乳癌検診は乳癌死を「減少させないかもしれない」

英国医療サービス(NHS) 
2013年6月11日火曜日

39年間分の乳癌死亡率について検証した研究の結果が、「乳癌検診による死亡率低下示せず」というタイトルでGuardian紙に掲載された。乳癌検診の価値は、長年にわたって議論の的となっていた。2012年検診に関するレビューの公表後のように、問題が解決したと思われる度、議論を再燃させる新しいエビデンスが現れる。

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  検診は50~70歳の女性で推奨されている。
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オックスフォード大学の研究チームによる本研究によると、経時的な死亡率の低下は、通常検診の対象ではない40歳未満の女性で最も高くなった。また、集団検診の対象である50~64歳の女性において、傾向に顕著な下降変化が認められた。

しかし、この変化はオックスフォードでは1979年、イングランドでは1990年に起こっており、検診プログラムではなく乳癌に対する治療の改善がこの傾向の背景にあると結論付けられた。なぜならば、この下降傾向が始まったのは、検診の導入前、または検診の導入直後で検診の効果が得られていないときであったからである。

乳癌検診は非常に複雑な問題であり、検診プログラムの価値を評価することは難しい。検診の利点が他のリスクファクターや治療の改善によって分かりにくくなる可能性がある。より多くのエビデンスが入手できるようになるにつれて、真相が明らかになることが望まれる。

記事の発信源

本研究は、オックスフォード大学の研究チームによって実施され、英国の国立衛生研究所による資金提供を受けた。

また、論文審査のある専門誌であるJournal of the Royal Society of Medicineに掲載された。

本研究の結果はマスコミによっても報道された。

研究の種類

本研究はイングランドにおける死亡データの時系列分析であり、マンモグラフィを用いた乳癌検診によって乳癌死が減少するかどうかを検証した。

これは観察研究であるため、検診プログラムの利点が経時的に発生する治療およびリスクファクターの双方の変化によって分かりにくくなる可能性がある。

理想的には、ランダム化比較対照試験を実施して、検診プログラムの利点を評価することが望ましい。しかし、英国で乳癌検診のランダム化比較対照試験を新たに実施する可能性は低い。

ランダム化比較対照試験を実施するためには、検診群または非検診群に女性をランダムに割り付ける必要がある。現在、全国的な検診プログラムが実施されているため、十分な女性の数を非検診群に割り当てられる可能性は低い。

研究内容

オックスフォード地域で1979~2009年に乳癌で死亡した女性の数を分析した。この地域のデータを収集した理由は、死亡の原死因のみでなく、あらゆる死因が死亡証明書に記載されているためである。

死亡の原死因に関する不明確さや報告の仕方の変化によって真相が歪められる可能性を除外しようとした。女性乳癌と記載された死亡証明書を合計20,987通入手した。

また、イングランド全域について1971~2009年の乳癌死亡率を分析した。イングランドでは死亡の原死因のみが死亡証明書に記載されている。

乳癌死亡率の傾向について、英国乳癌検診プログラム(English National Breast Cancer Screening Programme)が1988年に導入された前後で比較した。同時期について3つの女性群を設定した。

  • 1度検診を受けたことのある女性。
  • 数回検診を受けたことのある女性。
  • 検診を受けたことのない女性。

Jointpoint分析と呼ばれる統計手法を用いて、傾向が変化する年を推定した。Jointpoint分析では、専門の統計ソフトを使用して経時的な傾向を追跡する。各jointpointは死亡率の傾向が変化した推定年に相当する。

結果

オックスフォード地域において、死亡証明書に乳癌と記載されていた女性のうち、乳癌が死亡の原死因であったのは、死亡時年齢65歳未満で96%、65~74歳で88%、75~84歳で78%、85歳以上で66%であった。

乳癌関連死の傾向は、乳癌が原死因として挙げられているかどうか、またはそれが死亡証明書に記載されているかどうかについて非常に類似していた。このことは、死亡診断上の慣行の変化や死亡の原死因を選択する上での規則の変化が乳癌を原因とする死亡の変化に経時的に影響するとは考えにくいことを示唆する。

すべての年代を併合したところ、死亡率は1985年(乳癌が原死因であった年かつ乳癌が記載されていた年)にピークを迎え、その後低下し始めた。これは、1988年の検診プログラム導入開始前に起こっている。

1979~2009年では、乳癌を原死因とする死亡について、死亡率は均一に低下した(傾向に経時的な変化は認められなかった)。

  • 40~49歳の非検診の女性では、1年につき-2.1%の低下
  • 50~64歳の検診受診の女性では、1につき-2.1%の低下

また、65~74歳の女性では1987年および75歳以上の女性では1989年に、乳癌を原因とする死亡の下降傾向に顕著な変化がみられた。これらの変化は、検診プログラムの導入前、またはその効果が得られる前に起こっている。

1979~2009年では、死亡証明書に記載された乳癌の割合は、40~49歳(非検診)および50~64歳(検診受診)の女性で均一に低下した。65~74歳の女性では1990年および75歳以上の女性では1996年に乳癌死の傾向に顕著な下降変化が認められた。

イングランドでは、推定される初めての傾向変化は、検診導入前、または検診の効果が得られる前(1982~1989年)に起こった。傾向の下降変化が次に起こったのは、40歳未満の女性(定期的な検診は受けていない)では2001年および50~64歳の女性では1990年であった。

最も重要なのは、同時期において検診を受けていない女性と比較して、検診を1回以上受けたことのある年齢群やコホートの女性で死亡率が一貫して大幅に低下していることを示すエビデンスがないことである。

結果の解釈

研究者らは、「死亡率の統計結果から、イングランドにおける集団ベースの乳癌死亡率に対するマンモグラフィ検診の効果は認められない」と述べる。

結論

39年間分の乳癌死亡率に関する本研究では、乳癌検診の利点についてエビデンスは認められなかった。40~49歳、50~64歳および65~74歳の女性に関する年齢別の死亡率は、1988年の乳癌検診導入前にピークを迎えていた。死亡率の低下は、40歳未満の女性で最も大きくなり、75歳以上の女性で最も小さくなった。

50~64歳の女性(検診対象の年齢群)で下降傾向に顕著な変化が認められたが、これらはオックスフォードでは1979年、イングランドでは1990年に起こっていた。双方の変化は、検診の導入前、または検診の導入直後で検診が変化の原因となった可能性は低いときに起こった。

さらに、1年ごとの死亡率の顕著な低下が、通常検診の対象ではない40歳未満の女性で認められた。

集団レベルデータの観察研究であったため、いくつかの点に留意する必要がある。

  • 検診群と非検診群の直接比較は、この種類の研究デザインでは不可能である。比較したのは、検診を受けた可能性の高い年齢群の女性と検診を受けた可能性の低い女性における死亡率のみであった。
  • 本結果では個人の女性レベルでの利点は除外できなかったが、効果は集団レベルで認められるほど十分には大きくなかった。
  • 「長期的」な効果(すなわち、検診とは無関係に経時的に起こる効果)が、検診の効果を分かりにくくした可能性がある。例えば、薬剤治療の改善や妊娠パターンなどのリスクファクターの経時的な変化の効果が、検診によるより小さな改善を上回ったかもしれない。

本研究から、価値のある集団データが他にも得られ、乳癌検診の議論に情報が加わった。検診の賛否に対しては非常にさまざまな情報がある。2012年乳癌検診に関するレビューで推定されたのは、女性10,000人について50歳から20年間検診対象とした場合、

  • 乳癌死は43例予防できる。
  • 681例が乳癌と診断される。
  • これらの診断のうち129例は過剰診断である。

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過剰診断とは、もし検診を受けなければ患者になることもなかったと考えられる癌に対して、不必要な癌治療を行った場合をいう。検診によって予防された死亡1例につき、過剰診断が3例あると推定される。

翻訳担当者 仲里芳子

監修 斎藤 博(検診研究部/国立がん研究センター)

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原文掲載日 

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