5倍を超えた。
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