ハーセプチンによる術後補助療法は1年が至適

キャンサーコンサルタンツ

HER2陽性早期乳癌と診断された女性において、ハーセプチン®(トラスツズマブ)による術後補助療法の至適期間は1年であるとする2つの試験結果が、ウィーンで開かれた2012年欧州臨床腫瘍学会(ESMO)で発表された。

HER2経路は、細胞の複製と増殖に関与する生物学的経路である。乳癌の約20-25%はHER2タンパクを過剰発現しており、HER2陽性と呼ばれる。ハーセプチンはHER2タンパクを標的として阻害する薬剤で、早期および転移性のHER2陽性乳癌の治療に用いられている。

1年間のハーセプチン投与は、HER2陽性早期乳癌患者の標準治療とされており、無病生存期間および全生存期間を有意に延長することが示されている。ESMOで発表された2つの試験で、研究者らは、より短期間またはより長期間のハーセプチン投与が転帰を改善するか否かを評価した。

HERA試験

2001年に始まったHERA試験は、HER2陽性早期乳癌5,102人の女性を対象とした国際多施設第3相ランダム化試験である[1]。初回治療として外科手術、化学療法および放射線療法を終了した対象患者を、観察群、3週毎のハーセプチン投与を1年間受ける群、2年間受ける群に無作為に割り付けた。

この試験の最も重要な結果は、ハーセプチン投与を2年に延長しても、転帰は有意に改善されないということであった。全生存期間は2群間で差がなく、無病生存期間も同様であった。さらにこの試験によって、ハーセプチンがこの患者群に有効であるとする以前のデータが確認された。中央値8年の追跡調査の結果、ハーセプチン非投与に対するハーセプチン1年間投与の無病生存期間および全生存期間における優位性は、長期にわたり安定に維持されており、ハーセプチンの効果が数年間持続することが示された。

この結果より、乳癌の再発予防において、ハーセプチンの至適投与期間は1年であることが確認および再認された。投与期間は短くても長くても良くないと言えよう。

PHARE試験

HER2陽性早期乳癌患者において、ハーセプチンの1年間投与は延命効果をもたらす一方、心毒性の懸念が問題とされてきた。

PHARE試験は、ハーセプチンの投与期間を6カ月と標準の1年とで比較したフランス国立癌研究所(INCa)によるランダム化非劣性試験である[2]。この試験は、フランスの150のがんセンターの患者3,382人を対象とした。この試験の主要目的は、ハーセプチン投与を6カ月間受けた群と1年間受けた群とで無病生存期間を比較することであった。副次目的として、全生存期間および心毒性が評価された。

中央値42.5カ月の追跡調査の結果、やや不確定ではあるが、ハーセプチン1年投与の方が優れている傾向を示した。いくつかのサブグループ解析が行われており、2012年12月にその結果が発表される予定である。

参考文献:

[1] Gelber RD, Goldhirsch A, Piccart M, et al. HERA TRIAL: 2 years versus 1 year of trastuzumab after adjuvant chemotherapy in women with HER2-positive early breast cancer at 8 years of median follow up. Presented at the 37th Congress of the European Society for Medical Oncology (ESMO), Vienna, Austria, September 28-October 2, 2012. Abstract LBA6.
[2] Pivot X, Romieu G, Bonnefoi H, et al. PHARE Trial results comparing 6 to 12 months of trastuzumab in adjuvant early breast cancer. Presented at the 37th Congress of the European Society for Medical Oncology (ESMO), Vienna, Austria, September 28-October 2, 2012. Abstract LBA5.


  c1998- CancerConsultants.comAll Rights Reserved.
These materials may discuss uses and dosages for therapeutic products that have not been approved by the United States Food and Drug Administration. All readers should verify all information and data before administering any drug, therapy or treatment discussed herein. Neither the editors nor the publisher accepts any responsibility for the accuracy of the information or consequences from the use or misuse of the information contained herein.
Cancer Consultants, Inc. and its affiliates have no association with Cancer Info Translation References and the content translated by Cancer Info Translation References has not been reviewed by Cancer Consultants, Inc.
本資料は米国食品医薬品局の承認を受けていない治療製品の使用と投薬について記載されていることがあります。全読者はここで論じられている薬物の投与、治療、処置を実施する前に、すべての情報とデータの確認をしてください。編集者、出版者のいずれも、情報の正確性および、ここにある情報の使用や誤使用による結果に関して一切の責任を負いません。
Cancer Consultants, Inc.およびその関連サイトは、『海外癌医療情報リファレンス』とは無関係であり、『海外癌医療情報リファレンス』によって翻訳された内容はCancer Consultants, Inc.による検閲はなされていません。

翻訳担当者 徳井陽子

監修 原 文堅(乳癌/四国がんセンター)

原文を見る

原文掲載日 

【免責事項】
当サイトの記事は情報提供を目的として掲載しています。
翻訳内容や治療を特定の人に推奨または保証するものではありません。
ボランティア翻訳ならびに自動翻訳による誤訳により発生した結果について一切責任はとれません。
ご自身の疾患に適用されるかどうかは必ず主治医にご相談ください。

乳がんに関連する記事

欧州臨床腫瘍学会(ESMOアジア2024)ハイライトの画像

欧州臨床腫瘍学会(ESMOアジア2024)ハイライト

ESMOアジア会議2024は、アジア地域における集学的腫瘍学に特化した年次イベントである。新しい治療法、特定のがん種の管理に関する詳細な議論、アジア全域を対象とした臨床試験、アジア地域...
喫煙はいかにして乳がん放射線治療を複雑にするのかの画像

喫煙はいかにして乳がん放射線治療を複雑にするのか

放射線治療は基本的ながん治療のひとつであり、乳がんを含むさまざまながん種での治療に用いられている。 
放射線治療は、放射線(通常はX線)を用いてがん細胞のDNAを損傷させ、がん細胞を破壊...
がんにおけるエストロゲンの知られざる役割ー主要な免疫細胞を阻害の画像

がんにおけるエストロゲンの知られざる役割ー主要な免疫細胞を阻害

エストロゲンは、その受容体を持つ乳がん細胞の増殖を促進することが知られているが、デュークがん研究所による新たな研究では、エストロゲンが、他のがんと同様に、受容体を持たない乳がんにおいて...
乳がん個別化試験で、免疫陽性サブタイプにDato-DXd+イミフィンジが効果改善の画像

乳がん個別化試験で、免疫陽性サブタイプにDato-DXd+イミフィンジが効果改善

早期乳がんに対し、抗体薬物複合体Dato-DXdと免疫チェックポイント阻害薬デュルバルマブの術前併用療法が有用である可能性がI-SPY 2.2試験で示された。乳がんは、米国およ...