乳癌に対する放射線治療により心臓病および心臓発作のリスクが上昇する

キャンサーコンサルタンツ

New England Journal of Medicine誌に発表された試験結果によれば、乳癌に対する放射線治療により、後の人生で心臓発作または心臓病のリスクが上昇するかもしれない。

多くの女性乳癌患者に対して、乳房温存手術(乳腺腫瘤摘出術)後に、癌再発のリスクを低減するための放射線治療が行われる。乳癌の放射線治療では、しばしば心臓への偶発的な被ばくがあり、そのリスクは明らかでなかった。

研究者らは、1958年から2001年にスウェーデンおよびデンマークで、乳癌に対し放射線治療が行われた2168人の女性を母集団としたケース・コントロール試験を実施した。解析では、963人の女性に心臓発作、動脈閉塞疎通の手術または虚血性心疾患による死亡などの重大な冠動脈事象があったことが示され、重大な冠動脈事象がなかった1205人の女性と比較された。

試験結果から、重大な冠動脈事象のリスクは「グレイ」単位の放射線量に正比例して上昇することが示された。重大な冠動脈事象のリスクは、グレイごとに7.4%ポイント上昇した。試験において女性が受けた平均の放射線量は4.9グレイであり、これは心臓障害の36%のリスク上昇に換算された。最も多く被ばくした女性(平均で15.8グレイ)には心臓障害の116%のリスク上昇があり、通常のリスクの2倍よりやや高かった。心臓はやや左側に位置しているため、左乳癌を治療した女性では心臓障害のリスクがより高かった。

放射線後の冠動脈のリスクは、被ばく後数年以内に始まり、少なくとも20年間持続した。心臓病のリスク因子がある女性は、他の女性に比べて放射線治療のリスクが明らかに上昇した。

研究者らは、放射線量に伴って上昇したリスクは必ずしも警告の理由とならないと言及した。特定の条件に関連づけると、健常な50歳の女性には80歳までに虚血性心疾患の発症が1.9%の確率で発生する。もし同条件の女性が3グレイの放射線を被ばくすると、リスクは22%上昇して2.4%となるが、なおかなり低い。さらに今日では平均の放射線被ばく量は低くなっている(1~5グレイ)。

研究者は乳癌に対する放射線治療は虚血性心疾患のリスクを上昇し得ると結論付けた。既に心臓病のリスクが上昇した女性は、放射線にかわる方法について医師と話し合いを希望するかもしれない。

参考文献:
Darby SC, Ewertz M, McGale P, et al. Risk of ischemic heart disease in women after radiotherapy for breast cancer. New England Journal of Medicine 2013;368:987-998.


  c1998- CancerConsultants.comAll Rights Reserved.
These materials may discuss uses and dosages for therapeutic products that have not been approved by the United States Food and Drug Administration. All readers should verify all information and data before administering any drug, therapy or treatment discussed herein. Neither the editors nor the publisher accepts any responsibility for the accuracy of the information or consequences from the use or misuse of the information contained herein.
Cancer Consultants, Inc. and its affiliates have no association with Cancer Info Translation References and the content translated by Cancer Info Translation References has not been reviewed by Cancer Consultants, Inc.
本資料は米国食品医薬品局の承認を受けていない治療製品の使用と投薬について記載されていることがあります。全読者はここで論じられている薬物の投与、治療、処置を実施する前に、すべての情報とデータの確認をしてください。編集者、出版者のいずれも、情報の正確性および、ここにある情報の使用や誤使用による結果に関して一切の責任を負いません。
Cancer Consultants, Inc.およびその関連サイトは、『海外癌医療情報リファレンス』とは無関係であり、『海外癌医療情報リファレンス』によって翻訳された内容はCancer Consultants, Inc.による検閲はなされていません。

翻訳担当者 木下秀文

監修 中村光宏(医学放射線/京都大学大学院医学研究科)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

転移トリネガ乳がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果予測ツールを開発の画像

転移トリネガ乳がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の効果予測ツールを開発

ジョンズホプキンス大学キンメルがんセンターおよびジョンズホプキンス大学医学部の研究者らは、転移を有するトリプルネガティブ乳がんにおいて、免疫療法薬の効果が期待できる患者をコンピュータツ...
FDAが高リスク早期乳がんに対し、Kisqaliとアロマターゼ阻害剤併用およびKisqali Femara Co-Packを承認の画像

FDAが高リスク早期乳がんに対し、Kisqaliとアロマターゼ阻害剤併用およびKisqali Femara Co-Packを承認

米国食品医薬品局(FDA)2024年9月17日、米国食品医薬品局(FDA)は、ホルモン受容体(HR)陽性、ヒト上皮成長因子受容体2(HER2)陰性の再発リスクの高いステージIIおよびI...
乳がん後の母乳育児が安全であることを証明する初めての研究結果の画像

乳がん後の母乳育児が安全であることを証明する初めての研究結果

● 欧州臨床腫瘍学会(ESMO)2024で発表された2つの国際的な研究により、乳がん治療後に母乳育児をした女性において、再発や新たな乳がんの増加はないことが示された。
● この結果は、乳...
HER2陽性乳がんの脳転移にトラスツズマブ デルクステカン(抗体薬物複合体)が有効の画像

HER2陽性乳がんの脳転移にトラスツズマブ デルクステカン(抗体薬物複合体)が有効

• 大規模な国際共同臨床試験において、トラスツズマブ デルクステカンは、HER2陽性乳がん患者の脳転移に対して優れた抗がん作用を示した。
• 今回の結果は、今まで行われてきた複数の小規模...