T-DM1の効果が最も期待できる女性をバイオマーカー解析で特定

• T-DM1の効果は、腫瘍のHER2発現量が高い患者でより高かった。
• FDAは、EMILIA第3相臨床試験の結果をもとにT-DM1を承認した。
• 腫瘍のPIK3CAに変異があっても、治療効果は減弱しない。

HER2陽性の転移乳癌の女性では、トラスツズマブ・エムタンシン(T-DM1)と呼ばれる薬剤の効果の高さは、腫瘍のHER2発現量によって決まるかもしれない。この結果は、2013年2月22日、米国食品医薬品局(FDA)が本薬剤を承認するもととなった、第3相臨床試験のサブ解析データに基づいている。ニューヨーク州ニューヨーク、スローンケタリング記念がんセンターの主任医師José Baselga医学博士は、4月6日~10日にワシントンD.C.で開催された2013年AACR年次集会において、本研究結果を発表した。

「EMILIAは画期的な第3相臨床試験でした」とBaselga氏は語った。「本試験では、トラスツズマブとタキサン系薬剤の併用治療歴のあるHER2陽性転移乳癌患者にT-DM1を投与すると、ラパチニブおよびカペシタビンの併用投与と比べて、無増悪生存期間および全生存期間が延長することがわかりました。また、抗体薬物複合体と呼ばれる新しいタイプの薬剤が患者に有効であるという概念実証が得られました」。

Baselga氏によると、抗体薬物複合体は、抗体を毒性のある化学療法剤に結合させたものである。T-DM1の場合、抗体はトラスツズマブで、毒性のある化学療法剤はエムタンシンである。トラスツズマブは、HER2陽性乳癌患者において過剰発現したHER2タンパクを認識し、HER2陽性癌細胞を標的にして、毒性のある化学療法剤エムタンシンによって死滅させる。

Baselga氏らは今回のサブ解析で、EMILIAに参加した患者の組織試料を分析し、HER2メッセンジャーRNA(mRNA)の発現量を指標とした腫瘍のHER2発現量と治療効果との関係を調べた。腫瘍組織のHER2 mRNA発現量が中央値より高い患者をHER2高発現群、中央値以下の患者をHER2低発現群とした。

「臨床試験に参加した全員がHER2過剰発現のみられる乳癌を有しているとはいえ、腫瘍の分子学的性質はそれぞれ異なっています」とBaselga氏は語った。「HER2過剰発現の程度も、患者によって異なります」。

以前の解析結果と同様に、Baselga氏らは、T-DM1で治療したすべての患者の無増悪生存期間および全生存期間が、ラパチニブとカペシタビンの併用療法を受けた患者と比較して、有意に延長することを明らかにした(無増悪生存期間は9.6カ月対6.4カ月、全生存期間は30.9カ月対25.1カ月であった)。

腫瘍のHER2発現量が高い患者では、発現量が低い患者に比べてT-DM1の治療効果が高かった。全生存期間はHER2高発現群で34.1カ月、低発現群で26.5カ月であった。腫瘍のHER2発現量が高い患者をT-DM1で治療すると、ラパチニブとカペシタビンの併用療法を受けた患者と比べて、死亡リスクが47%減少した。

Baselga氏らは、腫瘍のPIK3CA遺伝子変異が治療効果に影響するかどうかについても調べた。氏によると、PIK3CA変異を有するHER2陽性乳癌患者では、PIK3CA変異のない患者に比べて、通常、トラスツズマブなどの従来のHER2標的療法はあまり有効ではない。

しかしながら、T-DM1で治療した患者の無増悪生存期間は、PIK3CA変異があっても有意に短縮しなかった。

「本知見は、HER2陽性乳癌患者それぞれに対して最善の治療を選択するための重要な一歩です」とBasalga氏は語った。「HER2陽性乳癌は一様ではなく、各患者で異なっています。今回のデータは、情報に基づいて治療法を決定する根拠となる、一連の分子学的性質を特定するのに役立ちます」。

Kadcyla(ado-トラスツズマブ・エムタンシンまたはT-DM1)はロシュグループ傘下のジェネンテック社の登録商標である。

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AACRについて
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翻訳担当者 徳井陽子

監修 勝俣範之(腫瘍内科、乳癌・婦人科癌/日本医科大学武蔵小杉病院)

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