2012/12/11号◆癌研究ハイライト「乳癌再発時の術後化学療法が生存率を改善」「新しい標的薬(レゴラフェニブ)が進行したGISTの病勢を弱める」「両側乳房切除が増加する理由を探索する研究」「高用量の乳癌治療薬(フルベストラント)が生存期間を延長」「非侵襲的な腎臓癌検査により外科手術の必要性が減少」
NCI Cancer Bulletin2012年12月11日号(Volume 9 / Number 24)
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◇◆◇ 癌研究ハイライト ◇◆◇
・乳癌再発時の術後化学療法が生存率を改善【SABCS】
・新しい標的薬(レゴラフェニブ)が進行したGISTの病勢を弱める
・両側乳房切除が増加する理由を探索する研究【SABCS】
・高用量の乳癌治療薬(フルベストラント)が生存期間を延長【SABCS】
・非侵襲的な腎臓癌検査により外科手術の必要性が減少
乳癌再発時の術後化学療法が生存率を改善
乳癌が再発したものの近傍組織以外への転移がみられない女性では、術後に化学療法を受けたほうが無病生存率と全生存率が良好であることが新たな研究で示された。最も高い効果が得られるのは、エストロゲン受容体(ER)陰性腫瘍の患者群であると思われる。このCALOR試験の結果が、12月6日、サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)で発表された。
「これは、補助化学療法がこの群の患者に効果があることを示した最初のランダム化対照試験」と、スイス、ルツェルンのルツェルン州立病院の腫瘍内科部長であり、CALORの共同委員長をつとめるDr. Stefan Aebi氏は記者会見で述べた。
Aebi氏らは、以前に乳房温存術または乳房切除術を受けて、後に局所再発または領域再発をきたした162人の女性を、補助化学療法を受ける群(85人)と受けない群(77人)にランダムに割り付けた。この試験では、3~6カ月の併用化学療法が推奨されたが、化学療法の内容は患者の主治医の選択にゆだねられた。治療担当医師は、必要に応じて患者に放射線治療、ホルモン療法、または抗HER2療法を実施することもできた。
試験は計画よりも患者数が少なかったが、統計的に有意な差が認められた。中央値5年間追跡後の再発リスクは、化学療法を受けた女性では受けなかった女性の41%であった。全生存率は化学療法を受けた患者のほうが受けなかった患者より高く、死亡リスクは59%であった。(表参照)
[化学療法の有無と無病生存率と全生存率]
化学療法あり | 化学療法なし | P値(0.05以下なら統計的に有意) | |
5年時の無病生存率 ER陰性 ER陽性 | 69% 67% 70% | 57% 35%69% | 0.0455 0.007 0.87 |
5年時の全生存率 ER陰性 ER陽性 | 88% 79% 94% | 76% 69% 80% | 0.02 0.120.12 |
腫瘍タイプで層別化すると、ER陰性腫瘍群では、化学療法を受けた群の無病生存率は、化学療法を受けなかった群と比べて顕著な差がみられた。ER陽性腫瘍群では、適切なホルモン療法が実施され、化学療法の有無にかかわらず再発が非常に少なかった。したがって、化学療法の効果の大部分はER陰性腫瘍群でみられた。
これらの結果は「一般的な化学療法剤を用いたER陰性群での劇的な改善を示している」とNCIの癌治療・診断部門の乳癌治療学の長Dr. Jo Anne Zujewski氏は述べている。同氏はこの試験には関与していない。「これは小規模な患者群の治療法を変えるであろう」。
この試験は一部NCIから研究助成を受けた(U10-CA-37377、U10-CA-69974、U10-CA-12027、U10-CA-69651、CA-75362)。
新しい標的薬(レゴラフェニブ)が進行GISTの病勢を弱める
新しい経口薬のレゴラフェニブ[regorafenib](Stivarga)が、難治性の進行消化管間質性腫瘍(GIST)の病勢進行を遅らせるかもしれない。11月22日、Lancet誌に発表された国際臨床試験の結果から、レゴラフェニブによる治療を受けた患者は、プラセボ投与を受けた患者よりも疾患が増悪せずに長く生存(無増悪生存)したことが示された。
GISTは比較的稀な癌で、その多くはKITあるいはPDGFRA(血小板由来増殖因子α受容体)キナーゼのシグナル伝達経路を活性化する変異によって引き起こされる。このタイプのGISTは標準的化学療法に対して抵抗性で、癌が転移していない場合は手術で切除されることが多い。
チロシンキナーゼ阻害剤であるイマチニブ(グリベック)は、手術不能なGISTに対する最初の治療薬として承認された。しかしイマチニブによる治療を2年受けると大半のGISTは抵抗性を獲得する。イマチニブ抵抗性腫瘍の患者は、次にスニチニブ(スーテント)による治療を受けるが、通常1年以内に腫瘍はスニチニブに対しても抵抗性を持ち増悪する。このようにイマチニブとスニチニブの両方に抵抗性を有するGIST患者には他の標準治療の選択肢がない。
以前の第2相試験の結果に基づき、ダナファーバー癌研究所のDr. George D. Demetri氏らは、転移あるいは手術不能なGISTを有し、イマチニブおよびスニチニブによる治療を受けていた患者においてレゴラフェニブをプラセボと比較した。複数のキナーゼを阻害するレゴラフェニブは9月に転移大腸癌の治療薬として承認された。
今回のランダム化プラセボ対照第3相試験には、進行したGIST患者199人が参加した。そのうち133人はレゴラフェニブ群に、66人はプラセボ群にランダムに割り付けられた。レゴラフェニブ投与を受けた患者は増悪せずに生存し、その期間の中央値はプラセボ投与を受けた患者の0.9カ月に対し、レゴラフェニブ群は4.8カ月であった。全生存期間については最初にレゴラフェニブの投与を受けた患者と、最初にプラセボの投与を受けた患者との間に差はなかった。しかしながら著者らは、この結果はクロスオーバーの影響を受けていると示唆する。すなわちプラセボ群の85%は疾患が増悪した後にレゴラフェニブ投与に切り替えられたのである。
レゴラフェニブを投与された全ての患者に有害事象が発現した。対照群の14%に対し、レゴラフェニブ群では60%を超える患者が薬剤関連の重篤な有害事象を報告した。
「イマチニブおよびスニチニブの治療が無効となった患者に常にこの薬を使用するという考えには説得力がある」と付随論説の著者は記述した。Demetri氏は次のように述べた。「2000年以前は一様に治療不能であった疾患に対処できる3番目の分子標的薬を開発してきたことは励みとなる」。
本薬剤の製造元であるBayer Healthcare Pharmaceuticals社は、GIST治療薬としてレゴラフェニブをFDA(米国食品医薬品局)に申請した。
この試験はBayer HealthCare PharmaceuticalsおよびNCIから部分的に資金援助を受けている(NCI消化器癌SPORE助成金1P50CA127003-05)。
両側乳房切除が増加する理由を探索する研究
一方の乳房に癌が発見されて両側の乳房切除術を受けた女性の約75%が、健側(対側)の乳房に新たな癌を発症するリスクが低いにもかかわらずこの選択をしていたことを示す、集団ベース研究の新たな結果が発表された。癌の再発への心配が大きいほど、予防的対側乳房切除術(CPM)と呼ばれる、癌に罹患していない側の乳房の切除につながっている。
11月30日、サンディエゴで開催された米国臨床腫瘍学会(ASCO)の医療の質シンポジウムで、ミシガン大学のDr. Sarah Hawley氏が患者へのアンケートとSEER癌登録データの解析から得られた結果を発表した。
健側の乳房に新たな乳癌を発症するリスクが増大することで知られる臨床的危険因子として、BRCA1/BRCA2遺伝子変異や乳癌または卵巣癌の強い家族歴があるが、このような危険因子を持つ女性は乳癌と診断された患者のごく一部である。しかし、過去のSEERデータ解析を含む複数の研究で、米国でCPMを受ける乳癌患者の割合が増加していることが示されている。
CPMを選択する理由を解明するために、Hawley氏らは、デトロイトとロサンジェルスのSEER登録データに基づいて、乳癌と診断された人種や民族の多様な女性約1,500人を対象に調査を実施した。乳房切除術を受けた女性564人のうち、107人がCPMを受けた。残りの女性は乳房温存術を受けている。
この2つのグループの回答を比較すると、再発について「非常に心配である」と回答した女性では、「やや心配である」または「まったく心配でない」と回答した女性に比べ、CPMを受けていた人が約2倍であった。
また、BRCA1またはBRCA2遺伝子変異の検査結果が陽性の場合は陰性の約10倍が、第一度近親者に2人以上の乳癌患者がいる場合は乳癌の強い家族歴を持たない場合の約4.5倍がCPMを受けていた。CPMによって、これらの臨床的危険因子を持つ女性で健側の乳房に新たな乳癌を発症するリスクは低下するものの、原発癌の再発リスクが低下することは証明されていない。
「この結果は、多くの女性が実際は必要のない両側の乳房切除を選択していることを示唆している」とHawley氏は述べている。「CPMがどのようなリスクと利益をもたらすのか、またもたらさないのかを、選択する女性が十分かつ明確に理解しているかどうかを確認したい。何を選ぶかは個人の決断であるが、十分な情報を得た上で決めるべきである」。
Hawley氏らは引き続き調査データを解析中であるが、なぜ女性たちがCPMを選ぶのか、考えられるこのほかの理由はまだわかっていない。
ASCOのシンポジウムで、11月30日の記者会見の進行役をつとめた、ノースウエスタン大学腫瘍学研究者のDr. Jyoti Patel氏は、「この研究は、予防的乳房切除を受けるかどうかの決定において、患者とどのようにコミュニケーションをとるか再検討すべきであることを示唆している」と述べている。
この研究は、NCIから研究助成を受けた(CA088370、CA109696)。
追加情報:「増加する予防的両側乳房切除への懸念」
高用量の乳癌治療薬(フルベストラント)が生存期間を延長
高用量のフルベストラント(Faslodex)を投与された進行乳癌女性は、低用量を投与された女性より生存期間が延長することが、大規模臨床試験の最新の結果から示された。高用量の500 mgはすでに10年間臨床で使用されているが、新たな試験結果により一部の女性の生存期間に有益性をもたらす証拠が示された。
CONFIRMと呼ばれるこの試験では、タモキシフェン(ノルバデックス)などによる内分泌療法の治療歴があり、乳癌が再発または進行した、閉経後の転移性ER陽性乳癌女性を対象に2種類の用量のフルベストラントを投与した。フルベストラント500 mgを投与された女性の生存期間の中央値は26.4カ月、250 mgでは22.3カ月で、4カ月以上の統計的な有意差があった。
この結果は、12月5日、SABCSで発表された。
この国際試験には700人以上の女性が登録され、フルベストラント500 mg投与群と250 mg投与群にランダムに割り付けられた。250 mgは2002年、最初に米国食品医薬品局(FDA)に承認された用量である。
FDAは、無増悪生存期間が統計的に有意に改善することを示したCONFIRM試験の最初の結果に基づいて、2010年に500 mgの用量を承認した。高用量群では全生存期間も改善したが、その時点での差は統計的に有意ではなかった。
長期の追跡によって、全生存期間の有益性が統計的に有意になった。しかし、イタリア、プラート病院の試験責任医師Dr. Angelo Di Leo氏はSABCSの記者会見で、全生存期間は事前に計画されていなかった探索的解析の結果であるとして注意を促した。
たとえそうであっても、最初の解析結果と最新の解析結果を比較すると、2つの解析結果には「完全に一貫性があり」、フルベストラント「500 mgを投与された群で、生存期間を延長するという同じ結論に達している」と同氏は続けた。
有害な副作用の発生率は、高用量のフルベストラントを投与された群(8.9%)で、250 mg投与群(6.7%)より若干高かったが、統計的に有意な差ではなかった。
FDAによる2010年の承認後、用量500 mgがこの患者群の標準的な治療用量となった。「したがって、この試験は現在の治療法を変えるものではない」とジョージタウン大学ロンバルディ総合がんセンターのDr. Claudine Isaacs氏はいう。「しかし、この用量にさらに裏付けを与え、生存期間に有益性をもたらすことを示唆している」。
非侵襲的な腎臓癌検査により外科手術の必要性が減少
最近の研究によると、陽電子放射断層撮影/コンピュータ断層撮影(PET/CT)に新しい放射性トレーサー薬を用いると、腎臓癌で最も多いタイプの腎明細胞癌(ccRCC)を正確に検出できるかもしれない。14の医療施設で実施された非盲検試験が12月3日付Journal of Clinical Oncology誌で発表された。
「(私たちが知る限りでは)この試験は悪性腫瘍を検出する分子イメージングバイオマーカーの臨床現場における初めての検証となる」と研究者らは記した。
研究者らは、腎臓に腫瘤を有し腎切除(腎摘出術)を予定されている患者195人における2種類の画像法を比較した。すなわちヨード124( 124I)-ギレンツキシマブ(girentuximab)を用いたPET/CT画像と、造影CT(CECT)による画像の2種類である。 124I-ギレンツキシマブは、ほとんどのccRCC細胞の表面にみられる抗原に結合する。
コロンビア大学医療センターのDr. Chaitanya Divgi氏が率いる研究者らは、 124I-ギレンツキシマブ を用いたPET/CT検査はCECT検査よりも感度が高く(平均感度:86.2%対75.5%)、ccRCC腫瘍を検出する特異度も高かった(平均特異度:85.9%対46.8%)。
本結果が追加の試験で確認され、米国食品医薬品局(FDA)から承認を受けた場合は、この新しい画像診断法により、癌と疑われる腎臓腫瘤を評価するために現在用いられている針生検や腎摘出術といったより侵襲性の高い手法を使う必要性を減らせるかもしれない。 124I-ギレンツキシマブPET/CT診断は、医師が患者への最良の治療法を決めるために役立ち、また虚弱な人、高齢者あるいは他の健康状態のために手術にリスクを伴う人にとっても特定の恩恵をもたらす可能性があると、研究者らは述べた。
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月橋純子、岡田章代 訳
原 文堅(乳癌/四国がんセンター)、東 光久(血液癌・腫瘍内科領域担当/天理よろづ相談所病院) 監修
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