BRCA1遺伝子変異のある患者は、変異のない患者より予後が不良である(BRCA2遺伝子変異のある患者では差がない)

• BRCA1遺伝子変異のある患者は乳癌により死亡する可能性が1.2倍高くなる
• BRCA2遺伝子変異のある患者の生存では有意な差はない
• BRCA1遺伝子変異のある患者ではER(エストロゲン受容体)陽性乳癌の割合は低い

ワシントンDCで4月6日から10日にかけて開催された2013年AACR年次総会において発表されたオランダの大規模試験データによると、BRCA1遺伝子変異のある乳癌患者では、BRCA変異のない患者と比較し、全生存率および無再発生存率が有意に低いことがわかった。しかし、BRCA2遺伝子変異のある患者とBRA遺伝子変異のない患者間で生存率の差はなかった。

アムステルダムのオランダ癌研究所Experimental Therapy DivisionグループリーダーであるMarjanka M. K. Schmidt博士によると、BRCA1またはBRCA2遺伝子変異のある女性とBRCA変異のない女性(非保因者)との間の生存率の差を研究した今までの研究には矛盾がみられる。「われわれはバイアスの少ない大規模なBRCA1/2遺伝子型乳癌患者のコホートの一つから得たデータを解析しました」とSchmidt博士は述べた。

博士らは、50歳前に乳癌と診断され、オランダの10カ所の癌クリニックのいずれかで治療を受けた患者5518人のBRCA遺伝子の状態と生存率を評価したところ、患者の3.6%からBRCA1遺伝子変異、1.2%からBRCA2遺伝子変異が見つかった。

研究者らはBRCA1またはBRCA2に由来する78種の遺伝子変異について患者の検体を検査し、これらを長期転帰と関連づけた。観察期間は平均11.3年であった。ER陽性腫瘍の割合は、非保因者の腫瘍(86%)およびBRCA2遺伝子変異のある患者の腫瘍(81%)では同程度であったが、BRCA1遺伝子変異のある患者の腫瘍では少なかった(29%)。

データによれば、BRCA1遺伝子変異のある女性では非保因者と比較し、乳癌の再発は1.5倍、乳癌により死亡する可能性は1.2倍高くなった。BRCA2 遺伝子変異のない患者では非保因者と比較して、生存率の悪化を示す証拠は得られなかった。

予備解析では、生存におけるBRCA1の影響は、腫瘍の特性による補正を行っても変わらなかった。「しかし、今回の再検討により、腫瘍の特性による補正を行うとBRCA1による影響は小さくなることがわかりました。BRAC1遺伝子変異保有者で生存が悪化する理由の一部については腫瘍の特性、および遺伝子変異そのものにより説明できる可能性があります」とSchmidt博士は述べた。

Schmidt博士によれば、BRCA1遺伝子変異保有者と非保因者では生存率に差があることから、ある程度までは、治療が患者にどちらの変異があるかで決まることが明らかになった可能性がある。

「現在、患者の治療は腫瘍の特性に基づいて行われており、予防対策や、臨床試験におけるPARP阻害剤などは別として、BRCA遺伝子の状態に基づいて行われているのではありません。腫瘍特性とは無関係に、BRCA遺伝子の状態により予後を予測することが可能ならば、予測モデルとして検討され、治療法の決定に役立つ可能がありあます」と博士は述べた。

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翻訳担当者 小縣正幸

監修 原 文堅(乳癌/四国がんセンター)

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